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連載の終了と先日のコンサート

 あっという間に今年も残り2週間ほどとなってしまいました。
 1年の振り返り振りはまた改めて書くとして、今日は前回の雑記の最後に書いた通り、私自身の活動について少し書いてみたいと思います。

 今年は一年間、東京国際芸術協会会報「Tiaa Style」という会員向けの小冊子にてエッセイの連載を担当していました。会員しか読めないものなのですが、より多くの方にお読みいただきたいと思い、中から6篇、noteでも公開しました。駆け出しの物書きにとって、連載という場をいただけたことは本当に嬉しいことでした。
 公開されたものを読んでくださった方はお分かりの通り、今回の連載では、毎回、私が感銘を受けた演奏会や録音について、実際の人生と結び付けながら書くというスタイルのものがほとんどです。もちろん、演奏の内容について感じたことのみをまとめることもありますが、基本的には、これが私が音楽について書く時の姿勢です。よい演奏というものは、非日常の体験を与えてくれるものでありながら、聴き終えた後の自分の生き方や感じ方を変えてくれるものだと思うからです。
 私が音楽について書く最大の動機はそこにあります。音楽は、単なる娯楽や時間つぶしではない。音楽によって救われる人がいる、音楽には人生に影響を与える力がある。今回の連載では、私が暗い人間であることもあり(笑)、「孤独」だとか「不安」、「寂しさ」というものを少し強調しすぎたきらいもありますが、そのことを、音楽に詳しくない人にも知ってもらえれば、音楽に専門的になるあまりにこの根源的なことを忘れがちになってしまう人にもそれを思い出してもらえれば、という思いがあるのです。まあ、もっとシンプルに、いい演奏を聴くと自然と「書きたい」という思いがわき上がってくる、というのが出発点なのですが。大体、名演奏を聴いた帰り道は言葉が巡っています。
 しかし、音楽について書いていると、必ずある矛盾にぶつかります。音楽が音楽たるゆえんは、表現が音によってなされるということであり、それを言葉で説明できてしまうのであれば、その音楽の固有性の意味を失います。というより、言葉で音楽を捉え尽くすことは、本質的には不可能です。それを承知の上で、それを乗り越えようとすると、言葉でその音楽・演奏を描こうとすると、自分の中で感じたことが深まり、音楽についてのいい文章が生まれるのかもしれません。
 他者の演奏のことを中心的に書いているわけですが、そろそろ自分自身の音楽活動や音楽探求の中で感じたこともエッセイに書いていければと思い始めているところです。
 ところで、今回の連載の公開ですが、思ったより閲覧数が伸びず、ちょっと残念に思っています(笑) エッセイによっては、結構読んでいただけているものもあるので、未読のものもご一読いただければ幸いです。一篇1000字程度なので、すぐ読めます。

 演奏の方では、一昨日、畏友の濱島祐貴さん(作曲・二胡)との舞台に立ちました。トップの写真はそのときのものです。濱島さんは桐朋で出会った1つ上の先輩で、真剣な音楽談義から他愛のない話までできる、プライベートで親交が深い友人でしたが、以外にも共演は今年の春に初めて実現しました。今回は2回目の共演で、小品にスポットを当てた演奏会でした。
 ソロでは、今年久しぶりに取り上げたショパンと、まだ付き合いの浅い北欧の作品(シベリウス、グリーグ)という、ちょっと私としては珍しい?選曲をしてみました。師である田部京子先生の影響もあって、北欧の作品、特にグリーグの作品に惹かれているところなので、今後も取り上げていきたいです。
 濱島さんとの共演では、とても心地よくアンサンブルを楽しみましたが、中でもラフマニノフの『ヴォカリーズ』では、本当に音楽を「共有」できたように感じました。濱島さんと一体になって、誰かと合わせているということをある意味忘れて、音楽そのものに没入できたというか。。聴衆の方にもその共感が伝わっているといいのですが。。(笑)
 今回は、後半に「小品の魅力」というテーマで対談もしました。ちょっと、絞られたテーマで、専門的な内容を含んでいたので、音楽に詳しくない方にとっては難しい、ピンと来ない内容になっていなかったかなと心配もしていますが、演奏のあとに講演や対談を設けるこのスタイルの演奏会は今後も開いていきたいと思っています。私は物書きでもあるので、言葉でも言いたいことがいろいろとあるんですね(笑) 演奏後ですと、寛いだ気分で話せますし、意外と、演奏者の声が聞きたいという聴衆の方は少なくありません。今度は、音楽と人生の関わりや、芸術と社会の関係について語りたいなと考えているところです。
 実はこの日、「Tiaa Style」での連載でその作品の初演について書いた、作曲家の向井響さんも、一時帰国されたその日にも関わらず駆けつけてくださり、嬉しいサプライズでした。

 指導については、これ以上書くと長くなるのでまた改めて。    

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