物語「星のシナリオ」 -29-
「ねえ見て。きれいな色でしょう」
ボクに気付いた母さんが近づいてきて、いつになく穏やかな口調で目の前の光景へと誘った。
天使たち…
幼稚園から小学低学年くらいの子ども達が、部屋いっぱいに広げた紙の上で…遊んでいた。てっきりボクは、机の上で絵を描いているワークショップを想像していたから、そこに広がる光景を見て少しびっくりした。
時折、それを見守っているお母さん達も一緒になって色で遊んでる。大きな笑いがわき起こる…そんな空間だった。
「母さんが絵の描き方を教えてるのかと思ってた」
「あら、そんなの。教えるなんて、この子達には必要ないわ。むしろ逆。私たち大人の方が教えてもらってるのよ、地球での楽しい遊び方をね」
「地球での楽しい遊び方?」
「そう。前にも話したことあるじゃない。この世界で生きるって、使命だなんだとか、そんな難しい話じゃなくて、ただ体験して、ここで感じるのよ」
「ハートで感じるってやつ?」
「そう!よくわかってるじゃない」
猫に教えてもらったとは言えず、なんとなく気まずい気分でボクは、つくり笑いをするのが精一杯だった。
「でもねえ、そんなシンプルなことがね、なんでか大人になっちゃうと難しくなるじゃない。でも、子ども達はまだ覚えてる。ただ、生きるってことの歓びをね」
ただ体験して、ハートで感じる。
「奏詩も気が向いたら一緒に遊ぼう。あなた最近ため息増えて。つまんない大人になっちゃうぞ〜。あはは」
あはは…って。
は〜。ほんとうに、そんなシンプルな話でいいのかな。
「おいおい奏詩。天使を前にしてもため息かい」
「父さん」
「子ども達の目の輝きはほんとうに最強だな。良い写真が撮れそうだ」
「母さんに頼まれて、今日はカメラマン?」
「そうだなぁ。頼まれ半分、志願半分って感じかな。好きでやってるところの方が大きいからね」
「ふーん。ボクにはわかんないけどさ。父さんにはどう映ってるの?この、自由人な母さんは」
「素晴らしい女性だよ。一人の人として尊敬してる。母さんが次に何を思いつくのか、楽しみで仕方ないんだ」
「えーなんだよ、それ!振り回されるのを楽しみにしてるって!」
「あはは、そうか、そう見えてるのか。それはおもしろいな」
父さんは穏やかに優しい表情のまま、子ども達にカメラを向けていた。
確かに…。その姿は決して、母さんに振り回されて困っている姿とは大きく違っていた。むしろ、そこに流れているのは、幸せな時間だ。
「母さんはさ、こんなに楽しい時間、生き方があったのかって、そう感じさせてくれる存在なんだ。だから次にはどんな素晴らしい光景が見られるのかってワクワクする。何を言い出すのか楽しみで仕方ない」
初めてこんな話を聞いた気がする。これまで一緒に過ごしてきた家族の時間は、父さんにとってそんな幸せな時間だったなんて。
なんか…。なんか嬉しい。そんな気持ちがボクの心に芽生えていた。
つづく
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