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物語「星のシナリオ」 -42-

それもこれも、おばあちゃんの「星のシナリオ」の影響が大きい気がしてる。

この人生を選び決めてきたのが自分自身で、それを生きるために必要なものは既に揃っている。そのことに触れてから、根拠のない自信というか自分自身への信頼みたいなものが日に日に強く大きくなっている。

この先のシナリオを思い出した訳でもないし、もっと細かなシナリオの設定はその都度自分で選択していくことになるんだけど…。

きっと結局は大丈夫なんだ。ボクが、シナリオを描いたボク自身を信じていれば。

「そうだ、きみにも紹介しておきたい人がいるんだけど」

「え…先生、結婚でもするの?」

「おおカンが鋭いな」

ふと感じるやつは、だいたい当たってるもんだ。

それでもその直感と、心と頭と…足並みが揃ってるわけじゃなかったりして、あとから気持ちの波にのまれてしまうこともある。

どこかで先生に依存しようとしていた自分に気がついてしまったのと、二人三脚でやってきた過去世からのシナリオで、相手に別れを言われてしまったような少しの虚しさと、そんな気持ちを感じている自分に…ボクは少しびっくりしていた。

まあでも。そうなんだ。

いつの人生でもそれぞれのシナリオがあって、それが交わっていただけで、いつも一緒にいることが本当の繋がりとは関係ないもんな。

「その人も過去世から繋がってる人?」

「ああ、たぶんね」

「ボクも逢ったことあるのかな」

「たぶんね」

「ふ〜ん」

やっと進路に道しるべを見つけたばかりの中学生にとっては、結婚なんて全くピントが合わない…。

まるでそんな感じの自分が、ほんの少し置いてけぼりを食らってしまったみたいで…。ちょっと淋しくも感じられた。

「きみにもいつか現れるよ、今世のパートナーが」



「ねえ、奏詩」

夕食時、母さんがワケありそうな笑顔で話しかけてきた。

いつものパターン。断り前提のない、母さんからのお願いごとだろう。

「ふふふ。今度の土曜日なんだけど、奏詩、予定ないわよねえ」

きたきた。

食事をタイミングよく口にほおばり、ボクは目だけ合わせてとりあえず適当に流した。

「父さんがね、いつも写真を撮ってくれたり手伝ってくれるんだけど、その日は外せない用事があるって言うのよ」

へ〜。父さんも断ることってあるんだ。

「で、思いついちゃったのよね!」

「何を?」

しらじらしく返事をするボクを遮るように母さんは続けた。

「もう一人の素晴らしいカメラマンがデビューするには相応しいチャンスだわって!」

まるで母さんだけ一人芝居しているみたいに、大げさに抑揚のついた話し方で言って、一人で笑い始めた。

あ〜。何の心配も人の気持ちとかも気にせず、やりたいように生きる人生楽しいだろうなあ。

「ふっ」

「え〜?なによ奏詩その笑いは〜」

「母さんってさ、人生楽しそうだよね」

「は?あったりまえじゃない。楽しまなきゃここにいる意味なくなっちゃうわ!」

「いやでもさ。母さんのようになんていうか、自分の好き勝手生きられるような人ばかりじゃないっていうか。そういう人の方がむしろ少なそうじゃん」

「そんなの。その人達は覚悟が足りないわよ」

「ええ?覚悟の問題?」

「そうよ。みんな自分の選んだ人生を生きているはずなのに、やってみたら文句ばっかりって、そりゃないわよね」

「まあ、確かにね」

「そりゃ人生、楽しいことばっかりじゃないだろうし、ちょっと勇気が必要な時もあるし、選択肢を前に決断を迫られることもあるじゃない?」

「うん」

「それでも自分でやるしかないし自分の気持ち一つでその体験は違うものになりえる。だったら覚悟決めなきゃ」

「覚悟…」

「そう。この私を最高に幸せにして素晴らしい人生だったーって感謝の人生にする覚悟」

その母さんの言葉に、ボクの全身は鳥肌を感じて…。返す言葉が見つからず、しばらく呆然としてしまった。

そのことに気を留めることもなく食事を続ける母さん。

この人がどうして、あのおばあちゃんを母親に選んで生まれてきたのか、それでもその人の書いた本を未だに読まず必要ないと言い切ってしまうのか。言語化できないけれど、一瞬でわかった気がした。

そしてそのことは、少なからずボクの人生にも影響していて、それがきっとボク自身必要だと望んだ、ボクの人生の設定だったんだろう。

「あら、父さん帰ってきたわね」

「ただいま」

「おかえり。ねえ、土曜日のカメラマン、奏詩がやってくれるって!」

ぶはーーー。

「あ、ちょっと奏詩。あはは、なに吹き出してんのよ〜」

「いや、だってさあ」

あれ、ボクまだ返事してなかったよな。まあいつものことと言えばそれまでだけど…。この人を母親に選んだのは、ボク自身なんだよな。

そう改めて思うと、不思議と心も落ち着いて、この状況を楽しく感じてしまってる自分に気付かされた。


つづく


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