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修煉愛情とともに


中国語で航空事故は「空難」と表現されます。空の難。

航空会社に勤めていると、航空事故のニュースには敏感にならざるを得ません。事故の規模にもよりますが、取り返しのつかない大事故となった場合には、会社の将来にも影響を及ぼします。安全運航の前提が崩れてしまえば、そもそもの、そこで働く使命感すら揺らいでしまいます。

林俊傑(JJ LIN)の2013年の発表曲『修煉愛情』は、彼が自身の経験を元に作った歌です。

彼の友人が、1997年に起こったシルクエアー185便の墜落事故で亡くなったことに端を発します。この墜落事故では乗員乗客全員が帰らぬ人となりました。林俊傑はある時、新聞に掲載された搭乗者の遺品の中に自分の写真を見つけます。その写真は、以前に彼が友人にあげたものであったことから、林俊傑はその友人の女性が亡くなったことを知ります。

彼女は彼の写真を持って、その便に搭乗していました。そして当時、彼女は林俊傑に想いを寄せていました。けれど、彼は彼女の気持ちには応えておらず、良き友人としての関係でした。そのことも含め、彼女に対して感じた心の痛みや、やり切れなさを、林俊傑はこの歌に込めたと言います。

『修煉愛情』の歌詞には、大切な人を失った人間の悲しみが綴られます。

僕は音楽という道を見つけられたことに感謝している。言葉に出来ない感情を歌に込め、みんなと共有することが出来た。歌が、音楽があって良かった、僕に寄り添って力をくれた。もしこのような方法で気持ちを託すことが出来なかったら、この出来事をどうやって受け止めていたのかわからない。

という趣旨のことを、後に林俊傑は『誰是大歌神』という音楽バラエティ番組にて語っています。

この事故があったからこそこの歌が誕生した、と言ってしまうと、事故の事実を肯定的に捉えているように聞こえてしまいます。そうではなく、墜落事故は絶対に起こってはならないものです。悲劇が事実として起こってしまった場合、人間はそこに何かしらの救いを求めるもので、その過程で生まれるものは確かにあると思います。ただ、誰も初めから自然災害やテロ行為を望んだりはしません。

望まない事故から生まれた救いの曲、だからこそ、そのメロディーには切なさとやり切れなさが溢れます。

林俊傑のこの曲は、いつも私に、守られなければならない空の安全の尊さと、悲しみを昇華させる音楽の力の偉大さを思い起こさせてくれます。

あらゆる航空事故でこの世を去られた方々へ哀悼の意を表すると共に、今日も世界の空が平和であることを祈っています。

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