物語「星のシナリオ」 -17-
この本はもともと、あの星の世界で描かれたもの。それを、この地上に降ろすのがおばあちゃんの一つの役割だったこと。そして、おじいちゃんはその協力者の一人。あの星の世界で約束してきたらしい。この本を創り上げるおばあちゃんを、護りサポートすることを。
でも。三十年前この本を世に出した当時は、これを受け入れてくれる人があまりにも少な過ぎたと。人生が自作自演だなんて考えは、受け入れてもらえなかったって。それくらいみんな、現実の出来事に一喜一憂し、その中で仮の目標に向かって、人よりたくさん、優れた『結果』を出すことに必死だったと。
「この本の内容はもともと、あの星の世界で描いたものだからね。それもあって、三十年前のこの地上とではあんまりにも周波数が違い過ぎたんだろうね。その当時はずいぶんとがっかりしたよ。『切ない』って感情を体験させてもらってたのかもしれないね」
「そんなに受け入れてもらえなかったの?」
「応援してくれた人もいたんだよ。でもね、最初に描いていた計画のようにはいかなかった。そもそもこの本を地上に降ろす計画も何十年と遅れた挙句にだったからね。ずいぶんと切なかったよ」
「それ程みんな、ハートを閉ざしてしまってたってこと?」
「そう。それもあるし、全体のシナリオが、思うように展開していなかったんだね」
ボクは、がっかりと言うより、少し苛立ちを感じていた。いや、もっと正直に言うなら、アホらしいって気持ちだ。だってこの本は、あの星の世界を思い出すカギのはず。本当はみんなが探し求めているはずのもんだろ?なのに受けとらないなんて、ずいぶん勝手な気がした。
「まあそれくらい、この世界の幻想ゲームは、人間にとって魅力的であったのかもしれないね」
「もしこの本が三十年前にみんなに受け入れられてたら?ねえ、おばあちゃん。そうしたら今この世界は違う世界になってたのかな」
「そうかもしれないし。そうじゃないかもしれないし。その時の最善が選択されただけのことだよ。だから、今この時、奏詩が本を手にしていることが、最善だよ」
ボクは…。正直そうは思えなかったんだ。やっぱり何かがおかしいっていう感覚が拭いきれなかった。
「まあでもね。ふふふ」
「何?」
おばあちゃんはボクの顔を見つめて意味ありそうに笑った。
「もし三十年前に本が世の中に受け入れられていたら、こうして同じ時代をまた一緒に生きるチャンスはなかったでしょう。三十年前の切なさも含めて、私は今とっても幸せだよ」
おばあちゃんの言葉の、その意味の大きさに、ボクはまだ気づいていなかったけど。今が幸せだと言って笑うおばあちゃんを見て、ボクもとても幸せな気持ちになっていた。
「おばあちゃん、やっぱりこの本しばらく借りていってもいいかな」
「もちろん。ずっと持ってて良いよ。その本は、あなたの物だから」
「うん。ありがとう、おばあちゃん」
おばあちゃんから受けとったバトン。
それは単なる一冊の本じゃなく、その先のボクの人生を導く大きな大きな道しるべだった。
つづく
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