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生物多様性条約の国際ルール形成の構図ってそういうことだったのかぁ

ども、しのジャッキーです。

たまに、図書館にいって、気になるカテゴリーの書棚を眺めると新しい発見があっていいなぁ、と思いました。脱炭素、発電・送電の仕組み、生物多様性あたりにアンテナを立てて図書館行ってきました。

んで、「生物多様性」ってキーワードで見つけたのが「生物多様性を問いなおす ――世界・自然・未来との共生とSDGs (ちくま新書) 新書 – 2021/1/8、高橋 進 (著)

当方のnoteでも、過去に何度か記事を書いている生物多様性ですが、実は、まだそのトピックで1冊も書籍を読んだことがありませんでした。ということで、発行年が比較的最近(2021年1月)だったので、この書籍を借りてきてみました。

本書が私に与えてくれた新しい視点

これまで自分で調べていたTNFDとかの文脈だと、以下みたいに、グローバルのリスクだよね、という側面からの知識が主でした。

一方で、本書から得られた視点は、「高い生物多様性資本を持つ国(なかでも特に発展途上国)」 vs 「生物多様性の資本を多く持たない国(特に先進国)やグローバル企業」という構図でした。

バイオパイラシーという視点

本書の冒頭に、に以下の記載があります。太字は、篠崎がつけたものです。

大航海時代以降、ラテンアメリカ、アフリカ、そしてアジアの生物資源は、ヨーロッパ諸国に略奪・独占されてきたが、現代ではグローバル企業(多国籍企業)がこれに代わっている。こうした先進国・グローバル企業の生物資源への対応に対して、途上国はバイオパイラシー(生物資源の海賊行為)として非難し、生物資源の権利(原産国の権利)を奪い返そうとする立場をとり、南北対立が続いている。しかも、米国は未だに自国の産業界保護のために生物多様性条約を批准していない。それどころか、「国益」重視の援助や「自国第一主義」の主張が世界的にも台頭してきている。
「生物多様性を問いなおす/高橋 進 (著)」より引用

バイオパイラシーについてもう少し詳しく書かれている部分を抜粋(太字は篠崎による)します。

途上国は、発展を犠牲にして生物資源を保全してきたのは自分たちで、その資源を利用してきた先進国やグローバル企業は利用のための技術やそこから生じる利益を資源の原産国である途上国に還元すべきとし、利益をむさぼる企業の行為をバイオパイラシーと非難している。こうして、条約に生物資源原産国としての途上国の権利認識、先進国が生物資源の活用により獲得した利益および技術の途上国への還元・移転などを盛り込むよう主張した。
「生物多様性を問いなおす/高橋 進 (著)」より引用

1992年、生物多様性条約の成立

ここでいう条約とは生物多様性条約のことです。さて、上記の状況でつづいた条約交渉について以下のように書かれています。(太字は篠崎による)

国数で勝る途上国グループの抵抗から、条約交渉は暗礁に乗り上げたかに見えた。しかし、1992年6月にリオ・デ・ジャネイロ(ブラジル)で開催予定の「国連環境開発会議(地球サミット)」までに交渉をまとめ上げないと条約の成立は危ういとの焦りは、条約交渉参加国の共通の認識だった。地球サミットに間に合うよう作成を目指した条約では、制作過程においての先進国と途上国との完全なる合意は先送りにされた。
この結果、多くの条文に「可能な限り、かつ、適当な場合には」との但し書きが随所に挿入されて拘束力が弱まるなど~中略~いわば先進国と途上国との妥協の産物といえる条約案が作成された。最終的な条約の目的は、生物多様性の保全生物多様性構成要素(すなわち生物資源)の持続可能な利用、そして遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分3本柱として合意された。
「生物多様性を問いなおす/高橋 進 (著)」より引用

条約は成立したものの、多くの対立的事項が積み残しであり、それらを継続して話し合う場がCOP(Conference of the Parties)であると。私は、COPって一つだと思っていましたが、条約事にCOPがあるんですね。なんか国連気候変動枠組条約が有名すぎて、イコールCOPって思っていました。

2010年、名古屋議定書の意義

さて、この生物多様性条約のCOP10(2010年10月)が名古屋で行われ、本書では、その意義を以下のように記載しています。(太字は篠崎による)

条約成立(1992年)以来、というだけでなく大航海時代以来、の生物資源の原産国(途上国)と消費国(先進国)との間の懸案だった「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS:Access and Benefit-Sharing)」のルールが、課題は残しつつも「名古屋議定書」として採択された瞬間だ。
「生物多様性を問いなおす/高橋 進 (著)」より引用

ちなみに、ルール化において、以下の妥協点があったと書かれています。

途上国が求めた植民地時代など議定書発効前に持ち出されて利用された資源は対象にならず、また改良製品(派生品)は個別契約時の判断となるなど、妥協点も多い。結局は、先進国企業にとっても生物資源を利用した商品開発の可能性が確保され、原産国にとってもの生物資源提供により利益の確保になる、といった両社の利益(ウィン・ウィン)を考えた妥協の結果だが、この妥協が今後の運用に影を落とさないことを祈るばかりだ。
「生物多様性を問いなおす/高橋 進 (著)」より引用

TCFDとTNFDと国際ルール形成の構図

さて、こういった背景を知ると、生物多様性に関する財務情報の開示を求めるTNFDと、気候変動に関する財務情報の開示を求めるTCFDは、かなり趣きが違うな、と思いました。

気候関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Climate-related Financial Disclosures:TCFD
自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)

気候変動は、先進国においても大きな被害を受けるものです。また、先進国がCO2をバンバン出して成長してきたのに対して、発展途上国に対しては、安価な化石エネルギーの使用を抑え込む、という側面もあります。もちろん、水位上昇によって国土が減少するリスクにある国は、先進国も発展途上国にもある問題でしょう。

これに対して、生物多様性は、発展途上国が主に被害を受けていて、先進国の搾取してきた権益を奪取にかかっている、という側面があり、気候変動とは逆の構図になっているという見方もあるんだな、と思いました。これは国際ルール形成を見る上では、とても重要な観点だな、と思いました。

国際ルールの形成上、議決権は国単位にあるわけなので、一般に、その強みを生かしているのはEUだと思います。これに対して、生物多様性は、発展途上国に共通する特徴が生物多様性であり、それは搾取してきた先進国との対立構造にあり、議決数という数の面で発展途上国グループが優位にあるというのは非常に興味深い構図だな、と思いました。

とはいえ、以下にあるようにグローバルリスクはお互いにつながりあっているという側面もあります。ということで、こういった国際対立の構図もありますが、人間にとってより良い地球であるだけでなく、他の生物にとってもより良い地球であることを促す相互改善のルールが回るといいな、と思うばかりです。

図:World Economic Forum, 2022, The Global Risks Report 2022 17th Editionより

おわりに

このほか、当方のESG/SDGs/CSV関連の記事は以下のマガジンにまとめていますので、もしよかったらのぞいてみてください。

ということで「形のあるアウトプットを出す、を習慣化する」を目標に更新していきます。よろしくお願いします。

しのジャッキーでした。

Twitter: shinojackie

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