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物語「星のシナリオ」 -1-

あの夜からしばらくボクは考えていた。だけど、あれが夢だったのか何なのかわからないまま。ただあの時の感覚をぼんやりと思い出していた。

猫は言ったんだ。「怖いと思うと虹が細くなる」って。

確かにあの時、次第に慣れてきたボクの前に続く虹は、どんどん太く大きく広がって、辺り一面を虹色にしていた感じだった。
その虹色の世界で、猫がいくつかボクに話をしてくれたような記憶まではあるんだけど…。話の内容も覚えていないし、その後どうやって帰って来たのかも…覚えていない。

それに。ボクは、どこへ行きたかったんだろう。
ボクの想いが猫を引き寄せたらしいけど、当の本人のボクがその意味をわかっていなかった。

「きみの頭ん中じゃなくてさ、きみの心の奥底にある想いが、ぼくを呼んだんだよ」

え?

考えながら歩いていたボクの目の前に猫が一匹。

「今の声は、きみ?でも。あの夜の猫じゃないよね」

「あの夜の猫もぼくも、みんな同じさ」

なにがなんだかわからないまま。でもこの機会を逃しちゃいけない気がして、僕は必死に猫の言葉にくらいつこうとしてた。

「きみは気づいてないかもしれないけど、きみの中にもう一人のきみがいるんだよ」

「ボクの中にもう一人のボク?」

「うん。まあ今のところそういう表現が一番説明しやすい」

「うん…」

「また夜に迎えに行くから」

「え!また虹を歩くの?」

猫は答えず、ボクの顔をキッと見つめたまま、どこかへ消えてしまった。

でも。猫はその夜ボクのもとに来なかった。その次の夜も。その次も。

「なんだよ。猫ってやっぱり気まぐれなんだな」

どこにぶつけていいのかわからないイライラを言葉にして吐き出したら、いくらか気持ちが軽くなった気がした。

だってボクは…。
また、あの猫に逢えるのをとても楽しみにしていたのに。本当は、イライラの奥にとても悲しくて寂しい気持ちがあったんだ。

待っても、待っても、猫は姿を見せなかった。

そのうちにボクは、迎えに行くと言った猫の言葉をすっかり忘れていた。こんな話、誰にも話せないし確かめようもなくて。ただ自分の心にしまっておいた。

よく考えてみれば不思議な話で、どこかで夢じゃないかって疑ってるところもあった。だけど、どこか心の奥底で、言い様もない懐かしさと安心感を覚えている気がして…。そのことを確かめたいと、どこかで望んでいるところもあった。



つづく


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