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第1章 邂逅 vol.10 捻転

高3の頃には懲りもせず新たな人に片思いをしていたが、本題とは関係ないので割愛する。
ちなみにこの人にも最終的に告白できていない。まるで成長していない。

高校卒業後、浪人となった。
僕が通っていた高校の当時の現役合格率は3割程度で残りはほぼすべて浪人だったため、僕もとくに抵抗なく浪人となった。私立校に通って浪人だなんて穀つぶしも甚だしい。予備校は現役時代に引き続いてS予備校にお世話になった。
今はどうだか知らないが、当時のS予備校は設備はともかく講師陣が非常に魅力的でとくに浪人時の一年間は自らの人格形成にも大きな影響を受けた。率直に言って高校3年間より浪人の1年間の方が濃密な時間を過ごしていた。なんだったら高校よりも予備校の方が母校だと今でも思っているくらいだ。以上余談。

岡部と最後に会ったのはそんな浪人時代の夏休みだ。場所は近所の図書館。この再会ももちろん偶然だ。当時の僕は自習をするなら基本的に予備校の自習室に通っていて何らかの事情で自習室が開いていなかったからか、あるいはただの気まぐれか、とにかくその日は図書館に行った。おそらく本を借りたりもしていない。
閲覧席という名の自習スペースが埋まっていたからか、彼女は窓際の本棚を机代わりにして何か書き物をしていた。たしか僕の方から気付いて声をかけた。何を書いているのか聞いてみると家庭教師のアルバイトの申込書類だと言っていた。この時点で彼女が大学に進学したことは僕も察したはずだ。それは良い。問題はその後だった。その書類をとくに見ようとして見たわけではなかったが、彼女の在籍校が僕の第一志望の学校および学部だったのだ。

こんなことを書くのも情けない話だが、中学時代は僕の方が勉強はできていた。しかし僕が無為に高校時代を過ごしていた間に彼女はちゃんと勉強していたのだろう。その結果がこれだった。ただそれだけのことだ。とは言え、それを差し引いても全国に数多ある大学や学部の中で何も僕の第一志望じゃなくても良かったじゃないかとは今でも思う。かつて好きだった同級生が今は自分の第一志望の学校・学部に通っている。この時の複雑な気持ちは何とも言いようがないものだし、多分同じ経験をした人でないと分からないと思う。もちろんそんなことを彼女は知る由もなければ何の責任も無いのだが、運命と呼ぶにはなかなか残酷な現実が目の前に突き付けられた。そしてそのショックを態度という最低な形で僕は表してしまうことになった。

話の流れで彼女が大学生活にそれほど満足していないというニュアンスのことを語っていた。それに対してあろうことか僕は上から目線のアドバイスをしていた。大学にも行っていないのに。しかも表面的には善意を装っているところが悪質だ。もちろんそんな善意など通じるはずもない。彼女もさすがに腹に据えかねたかと思われる。売り言葉に買い言葉で最終的には僕が捨て台詞を吐いてその場を後にした。対応さえ間違えければ旧交を温めることもできたかもしれないのに、そのチャンスを自ら捨てた。嫉妬よりももうちょっと複雑な感情であるが、いずれにしても醜い。気が付いた時には後の祭りだった。

再会且つ別離の現場

その後の受験でも勝負弱い僕は第一志望の学校・学部に受からなかった。挫折としては高校入試の時よりも大きかったが、元々の学力が足りてないという認識も自分の中にあったので、ショックとしては高校入試の時よりも小さかった。現実を受け入れるまでかなりの時間を要したが高校の無気力だった時期を思えば今の大学に行けただけでも御の字と言って良い。

彼女と会ったのは図書館が最後だった。彼女の二十代も三十代も知らない。そうして僕は三十代になって夢の中で彼女と再会することになるのである。
ちなみに僕らが大学生の頃からインターネットが急速に発達し、それによって旧友と再会するツールも登場してきた。SNSなんかもその一つである。それによって何人かの旧友の連絡先は今も把握しているし、最近はコロナ禍もあってまったく会っていないが、その前には友人と何度か直接会ったこともある。実はその中でNについては伝聞でなんとなくの近況は分かっている。しかし岡部に関してはSNS上の中学校のコミュニティに参加しているのを見たことは一度もないし、周りからの情報も一切伝わってきていない。

久々に見たらトップページのデザインが大幅に変わっていた(mixi公式ホームページより)

岡部の思い出話については以上となる。
次はその後の話と現状とようやく(マガジンの)タイトルの回収に入ることとなる。

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