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物語「星のシナリオ」 -2-

その夜は、いつもと何も変わらない、ボクにとっては普通の夜だった。

「そろそろかなと思ったよ」

風が少し肌寒くボクの寝室に吹き込んできて目が覚めた。声の主はあの、最初にボクのもとに現れた猫だった。

「迎えに来てくれたんだね。ずっと待ってたんだよ」

「ずっと居たんだけどね。きみは気づかなかった」

「そんなはずないよ、ボクはずっと…ずっときみのことを待ってたんだよ!」

「だからだよ。だからぼくの姿に気づかなかった」

なんだよ、それ。

一瞬、そんな言葉が浮かんだけれど、今ここで猫を怒らせたりしたら消えちゃいそうな気がして、ボクは言葉を飲み込んだ。

「きみが必死でぼく達を待ったり探したり、そうする程ぼく達のことが見えなくなる」

「な…」

「本当はいつでもここに居るさ」

「ボクが必死に待つのをやめたから?」

「そう。今晩のきみは何も期待してなかっただろ。でも今のきみなら虹が渡れる。だから、今晩だ」

さあ!と、そんな様子で猫がピョンと空へ跳んだ。
そうだ。あの夜と同じ風が流れてる。

「虹を渡る時は…」

「怖がらないこと、だよね」

そうボクは誇らしく答えると、猫はフッと笑って前を歩き出した。

「ねえ、ボクの想いがきみを呼んだって話なんだけどさ…。それが考えても心当たりがないって言うか」

「きみは、自分がどうして生まれてきたのか、そのことをずっと知りたかったんだろ」

あ。そのことか…。

「え、ええ?でもさ、それと虹とどういう関係があるんだよ」

「これから案内するから」

「何を?」

「きみが描いてきた、星の世界をね」

そう言って歩き出した猫の後ろに続いて虹を渡り始めると、夜空に細い月が浮かんでいた。
三日月…?

「いや、あれは消えゆく月。もう間も無く月と太陽が重なり新月を迎えるじかんだ」

消えゆく月なんて、何だか切ないな。

「きみが生まれた日の月も、あの月と同じだった」

「ボクが生まれた日のことを知ってるの?」

「生まれた日だけじゃない。ずっと見てきたよ、仲間たちと共にね」

猫はそう言って再び歩き出した。

「この月はもう間も無く消えていくけれど、そこにはそれまでの月の記憶が全て刻まれている。この月自身の記憶も、この月と共に輝いてきた星たちの記憶もね」

「だとしたら。消えゆく月はもうたくさんの旅をして満足して消えていくんだね」

「そう。そういうエネルギーを、きみは選んで生まれてきた」

何だかそのことは、ずっと前から知っているような気がしていた。
そして同時にボクは、前に虹を歩いた時と同じ感覚を感じながら、この感覚も、前から知っていたような気がして、そのことを必死に思い出そうとしていた。

そうして猫の後ろを歩いていくうちに、虹はどんどん色鮮やかに輝き、一瞬、辺り一面が白い光に包まれたかと思うと、目の前に白い世界が広がっていた。



つづく

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