物語「星のシナリオ」 -48-
おばあちゃんが言った通り、今年の誕生日は特別だった。
新しい家主になったボクら家族は、普段と変わらず満月の宴を楽しむ仲間を迎え入れていた。リビングの一角には、おじいちゃんとおばあちゃんの写真がズラっと飾られていた。
誰一人悲しんで泣いている人はいない。いつものように笑い合い、音楽が響き、大人たちはお酒を楽しんでいた。
九月の満月は明るく夜空を照らし、一筋の光となって、ボク達がいるリビングへと差し込んでいた。
「あ、ちょっとみなさ〜ん。聞いてくださいね〜」
軽く酔っ払った母さんが話し始める。
その様子をぼんやりと眺めながら、膝の上のシロを撫でていた。
母さんが、おばあちゃんの残した手紙を読み始める。
自分が、あの世界へ還る日を知っていたおばあちゃんと、そのことを知り後を任された母さんと。
どんなにわかっていても、やっぱり淋しさはこみ上げる。
母さんの頬を流れ落ちる大粒の涙が、ボクの心にも響き渡ってきた。
生まれて来る日をはじまりに、全てを自分自身で選んできた「星のシナリオ」
その内容も、それを自分自身で描いてきたこと自体も、多くの人が忘れてしまっている。
いや、忘れることで、よりリアルに楽しんで、自分がどんなに制限の多い世界に閉じ込められているのか確認しているだけなのかもしれない。
でも。
全ては自分自身で選べるのだと思い出してみて、ボクの目の前の景色は色鮮やかに輝き始めた。そして、自分で選んで決めてたって、その体験から受けとる体感や気持ちは味わえるんだ。
だとしたら、なおさら自分好みのシナリオを生きたいと思う。
自分自身で、歓びに溢れる人生を体験していきたいと思う。
「あ〜それから〜。ここで、みなさんに発表がありま〜す」
母さんの声が、より大きく響き渡った。
「先生が、ご結婚されました〜」
「あ…」
先生は照れくさそうに前へ進みでると、あいさつを始めた。その隣で、きれいな女の人が微笑んでいる。
おわりとはじまり
ふと、ボクの頭に、そんなフレーズが思い浮かぶ。
みんな、新しい物語を幕開けている。
「そうよ〜。奏詩も動き出しなさい!」
「母さん」
「これね。奏詩へのバースデーカードだって。預かっておいたわ」
「…おばあちゃんから…?」
真っ白いカードの中央に、ゴールドの月と星が描かれたそのカード。
おそるおそるボクは、カードを開いた。
あなたが今回の星のシナリオを選び描いていた頃が懐かしい
無邪気に、まっすぐな目で
「あの世界を楽しんで来るんだ!自由に自分を表現して、その歓びに満ちた世界をみんなと分かち合うんだ!」
そう言って笑っていた姿は頼もしくも思えた
あなたの人生は全てあなたの望み通りに体験できる
そのことを思い出して、パワーをとり戻したでしょう
もう大丈夫ね
またあの世界で逢いましょう
その日まで、奏詩の星のシナリオを楽しんでね
そうそう、バースデープレゼント用意しておきました
その家のどこかに隠してありますよ
宝探しを楽しんでね
大粒の涙がカードの文字を滲ませた。
ボクは感じるままに、おばあちゃんからの愛に心震わせていた。
「にゃ〜」
「シロ」
「にゃ〜」
しっぽを振りながら、まるで手招きするようなシロに促される。
「うん。宝を探しに行こう」
おばあちゃんが残してくれた「あそび」
ちょっと心踊るような、でも不思議とその隠し場所がわかってしまってガッカリもするような…。なんとも言えない気持ちでボクは、シロと階段を駆け上がり、おじいちゃんの書斎のドアを開けた。
窓側の机の上を、満月の明かりが照らしている。
まるでさっきまでおじいちゃんが使っていたように置かれている一本の万年筆。
そこには、おばあちゃんが大好きだった色のリボンが、かけられていた。
おわり。
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