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物語「星のシナリオ」 -20-

「自分の気持ちを正直に話して、相手に嫌な思いをさせてしまった。そう感じとれるような体験をしたことがあるって人は、多いとは思うわよ。でもね、そこはイコールではないの。人に何か言われて心がざわついたりイラっとしたり。そう感じたのは、その人の心にそういうフィルターがあるから、以上。正直な気持ちを伝えた側の問題ではないわ」

「ってことは、同じ内容のことを言われても、イラッとする人もいれば、別に
何にも問題なく受けとる人もいるってことか」

「そりゃそうでしょ〜。ねえ、冷静に考えてみてよ」

「あ、ボク今カチンときた」

「ええ?あはは、そっかあ。奏詩は自分のこと冷静な人間だと思ってるのに、
いつもテキトーな母さんに言われたくないってわけね」

「うん」

「あ〜おもしろいね」

周りのお客さんが振り返るくらいのボリュームで思い切り笑ってる母さんを
見て、以前のように周囲の目を気にするボクが少し消えていた。ボクは人一倍、周囲の空気を読んで自分の行動を選ぶタイプで、母さんは人一倍周囲の目なんか気にしないタイプで。たまたま今回の人生は、そういうタイプの人物で生きていこうって決めてきた。ただ、それだけのこと。

「あ、ねえ母さん。母さんもさ、周りの人の目とか気になることってあるの?」

「えー?何なに?周りの人の目って?新種の妖怪かなんかのこと?」

「あ…違うけど。うん、いい大丈夫。いいや、忘れて今の」

すげー最強じゃん。母さんの辞書には「周りの人の目」って無いんだ。

「うわ〜。ありがとうございます!チーズたっぷり!ね、美味しそ〜」

母さんのわがままオーダーで追加されたチーズたっぷりのその料理は、母さん
だけでなくボクも、お店の人までも笑顔にしていた。

「そのツールを、自分が心地良いと感じられる状態で使う時、あなたの表現は
歓びのエネルギーとして周囲に届き、その先へ広がる世界を見せてくれるでしょう」

「ふふふ。ねえ、ほら。チーズとろとろのうちに食べなさいよ。あーやっぱり、パパも一緒に連れて来たかったなあ」

こんな自由人な母さんを、いっつもあたたかい目で見ている父さん。ずっと見てきた日常の中の両親の姿が、今日はやけに幸せな日常として思い出されて。ボクは思わず泣いてしまいそうで焦っていた。

何気ない日常は、当たり前すぎてどんどん流れていくだけだけれど、本当はそのひとコマひとコマが幸せに溢れているんだ。きっとそれは、自分の全てを受け入れ、相手の全ても受け入れ、ただそれを感じている自分の中から溢れてくる無限のエネルギー。

ボクはその日初めて、母さんを、母親として選んで来た自分を誇らしく感じていた。


つづく


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