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物語「星のシナリオ」 -15-

「ハートで感じるんだ」

猫はその時、言葉じゃない何かでそのことを伝えてくれていたんだと思う。その証拠に、ボクのハートがふわっと軽く、あたたかくなるのを感じたんだ。

「もともとはさ、それくらいシンプルなことだったんだよ。ハートで感じ、
それぞれの人生というシナリオをただ体験すること。そうであれば、この世界のことを覚えていても楽しめた」

「人間が自分たちで複雑にして、もがいてるんだね」

「そう。この世界のことを忘れ始めてしまうと人は、得体の知れない不安に包まれてしまうんだ。それも一つ、人間がハートを閉ざしてしまった原因で。それはちょっとした誤算でもあったんだけどね」

「この世界でも間違うことがあるの?」

「やっぱりそうか。きみ達は、こっちの世界のことをあんまりにも美化し過ぎてる。こっちの世界が上で、地上の世界が下って位置付けてしまうことも一つ、
大きなつまづきになってしまってるんだ」

猫は続けて話してくれた。
地上で生きているボク達は、この星の世界…人によっては、天国とか、神様の
世界とか宇宙とかって呼んでいる、そういう世界の一部なんだということ。
おんなじなんだっていうこと。だから神様のご機嫌を伺う必要もないし、宇宙に操られているわけでもないし。

正しいこと、善い行いをしないと天国に行けないとか、そもそもないんだと。
そういうのは全て、この世界のことを忘れてしまった人間の不安や怖れが生み
出した幻想のシナリオ設定でしかないのだと。

「ああ、そう言えば!いちばん最初に虹を渡った日に言ってたよね。この旅で
一番の大敵は恐怖心だって」

「そう、その通り」

「怖れでハートを閉ざしてしまうと何も感じなくなっていく」

「それでは本来の生きる目的は果たせないんだ。そうして…」

そうやって人間たちは、ハートではなく、頭や身体だけで生き始めた。本来の
生きる目的を封印したまま。生きる名目を仮に創り上げ、あたかもそれが正しいと、自分たちに信じ込ませるようにして。でも、そうしている間、何をやって
いても、ものすごく数をたくさん得ても、満たされない何かを感じたまま。

「この世界の一部である自分。そのことを忘れてしまう時たいていの人は、自分という存在の価値を探し始めるんだ。つまり自分の価値を証明する『何か』をね。だけどただこの世界の、宇宙の、価値ある大切な一つのピースであるって
思い出せば良いだけなんだけどね」

「無価値観ってやつだね」

「そうそれは怖れと同じくらい厄介だよ。どう生きるにしてもマイナススタートに自分を置いてしまうんだから」

「あ!そういうことか。マイナスにいくら頑張りの行動を掛け算してもマイナスになっちゃうんだね」

「そうだよ。その設定では、頑張れば頑張る程マイナスが大きくなる」

「それは。あんまりだよね。なんとかならないの?」

でも猫は、それから遠くを見たまま何も話してはくれなかった。たぶん、こう言いたいんだ。「答えは自分で見つけるんだ」って。
いや…。そうか!そのためにおばあちゃん達が地上に降りてきて…

「猫!ありがとう。今日は帰るよ」

ボクはもう、一人で虹を渡ることができていた。そう気づいたのは地上に戻って落ち着いた後だった。


つづく


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