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「スマスイ値上げ反対署名提出」の報道をうけ、国内外のシャチ飼育の変遷などを考えてみた。 #しかし高校生以上3100円はないわ #幼児1800円はもっとないわ


 神戸市の須磨海浜水族園が民営化で入園料の大幅な値上げが予定されていることに対し、市民団体が見直しを求める署名を神戸市に提出しました。
 「須磨海浜水族園」は開業から60年以上が経過し、老朽化などにより建て替えが必要となりましたが、市は財政負担などの問題から民営化する方針で、今年9月に7社からなる共同事業体が優先交渉権を獲得しました。
 リニューアルは5年後で、入園料は大人は1300円から3100円になるなど、現状の2倍以上値上げされる予定です。
 これに対し市民団体は「気軽に行けなくなる」として計画の見直しを求め、7031人分の署名を集め、11月22日に神戸市に提出しました。
 「地域住民の声を聞いてからもう一度本当に必要な再整備がどういう形か考え直していただきたい。」(須磨水族園を考える会 大竹奈緒子代表)
 神戸市の担当者は「今後、計画を進めるにあたり市民の意見があれば受け止めていきたい」としています。

「建て替え」とはいっているものの、共同事業体に移管されたあとは民営化して「市営のスマスイ」ではなくなるので値上げは至極当然なのだけど、「民営化反対」ではなく「値上げしないでほしい」という署名が提出されたとのこと。

 民営化されたのちの予定入園料は高校生以上3,100円、小中学生と幼児一律1,800円。これじゃ「休みの日に友だちどうしででかけて、海水浴のついでに水族館を利用」は無理めのコース。せっかくの休日、海の家だって利用したいし、かき氷だって焼きそばだって食べたい。なのに水族館だけで高校生以上3,100円小・中学生なのに1,800円保護者一人が幼児一人つれてるだけで4,900円

 海遊館2,300円ニフレル2,000円京都水族館2,050円。公共交通網で移動する地元っ子にとって、スマスイの後継施設が3,100円は現実的ではないなあ(現在18歳以上1,300円)。

 もしかして、💡5年後にはお小遣い10倍になってる?!😆
 まさかー😩
 ああ、神さま仏さま💫

 そして、娯楽に割くお財布の中身を心配する気持ちはわかりすぎるぐらいわかるけれど、できれば、いまや「改装までに死滅待ち」になった高齢ラッコの生存期間中の福祉と、新しく導入される予定のシャチのことについても、すこし心を分けてほしい。

 シャチ導入をやめてもらえれば利用料金はすこし安くなり、シャチをいれる予定のプールを国内にたくさんいるハンドウイルカに割り当てて繁殖と保全活動に注力してもらえれば、国内既存イルカ個体群の福祉も向上するかもしれない(サンケイビルはじめ共同事業体各社におかれましては、須磨へ進出する意味がまったくなくなるかもだけど)。

第3回須磨海浜水族園・海浜公園再整備事業選定委員会(優先交渉権者選定)議事要旨(PDF)

 正確な数はわからないけど、今、日本にはハンドウイルカが200頭ぐらいいる。

 そう、あれは2015年

 国内の水族館に200頭以上いても繁殖によって飼育下個体群を維持できず「野生から供給がなければ、鯨類を飼育する施設は立ち行かなくなってしまうんだ!」と言っていたのは、なにあろう日本の鯨類飼育施設だったし、そしてとりわけ関西の人たちは広義での地元・和歌山県太地町に連帯を示して「世界協会はわれわれの娯楽を奪うな!」と怒っていたよね。みんな、おもいだそう。

 ラッコだって繁殖させられないまま高齢化し死ぬのを待つばかりになったのに、200頭以上いるイルカの個体群維持だって困難なのに、なにをもって一家族しかいない国内飼育下シャチが繁殖によって個体群維持可能と考えられるのか。

 なんといっても日本の飼育下にシャチは7頭しかいない鴨川に4頭名古屋に3頭、どれも鴨川のステラとビンゴの血を引く同一血統の個体群だ。

 「世界の飼育下シャチは約60頭いる

 けれど、うち20頭がいるのは繁殖プログラムを終了した米シーワールドスペインとフランスの飼育施設は今後の繁殖プログラムについて明言はしていないけれど、いずれも活動を環境保全へシフトチェンジしつつある。ロシアや中国の飼育施設にいるシャチは太平洋で捕獲された個体群で、アイスランドから購入した鴨川の個体群とはグループが異なる。中国はロシアからシャチを購入していたが「ロシア極東イルカ監獄」事件をきっかけに、ロシアも今後は研究目的以外の捕獲は行わないことになったので、おそらくロシア・中国の飼育施設にも当面は新しく野生から供給されることはないだろう。

 仮にどこかのオスから精子をわけてもらうにしても、国内で母体になりうるメスはみんなステラ・ビンゴの血統。なので生まれても生まれてもステラ・ビンゴ一家が増えるだけ。そして、ステラ・ビンゴ一家での中で唯一のオスであるアースにはいつまでもメイティング相手は現れないし、新しくオスが生まれれば、アース同様、繁殖適齢期になる前に他の家族とは離して飼育しなければならない。また、飼育下繁殖の確立ができていない生物の出産リスクは大きい。死産、早産、流産で母体まで失ってしまうことも考えられる。

 ここで、これまでの世界のシャチ入手ルートはどうだったのか振り返ってみよう。世界的な変遷はザッとこんな感じ。

 ’60s 北米沿岸で捕獲 → ’70s 保護法の施行により北米沿岸で捕獲しなくなる → 大西洋でニシン漁の競合生物として駆除されていたが、’70s 中頃よりアイスランド沿岸捕獲と生体販売がはじまる → ’70s 後半日本沿岸で生体捕獲がはじまる → ’80s 北米主要施設が野生由来個体を購入しなくなる →

 買い手が減りアイスランド畜養施設では販売前の死亡で生体販売自体が割りに合わなくなってくる & 保全団体の働きかけでアイスランド政府も捕獲と販売を容認しなくなる → ’89 日本とフランスへの販売を最後にアイスランド産シャチの生体販売終了 →

 ワシントン条約附属書2記載になり研究目的以外は捕獲できなくなる → ’97 日本で5頭捕獲され「研究目的」で国内水族館が入手(全頭’08年までに死滅)→ ’18 ロシア「イルカ監獄」発覚 → ’19 世界的な批判を受けたのち「監獄」終了、畜養個体のリリース完了(以後ロシアも研究目的以外の捕獲はしない、という話)

 そして、捕まえられたシャチは水族館でどれぐらい生きるのか。北米沿岸やアイスランド沿岸で捕獲されたものは生き残って移動した個体の記録しか残っていないので、日本沿岸で捕獲された個体の生存期間をみて考えてみよう。

 日本沿岸で捕獲され水族館に渡った個体はわかっているものだけで19頭いて、捕獲後の生存期間が6ヶ月未満のものが9頭(うち死産・流産後に死亡した捕獲時妊娠個体2)、5年未満で死亡した個体4頭(うち捕獲時妊娠個体1、生まれた子は誕生後10日で死亡)、10年未満で死亡した個体2頭10年強で死亡した個体2頭20年未満で死亡した個体1頭、最長で捕獲後25年強生存(太地から名古屋へ移動したナミ、死亡時推定年齢28歳)。

 おおむね半数は捕獲されて半年以内に死んでいて妊娠個体が捕獲後に生存する率は著しく低く生まれた子はまず生き残らない(統計的に有意な数値が出るまで捕獲しなくていいです)。

 国内のシャチの飼育繁殖が鴨川だけでうまくいったのは、パティが死にビンゴ1頭になったあとに同時期・同海域で捕獲されたシャチを4頭購入し、群れで過ごせる環境が整っていたのと、適応能力の高い個体が複数いたことが幸いしたのだとおもう。アドベンチャー・ワールドには繁殖や群れ飼育に適う環境が最初からなかったし、太地の初期の個体は捕獲後の生存期間がどれも著しく短い

 飼育下のシャチはどれぐらい生きるのか。

 ある個体が長生きしているからといって「○○は△△年生きる」とは断言できない。しかし、飢えや乾きとは無縁で、野生よりも安全な飼育下では、野生の平均的な生存年数よりも長命する傾向にあることはすでにいろんな動物でわかっている。その動物が環境に適応できていれば、のはなしだけど。

 現在の飼育下最年長シャチはマイアミ・シークアリウムのLolita、推定年齢53歳。'70年8月に北米沿岸で捕獲されたのちいまの飼育施設に購入され、現在に至る。かつて鴨川で飼育されていたチャッピー('74年死亡、推定年齢5歳)ジャンボ('74年死亡、推定年齢9歳)とおなじ時期におなじ海域で捕獲されている。

 次いで、サンディエゴ・シーワールドのCorky2、推定年齢52歳。 69年12月に北米沿岸で捕獲されて、Marineland of Pacific(87年閉業)からサンディエゴSWに移動して現在に至る。

 そして、オーランド・シーワールドのKatina、推定年齢43歳。

 カナダ・オンタリオマリンランドのKiska、推定年齢43歳

 Kiskaは鴨川のキング('83死亡、推定年齢5歳)カレン('87死亡、推定年齢9歳)、映画で話題になりその後リリースされたKeiko('03死亡、推定年齢25歳)とほぼ同時期にアイスランドで捕獲。

 サンディエゴ・シーワールドのUlises、推定年齢42歳。

 アイスランドの生体販売施設で、捕獲と移動の記録が残ってるシャチだけでこれだけいる(1頭死亡、2頭リリース)。生き残って移動したものの記録しか残っていないので、捕獲時や蓄養前、蓄養まもなく死んだ個体数は不明。
Orca Pod Wiki 調べ)

 国内におけるシャチ飼育の変遷はこんな感じ
Orca Pod Wiki日本の水族館におけるオルカの飼育 調べ)

 最後に、スマスイの後継施設を誘致する神戸市としては、大きくてわかりやすいスター動物がくるなら1頭でも2頭でも、それらがいかなる状態であっても「分けてもらえるだけで大歓迎」なのだろうが、個人的には鴨川・名古屋から須磨へ数頭分けてそれぞれの群れが今より小さくなってしまったとき、分けられた個体や残る個体らのメンタルや生活の質に影響がでることを懸念している。

 ちなみに神戸市はパンダも貸与期限が迫り「詰み」状態。「スター動物で観光客の動員とインバウンドを」という発想は、これまでそうであったように、きっとこれからも動物をしあわせにはしない。もう21世紀なのだから、そのような発想からはそろそろ離れてほしい。

※このnoteは次の連続ツイートに加筆・修正したものです(それぞれ芋づる式)。

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動物の絵を描いています。http://www.shinobun.com
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