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流産と東洋医学

流産ってなに?

それでは流産はどうして起こるのか。どうしてわたしは流産してしまったのか。

研修医に言われたとおり、流産のほとんどは12週までに起こり、そのほとんどが染色体の異常が原因と考えられている。それは自然淘汰で、生存の難しいいのちの誕生を未然に防ぐメカニズムであるから、辛いけれども未然に防ぐことはできない。
東洋医学では流産の原因、特に3ヶ月までの初期に起こる場合は腎虚を疑うのが基本。腎は染色体やDNAの働きを含んでいるから西洋医学の知見にも一致する。他にも3か月を過ぎてからは脾虚、つまり脾の臓器を支える力が弱っていること、または瘀血と呼ばれる、血の流れが滞っている状態も妊娠の継続を難しくさせる。これは西洋医学的にも母体における流産の要因と考えられている、子宮頸部無力症(子宮と膣のつなぎ目である頸部が、通常よりも緩んでしまうこと)や胎嚢の周りに血液が貯まる絨毛膜下血腫にリンクする。

35歳を過ぎると流産率も急上昇し、38歳という年齢で3人にひとり、と言う計算はかなり現実的なんだと思う。それは老化により卵子の質が劣化し、染色体異常が起こりやすくなっているから。母親の胎内にいる頃に作られ、あとは老化していくだけの卵子に比べ、その都度生産されている精子の質に関してはそれほど年齢は影響しないと言うのに。

先天の精、後天の精

この場合、卵子は東洋医学における精、それも「先天の精」と呼ばれるものと同一だ。先天があるのは後天もあるからで、その名の示すとおり、先天の精が生まれつき備わっていて新たに作ったり、変質させたりするのが難しいのに対し(減っていく一方の卵子や遺伝子レベルで決定されている体質や身体的特徴、疾患など)、後天の精は口にする食べ物や水、空気から日常的に作られ、消耗分を補うことができると考えられて、ライフスタイル次第で量も質も向上させることができる。

東洋医学における「先天の精」と「後天の精」とは、それぞれ生命力や成長発育に関連するエネルギーの異なるタイプを表します。

先天の精は、生まれつき持っているエネルギーであり、遺伝的な要素や母体の胎内環境によって決定されます。先天の精は主に腎臓に蓄積され、生殖機能や免疫力に関与し、生涯にわたって消耗することがあります。

一方、後天の精は、生活環境や食生活、運動習慣、睡眠などの後天的な要因によって影響を受けます。後天の精は主に脾臓や胃、肺などに蓄積され、身体の生理機能や代謝に関与します。

東洋医学では、先天の精と後天の精の両方がバランスよく働くことが、健康維持や病気の予防に重要であるとされています。適切な食事や生活習慣、運動、休息などを通じて、両方のエネルギーをバランスよく補充することが求められます。また、東洋医学には、先天の精を補う漢方薬や、後天の精を補う食材や調理法などが存在します。

先天の精を補ったり質を上げたりするのは難しい。しかしうまく後天の精の力を借りれば老化を遅らせ、消耗を防ぐことは可能である。というのは我々の日々の生命活動の基本は後天の精からなるエネルギーで賄われているのだけど、それが足りてなかったり質が悪くて使えなかったりすると貴重な生命資源である先天の精に手をつけなくてはならなくなるからである。そうなると何もしなくても減っていってるのに、もっと減る。喫煙が遺伝子を傷つけるのは知られているけど、東洋医学的見解でも喫煙は腎を痛め、そこに貯蔵されている精も当然劣化させる。妊活の基本、果ては長寿の秘訣は健康的なライフスタイル、というのも納得。

わたしはといえば、会社員をしていた二十代の頃は菓子パンとコンビニ飯が主食でストレスフルで不規則な仕事環境、運動は全くしないでほぼ毎日飲んでいるような生活で毎日ふらふらだったのに対し、仕事をやめのんびりしたカナダに移住し自営を始めてからはわたし史上最高に健康的であると自負していた。若い頃から体力がなかったので、加齢による衰えを実感することもなく、むしろ健康な妊婦生活が送れるものと思っていた。
しかしよれよれといってもやはり二十代は若かった。まだまだ蓄えのあって鮮度の高かった先天の精のおかげで簡単に妊娠することができたけど、いくら健康で体力に多少自信があっても三十代後半、年齢相応に精は消耗していたのである。

流産、わたしの場合

西洋医学では病名の診断を下すように、東洋医学でも症と呼ばれる病因の診断が行われる。西洋医学が血液検査や染色体検査、超音波検査などの結果から診断を下すのに対し、東洋医学では主に問診、それから補足的に舌診、脈診を用いる。

わたしの場合、過去に流産の経験もないことからも原因は加齢。つまり腎虚と考えられる。ちなみに腎虚には陽の気の不足する陽虚、陰の気の不足する陰虚があって、老化と共に陰陽どちらの気も減っていくのだけど、減り方に大体ムラがあり、その結果陰陽のバランスが崩れて更年期障害と呼ばれる様々な不定愁訴を引き起こすと考えられている。

陽が減っていると冷えやすく疲れやすいのに対し、陰が減っていると火照りがあったりイライラしたりする。余談だけど日本人を含め東洋人は陽虚が多く、冷えに悩む女性がとても多いのに対し、西洋人は陰虚の割合が高く、真冬(しかもカナダのマイナス30度の)でもスタバのアイス入りドリンクを飲んだり破れたジーンズを履いて膝をあわらにして平気なのを見て衝撃を受けた。カナダ人の国民食はバーベキューで、陽の気を作る肉食はもちろんのこと、グリルすることで食べ物の水分、つまり陰の気をカットして食べているのを考えるとなるほどなあ、と思う。

わたしの場合は多くのアジア人女性と同じく陽虚。平熱は35度台と低めだし、寒がり。腎の陽の気は脾の陽の気の元になっていると考えられていて、エネルギー、つまり気血や後天の精を作る脾のはらたきも悪くなってしまう。脾の働きが落ちると気血が不足し疲れやすくなる。

東洋医学における「脾(ひ)」は、消化吸収を司る臓器であり、消化器系や免疫系、血液循環系などに深く関わっているとされています。ただし、東洋医学における「脾」は、現代医学の「脾臓」とは異なる概念です。

東洋医学では、「脾」は五臓のひとつとして位置付けられ、主に胃とともに食物を消化し、栄養を吸収する働きを担っています。また、「脾」は、体内の水分代謝や血液の生成、輸送、免疫機能などにも深く関わっています。

東洋医学では、「脾」は身体の根本的なエネルギーである「気」を生み出す場所でもあり、体内のエネルギー循環系においても重要な役割を果たしています。そのため、「脾」が弱ってしまうと、体力低下や疲労感、消化不良、下痢、免疫力低下などの症状が現れるとされています。

流産の鍼灸治療①流産と切迫流産

初期流産の原因のほとんどが染色体異常であり、残念ながら鍼灸治療によって止めることはできない。逆にいえば鍼が原因で流産するということもない。なので流産の治療というよりは流産の起こりにくい体質作りを妊娠前にじっくり取り組むことになる。治療方針としては腎、気血を補うことが中心となる。まれではあるけど絨毛膜下血が原因で流産した場合は血の流れが悪い状態である瘀血を改善するため、気や血の巡りをよくする治療が施される。

では12週以降に起こるいわゆる切迫流産の場合はどうか。切迫流産とは流産はしていないものの、子宮収縮や子宮口の開きなどの症状が現れ、胎児が流産してしまう可能性が高まっている状態。切迫流産が疑われる場合、妊娠の週数や胎児の状態に応じて、安静や入院、ホルモン剤や抗生物質、子宮収縮抑制剤などの治療が行われる。
東洋医学における切迫流産の原因は任脈と衝脈、二つの奇経が弱っているから。この二つの経路が弱ると胎児に十分な血が届かず、胎児の発達が妨げられてしまう。過労や栄養不足、ストレスや感染症、転倒などが影響する。

まず重要なのは出血や腹痛があればずぐにドクターの診察を受けること。赤ちゃんの生存が確認されれば東洋医学の治療は任脈と衝脈を養うことと、二つの脈に密接に関係した腎の気を補うことになる。胎児が子宮から出る動きは下向き、つまり陰であるのに対し、持ち上げ、留める動きは上向き、つまり陽。なので特に腎の陽気を補うことが重要になる。さらに言えば臓器を支え持ち上げる上向きの気をコントロールするのは脾なので脾を補うのも有効。

用いられるツボは
脾兪(脾を補う)
腎兪、太谿(腎を補う)
中脘+百会(この組み合わせで気を持ち上げる)
足三里(気血を補う)

流産の鍼灸治療②習慣性流産

流産のショックは一度でも相当に大きい。それが二度、三度と繰り返す心理的、肉体的なダメージは計り知れない。流産は出産と同程度に肉体を消耗させる上、精神的なストレスが大きく、結果として女性に出産以上の負荷を与えるのだ。
習慣性流産とは、妊娠初期の妊娠周期で、3回以上流産が繰り返される状態を指す。習慣性流産の原因は複数あり、胚の染色体異常、子宮内膜の異常、免疫系の異常、母体の疾患、生活習慣の問題、ストレスなどが挙げられる。原因が特定できればそれに応じたホルモン治療、免疫治療などが大事で、そうした治療の効果をあげるために鍼灸治療をサポート的に併用するのがいいんじゃないかと思う。

東洋医学でも原因は染色体の異常、つまり先天の精の劣化(そのほとんどは加齢のため)、過労などで腎を痛め、任脈衝脈がきちんと機能しない、栄養失調による血虚、ストレスや外科手術が原因で血の流れが滞る瘀血が主な原因と考えられる。
切迫流産の治療とは異なり、通常の流産のように妊娠する前の体質改善が治療の目的になるから治療自体も時間がかかる。生理が再開してから妊活を始めるまでにどれくらいおくかはドクターによって見解が異なるけど、東洋医学では体の回復プラス体質改善に6ヶ月は時間をおくのが望ましいと言われている。それでも流産を経験すると次を焦ってしまうもの。特に年齢的リミットを意識するとどうしても流暢なことは言っていられないと思う。わたしだってそうだった…。








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