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終わりの街

物心ついた頃から街はゆっくりと終わりへと向かっていた。

太陽はいつも午後4時の場所で赤く燃え、街一帯を焼いていた。その赤だけが不釣り合いなくらいに眩くて、長く伸びる影の黒と相まって、どこか世界のおしまいを予感させていた。家路へ帰り行く人々の群れが、砂と小石混じりのざらざらとした地面に連なって乾いた足音を鳴らす。労働者の影はいつもどこか寂しい。皆一様に顔がなく、無機質な足取りで溜息と別れを口にする。でも殆どは無口な人々の流れ。幼い日の僕は当たり前のように、そんな街の景色に見慣れていた。地平線上にぶら下がる、長い長い最後のひと時。僕はこの街がやがて終わってしまうことを、ぼんやりと肌で理解していた。

気が付かない内にひっそりと消えてなくなる何かが街にはあった。その一方で、街の人々の殆どはどこへも行こうとはしない。それでも、市場の店がぽつぽつと空白に変わっていった。高い建物からはひと気がなくなって、かわりにひんやりとした暗がりを生み出した。西の空、昨日と同じ低いところで太陽は燃え尽き続けている。赤く燃えているけれど、太陽は既に灰だった。

「いつか本当の夜が来てしまう」

僕らは互いにいつも、そんな風に街の終わりを囁き合った。けれど、その本当の夜が来る日はいつだって今日ではなかった。明日でもなさそうだ。そんな日は永遠に来そうにもないし、想像もつかない。だけど同時に、その日は既に訪れているのだ。ジリジリと街を焦がす重くて熱い太陽は、もう自力で空に居続けることはない。緩やかに落下している。誰もはっきりと気付けないような、緩慢な速度で。でもみんな知っていた。そして「世界はもう終わるだろう」と最後の日の予感ばかりを口にしている。

石垣の上から、変わらない街の光景を眺めた。空が青かった頃の思い出を、人伝いに聞いたことがある。それは一体どんなものなのだろうと、僕は考えた。街の赤に染められて、同じ赤をした鳥が一羽空をかけて行く。鳥の行き先を目で追いながら、知らないうちにぽっかりと空いた何もない街の空間を数えていた。まっさらな土地に消えてしまった思い出を想像で組み立てる。廃墟ですらないこの街。明日目が覚めたら一緒に僕も消えてしまうんだろうか。それでもいいような気がした。そういう星の下なのかもしれないと、僕は僕と街とのさだめをひと括りにして思った。

不思議と悲しくはない。

感情は、硬くつぼみのまま、僕の奥底で眠っているようで。

旅立つための荷造りは、きっとこの街が死んだ後。

でもどこへ行くというんだろう。

きっと僕もこのまま、この街で終わってしまうというのに。



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