祖母の苦労

むすこの祖母は教師だった。
私の母である。

小学校の教師をしていた。
若い頃の腸の手術のせいか
ストレスを受けるとお腹が痛くなり
入院したりもしていた。
そんなにしんどいなら
仕事辞めたらいいのに、と
幼いながら何度思ったか。
短大で資格を取り、
大卒の資格を得るために苦労したと
ことあるごとに聞かされる。

父、むすこの祖父は設計士だった。
学生のときに二級建築士の資格を取り
一級建築士の資格を取るのに苦労したと聞く。

ふたりとも20代のころに苦労したといい
大学進学のときに
専門学校でも短大でもなく大学に行くよう言われ
説得できずに大学に進んだ。
選べるのは幸せなことだが
私は早くデザインの実務経験を積みたかった。
両親が大学に行かせたかったのは
初任給の違いで、それは何年経っても追いつけないから、という。
そんな業界に入ろうとしてないし、
そんな時代は続かない。
10代の私はそう思っていた。
ただの勘だ。
ただの勘だが正しかったと今でも思う。
大学卒業時には就職難とよばれるようになっていた。
大学で得た経験や友人は今でも大切だが
親から信じてもらえなかったという思いだけ残った。

だからこそ、
むすこを信じたい。
むすこが信じる道を応援したい。

先日、母が言った言葉に度肝を抜かれた。

ほんとに宿題もしない、
遊んでばっかりの、勉強嫌いな小学生やったんや。
ゆうちゃん（むすこ）と一緒や。

私の時を止める一言である。
念の為聞く。

誰のこと？

ばあちゃんや！
勉強せんかったから苦労したんや。
だからゆうちゃんもこのままやと苦労するで。

よう言うたなぁと心の声が漏れてしまった。
私は厳しく育てられた方だと思う。
特に小学生。
短大出てから苦労したという話を聞いたときに
勉強しなかったからというのは想像もしてなかった。
戦後だしいろいろあるやろうと聞き流していた。
教師になったんだし
勉強が好きだったんだろうと思いこんでいた。

まさかまさかである。

見方を変えれば、
勉強してなかったけど先生になれた、
その証だ。

苦労しないようにと親が勧めた大学進学。
大学に行ったからといって苦労してないわけではない。
苦労したとは思ってないがいろいろある。

なにをもって苦労というのかは人それぞれだ。
むすこはむすこ、
わたしはわたし。

いつかむすこが
小学校で勉強しなかったから、と言い始めたから
この祖母の話を聞かせよう。

いつからでも始められる。
楽しめばいいんだ。