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物語「星のシナリオ」 -28-

〜新しい時代の子ども達〜

「あーおはよう。やっと起きたのね。朝ごはん、何かてきとうにどうぞ〜」

「あ、うん」

いつものことだけどさ…。いや今日はまたいつも以上に母さんは自分のペースで息子の前を通り過ぎて行った。誰かお客さんでも来るのかな?

「あ、おはよう父さん。今日って誰か来るんだったっけ?」

「ほら、母さんがワークショップ開催するって。聞いてなかったか?」

「あ〜えっと…。聞いたような、聞いてないような」

「おいおい、なんだそれ」

「うん、まあ。いつものことだよ」

「おまえも朝ごはん食べたら見においで」

「うん」

確かだいぶ前に、何か家で人を集めてやろうかなって話しているところまでは
聞いた。まあそれも別にボクに相談してきたわけじゃないし。母さんの思いつきのタイミングで、たまたま目の前にボクがいた。そんな感じだったけどね。

自由で、羽根があるみたいに軽やかな人。

母さんは特に美大とかで学んだわけじゃないらしいけど、ボクが物心ついた頃
からよく絵を描いていた。時々それを仕事にもしていたみたいだし…。

あ、そっか。そうだった。父さんと出逢ったのも、それがきっかけだ。父さんが仕事でイラストを描いてくれる人を探していて、それで友人の友人だったか、
母さんへと繋がったとか言ってたな。

「そっか別に、美大出身者じゃなくたって、絵を描いても良いんだよな」

誰に確かめるでもないけど、改めてそう言葉にしてみたら、ごくごく当たり前のことを言ってる自分に気づいて、なんだかこれまで握りしめていたものがバカ
らしく思えてきた。

母さんの絵の技術がどうとか、それはボクにはわからないけれど、少なくとも
母さんは自分が好きな絵を描くことで社会と繋がっている人だった。

今日だってそのツールをつかって、自分で人を集めて何かやるんだろ?なんか、ほんとうに。ただただシンプルで良いんだろうけど…。

「人生ってそんなカンタンなことで良いのかな」

自分の好きなことやって生きている大人って、そう多くないイメージの中で、
これから進路を選択していくボク達は、何を基準にしたら良いんだろう。

星の世界へ行くようになってから、人生は自作自演で、自分が描いた通りを体験するシンプルな世界。

そのことを思い出してはきたものの、現実の世界でのボクは…悩み多き年頃の、魔法使いでもない、女神でもない、ただの人間だってことを思い知らされている感じがして、そのギャップに戸惑いを感じずにはいられなかった。

「おいおい、朝からずいぶんとため息が多いな」

背後から父さんが笑いながら言った。

「あっちで天使達のエネルギーに触れてきたらどうだ」

「天使?」

「今日のお客さんだよ」

「う、うん」

父さんに促されるままボクは、母さんが開催しているワークショップを覗きに行って見ることにした。


つづく


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