肥満が地球温暖化に関与する

理解しにくいタイトルになってしまいましたが、大体同じ趣旨の論文が出たので書いてみます。以下にPubmedの記事も貼りますので、興味のある方は読んでみてください。

肥満を揶揄するような記事ではありません。肥満への意識改革を目指す公衆衛生学的な視点が、地球温暖化に紐付けて語られる時代になったということです。それほどまでに特に欧米では肥満は大きな社会問題になっているということです。


個人的には、肥満は必ずしも個人の責任ではないと考えています。

肥満は複合的な因子の組み合わせの結果で、その因子に子宮内環境や、生家の経済状況、腸内細菌叢など個人ではどうしようもできない因子も含まれており、その結果の原因を全て個人に求めるのは良くないだろうという考えです。

カロリーの高いものばかり好むから、運動をしないから、間食が止められないから「全て自己責任で」太っているのではなく、肥満には個人ではどうしようもない因子(同じカロリーを摂取しても体重の変動が他人と異なるなど)も含まれており、全ての責任が個人にあるわけではないと考えています。

この考えの終着点は、肥満は個人の責任ではないのだからしょうがない、ではなく、個人の責任ではないからこそ、他の疾病と同様に肥満に対して外部からの医療的な介入が必要だ、というところであるべきだと思います。

風邪をひいたら風邪薬を飲むように、肥満には運動療法が処方ができる世の中になると良い。

「風邪をひくのは精神がたるんでるからだ!」という精神論が前時代的に聞こえるように、「肥満は自堕落な生活が悪いんでしょ」という考えが古いものになればいいなと思います。

もちろん悪い生活習慣は肥満の原因になりますので、肥満を治療対象として、生活習慣の改善を積極的に促す必要があります。重要なのは、風邪と同じように肥満患者を肯定も否定もしないということです。肥満をフラットな視点で、治療すべき疾患として理解する必要があります。


肥満患者にはたくさんのリスクがあります。耐糖能異常、脂質異常症、高血圧症、運動器疾患、そこから派生して、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、脳血管障害、心血管障害・・・など重大な疾患との関わりがあります。テレビでも取り上げられる疾患で言うと、脳梗塞や心筋梗塞、狭心症などのリスクがあります。

肥満患者に対して早期に適切な生活習慣の改善を促すことで、上記のような「防ぐことが可能な」疾患を減らすことができます。小さな視点で見れば、本人の健康が向上し、大きな視点で見れば、いずれ医療費の大幅な削減が期待できます。

ここまでが肥満に対する医療界のアイデアでした。


今回の論文はさらに大きな視点で肥満を見ています。肥満が温室効果ガスを増加させ、地球規模の環境問題に関わると指摘しました。

その中身を紐解くと、肥満はエネルギーの消費量が多く、食料の生産と輸送により多くの燃料がかかり、また、自動車や電車、飛行機などを使って移動する際にもより多くの燃料が必要になる、ということのようです。ここまではなんとなく想像できるような気がします。食べる量が多い分、より多くの燃料コストがかかり、過体重を動かすにも、より多くの燃料コストがかかるということですね。

ここからの試算がすごい。

Obesity is associated with ~20% greater GHG emissions relative to the normal‐weight state because of increased oxidative metabolism, food intake, and fossil fuel use for transportation.
Globally, obesity contributes to an extra ~700 megatons per year of CO2 equivalent, which is about 1.6% of global GHG emissions.

適正体重と比べ、肥満者は温室効果ガスの排出が最大で20%高い。世界的に、年間約700メガトンのCO2換算に寄与し、これは世界のGHG排出量の約1.6%になる。

大体直訳すると上記のようになるのですが、肥満者を減らすことで、1%程度の温室効果ガスを削減できるのです。これは大きな数値だと考えます。


今後も様々な切り口で肥満が語られていくと思います。その根底にはいずれも、「肥満は治療すべき対象であり、外部から積極的に関わるべき課題である」という使命感があります。

そして肥満は、医療関係者だけでなく、全ての人が考えるべき課題です。一人一人が当事者であり、また、生活習慣に関わる様々な役職がこの問題に関わることができます。ジムのインストラクターや栄養士だけでなく、教育者、サラリーマン、農家など様々な役職の方が、肥満者の体重減少を目指すことで、課題は解決に近づきます。


この論文が、「デブのせいで地球が熱い」などのネタの材料で終わってしまうのではなく、肥満者もそうでない方も、肥満に対する意識を変える一つのきっかけになるといいなと思います。




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