「八月六日に生まれた子」

八月六日の広島は快晴だった。まったく突然のことだった。原爆は地面に着いた時に爆発するのではなく、空中で爆発する。パラシュートのようなものを使ってゆっくりと投下する。
広島の人達は、投下されたのが原子爆弾、つまり核爆弾だとわからなかったから、ピカドンと呼んだ。ピカッと光ってドーンと爆発するからピカドンである。
想像を絶する高熱と爆風。数え切れないほどの人達が即死した。眼球が飛び出した人、内臓が飛び出した人、首が切断された人、ガラス片が全身に刺さった人。一瞬にして全身が黒焦げになった人、髪の毛が燃えた人。喉が渇きすぎて、川や井戸に飛び込んだ人もいた。恐ろしい死というものが町中を覆った。人々はほとんど裸で、顔は誰だか分からないくらい焼けただれていた。
「逃げて、逃げて、逃げなければ死んでしまう」
人々は何故か皆、橋へ橋へと逃げた。放射能を含んだ黒い雨が降った。火事があちこちで起こり、夜になっても町中が燃え続けた。
何年何十年経っても広島は忘れない。町中が死と破壊に覆われた八月六日。
八月六日は祈りの日。毎年黙祷が捧げられる。あまりにもいたましい八月六日。

八月六日に男の子が生まれた。お母さんの両腕の中で眠る小さな小さな命。人間は死んだり生まれたりを永遠に繰り返す不思議な生き物。大勢の人が死んだ日に、可愛い男の子が生まれた。

八月六日に生まれた子。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?