次の松本人志は誰かという話

これまで何度も議論されてきたテーマについて改めて考えてみる。

松本人志というバラエティ番組における最重要人物のその次を、誰が担うのだろう。島田紳助が突然テレビから姿を消したように、彼がテレビからいなくなる日もいつか来るかもしれない。その時のために、考えておかないといけない。次に天下を取る芸人は誰だろう。

松本人志については一度ここでも書きました。

ダウンタウンの跡を継げそうな芸人といえば、ウッチャンナンチャン、くりぃむしちゅー、爆笑問題、ネプチューン、さまぁ〜ず、有吉、今田耕司、東野、ナインティナイン、下の世代だと、バナナマン、おぎやはぎ、タカアンドトシ、ブラックマヨネーズ、・・・あたりだろうか。

思いつくメンバーをざっと考えてみるが、だれがその大きすぎる存在を埋めることができるだろう。Mー1とキングオブコントの審査員を務め、プレイヤーの能力も抜群、作家としてもIPPONグランプリ、すべらない話、ドキュメンタルなど素晴らしいヒット企画を飛ばした。

余談になるが、松本がキングオブコントで度々口にする、「もう少し分かりやすく笑わせてくれたら・・・」という言葉は、彼の作家としての視点だ。大喜利を大会形式にして競い合わせたIPPONグランプリ、ガヤの入らないフリートークの祭典すべらない話、にらめっこを極限のレベルに高めたドキュメンタル、「笑ってはいけない」というルールのみの年末特番など、彼の企画したものはどれもルールがシンプルでわかりやすい。

テレビというマスメディアを舞台に、様々な背景を持つ視聴者のことを考えるからこそ、わかりやすく面白いということにこだわる。コアなファンは難解なコントやお笑い偏差値の必要な漫才を求めるが、子供から大人まで一緒に見て笑えるものが、彼のお笑いの理想形なのだ。

その理想には、自分の笑いをとことん突き詰めて考えていた「大日本人」「しんぼる」「さや侍」「R100」の映画監督作品や松本人志のコントMHKに対する世間の酷評が影響しているのだろうか。映画作品はいずれもフランス映画に近い感覚で、明確なテーマを見せずに展開し、視聴者の集中力や理解力を必要とするため、大衆には受けなかった。「アクション」や「ラブロマンス」「推理ミステリー」などのジャンル映画しか見ていない人にとっては、展開が見えてこない映画は理解しにくかっただろう。

もちろん彼はそのことを自覚しており、だからこそ大衆向けのテレビから離れて映画監督作品を作った。映画の教養がある人や笑いを理解する人には受けると考えた。けれど、その頃には松本人志自身がすでに大きな存在になっていて、テレビで見せるような「分かりやすい笑い」を求めた観客が映画館へ行き、酷評の嵐を生んでしまった。

その時、彼は自分の作品が良くも悪くもマスに触れてしまうことを悟ったのだろう。それ以降、彼は徹底してわかりやすく、シンプルな笑いにこだわっている。



そんな彼のイズムを継げる芸人は、本当にいるのだろうか。


メンツを振り返ると、大阪時代からダウンタウンのそばに居て、主戦場を東京に変えてもその側を離れない今田と東野。随一の好感度の高さを誇り、コンビでネタ番組に関わり続けるウッチャンナンチャン。今でも寄席に出続け、ラジオ、文筆家、映画監督とマルチな才能を見せ続ける爆笑問題。

そうそうたるメンツの中で、私が推したいのは、くりぃむしちゅーの有田哲平だ。

理由はただ1つ、有田哲平がゴールデン、深夜番組の双方の企画に参加し、素晴らしいヒット企画を連発しているところだ。プレイヤーとして番組を引っ張るだけでなく、作家として番組全体を俯瞰する視点を持つ、これが有田哲平の魅力だ。

プレイヤーとしての視点と、作り手の視点の両方を持つ芸人は少なく、貴重な存在だ。有田にはセンスがあるように振る舞わないという賢さもある。司会者として振る舞う時の彼は、演者の魅力を引き出すことに全力を注ぎ、決して前に出てこない。上田とのトークも面白いし、周囲の芸人との関係性も良い。

テレ朝、フジ、日テレ、TBS、NHK全てで司会としてレギュラー番組を持つ芸人でもあり、私が指摘するまでもなく、すでに上田とともに着々と天下への道を歩き始めている。

現在の、「松本人志が認めたお笑いは正解」という価値観が、いつか変わるかもしれない。そうなると、また日本のバラエティが変わる。笑いの基準が変わる。

その先で生まれるバラエティ番組が、楽しみだ。

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