物語「星のシナリオ」 -45-
「ちょっと奏詩!起きてー!」
「え〜今日は休みじゃん」
布団を引きはがされそうになって、慌てて布団をつかみ、潜った。
寝起きにこの母さんの勢いは、けっこうキツイものがある。冷静にそんなことを考え始めてボクは思い出した。
「あーー、ごめん、今日って!」
「そうよ〜。しっかりして、新人カメラマンくん」
「うわー何時からだっけ?」
母さんとの約束…というのか、勢いに押されての予定の日だったんだ。
「10時には始めたいのよ」
「何か食べるもん用意してよ。すぐ着替えて行くから」
「ふふっ」
「何?」
「案外乗り気みたいで良かったわ」
「えっ何?」
「ううん。下で待ってま〜す」
ニヤニヤしながら立ち去って行く母さんを見ながら、何を言われているか頭の中で整理しようと試みた…けど。
「ま、いっか。めんどくせ」
なぜか今は、とにかく約束のカメラマン向かって、全力に進みたい自分がいた。それに少しだけ、母さんの勢いを跳ね返しているような自分にも気づいて…
「これも悪くないかもな」
どこかで心が弾んでいる自分を嬉しく感じていた。
「あーそうそう奏詩〜。机の上にあるの、私とパパからの誕生日プレゼントだから〜」
「ええ⁈」
言われた机の上を見ると…。カメラ…⁈
「一眼レフじゃん!」
いつも父さんが使っているカメラ…いや違う。それに良く似た新しいカメラが、ちょうどボクにレンズを向けるように置かれていた。
「うわっ」
そっと手にしてみた瞬間、ゾクゾクっとボクの全身を鳥肌が包んで、今まで感じたことのないような高揚感を覚えた。
「やばっ」
途中だった着替えをすぐに済ませ、カメラを首から掛けてみる。そーっと、鏡の前に立って、その自分を目の前に…。
自分のことは自分が一番良くわかっているはずで、でもその多くのことに気づくまでに時間がかかったりするもんだ。そして、身近な人たちは、いつだってそのことに気づくサインを演じてくれていたりする。
何度も父さんが写真を撮る姿を目にしてきて、でも一度も自分がそれをやってみたいなんて思ったことはなかった。
なのに、突然贈られたカメラを、いつもの父さんがやってるように首からさげた鏡の中のボクは、
「ボクもやってみたかったんだ」
確かにそんな気持ちを微笑みに代えてそこに立っていた。
「は〜。やっぱり母さんには何でも見透かされてんだな」
降参するのは、母さんに対してと同時に、自分の、これまで眠っていた本音にも、だった。
「奏詩〜。ほら、さっさと食べちゃってよ〜」
「あ〜はいはい」
その先に進む道を、しっかりと満月が照らし出してくれるはず。
おばあちゃんの言葉を今、改めて受けとってボクは一歩を踏み出した。
つづく
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