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「聞き上手」がビジネスになる? ライブ配信の流行の逆をいくLively :Lively・岡えり

この記事は、GOB Incubation Partnersが運営する「ウゴイテワカル研究所」でも掲載しています。

誰かに話を聞いてほしいーー。誰しもふとそう思うことはあるでしょう。

昨今、コミュニケーションのあり方は目まぐるしく変化しています。それはコロナ禍によって、さらに加速しました。ビデオ会議システムやチャットツールがますます欠かせないものになり、“ニューノーマル”なコミュニケーションの形が生まれました。

しかし便利になった一方で、雑談や悩みを相談するといった、たわいもないコミュニケーションは希薄になっているのかもしれません。実際に孤独を感じる人も増えたと言われています。こうしたちょっとした会話が心の支えになっていた人も多かったのではないでしょうか。

今回紹介する「Lively」は「話を聞いてほしい人」に話を聞いてもらえる場を提供するマッチングプラットフォームです。株式会社Lively代表の岡えりさんに話を聞きました。

この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。KSAPは、社会的な価値と経済的な価値を両立させようと挑戦するスタートアップをサポートする取り組みです。KSAPの詳細はこちら

新しいライブコミュニケーションの形「Lively」

岡えり:私たちは、ライブコミュニケーションサービス「Lively」を運営しています。いわゆる聞き上手と言われる人たちと、話を聞いてほしい人をつなぐオンライン上のプラットフォームです。

「悩みがあるから相談したい」「誰かに愚痴を吐きたい」という人が安心して、話せる場所を提供しようと思って開発しました。バーやスナックのオンライン版と考えてもらえたらイメージしやすいかもしれません。

聞き上手なユーザー=「ストアオーナー」は、Livelyのサイト上に自分たちのお店=「ストア」を開設できます。現在は約50名がストアオーナーとして活動しています。希望者の皆さんと面接をして、提供したい価値が明確で、Livelyが目指している世界観に共感してもらえた方のみにストアをオープンしてもらっています。

話を聞いてほしい人や相談したいことがある人は、お店に入る感覚でストアに入ることで、自社のビデオ通話システムを使ってストアオーナーとお話できる仕組みです。

既存のライブ配信サービスは、配信者が主役です。そこでは、人気のある配信者がパフォーマンスをしたり、オーディエンスの質問に答えるといったコミュニケーションが交わされます。インタラクティブ(双方向)ではあるものの、あくまでも主体は配信者側にあります。

その点、Livelyの主役はストアに来る人たちです。ストアに入れるのは1〜8人までで、ストアオーナーが自分のストアのコンセプトに合わせて人数や価格を設定しています。意識しているのは、話したいことを気兼ねなく話せる空間を作ることです。ストアオーナーには、お客さんのお話をしっかりと聞くことを大事にしてもらい、双方向の温かいコミュニケーションが生まれる場を目指しています。

Livelyのストア。ストアオーナーはストアの開催時間や参加人数、価格(50円〜/分)などを自由に設定できる

現在Livelyのサイト上ではオンラインスナックや占いなどライトなものから、映画監督やアスリートへの真剣な相談まで、多種多様なストアが開設されています。

ストアに入室すると、リンクからビデオ通話システムに参加できます。通話に参加すると時間がカウントされ、退出する際にその滞在時間に基づいた料金を自動で決済できるシステムです。ビデオのオンオフは自由。雑談から深い話まで、それぞれが思い思いに時間を過ごしています。

私たちが把握しているデータでは、平均滞在時間はおよそ40分ほどと想定よりも長くコミュニケーションをとっています。話を聞く能力がある人たちと話をしたい人たちがうまくマッチングされた結果なのではないかと思います。

ビジネス経験ゼロからの挑戦、ストアオーナー「みさこさん」と二人三脚でサービス開発

Lively創業期からのストアオーナーとして参加しているみさこさん

Livelyは、2021年の2月からトライアルを開始し、2021年8月にα版をリリースしました。私はLivelyの立ち上げ以前に経営やビジネスの実務経験がまったくなかったため、当初は何から手をつけていいのかまったくわからない状態からのスタートでした。

特に苦労したのがシステムの開発です。外部のエンジニアに委託をしたのですが、エンジニアごとに得意領域があることも知らなかったため、自分たちのサービスにマッチしない人に制作を依頼してしまい、完成が3ヶ月遅れてしまったこともありました。

それ以来、できる限りいろいろな人に相談をしながら事業を進めています。

システムの開発と並行して、数人のストアオーナーに協力してもらい、フィードバックを受けながら徐々にサービスの設計を見直していきました。開発初期から参加してくれているストアオーナーの「みさこさん」は、とくにプロダクトの開発に欠かせない人です。

みさこさんのお母さまが実際にスナックのママだったこともあり、みさこさんは幼少時代から接客する姿を見て育ってきました。そうしたバックボーンを生かしたLively上でのオンラインスナック「スナックみさこ」は、人気を博しています。

自社のシステムが完成する前は「Shopify」という外部のネットショップのサービスでお店を作って、予約が入ったらZoomにつなげていたのですが、その頃からずっとサービスを使い続けてくれています。

サービスの成長とともにみさこさんも活躍の場を広げられるようになっていきました。もともとは1時間あたり2,500円ほどだった価格も、現在は6,000円になりました。すでにLivelyで月に10万円以上を売り上げています。

コミュニケーションが仕事となり、救いとなる

Livelyのメンバー、写真中央が岡さん

みさこさんは、 福岡のシングルマザーです。子育てに励んできたので企業で正社員として働いた経験はありませんでしたが、コミュニケーション能力はものすごく高くて、人の気持ちを察したり、場を盛り上げたりすることにかけてはすごい力を持っています。でも、それがなかなか仕事に活かせなかったのです。

実は、私がLivelyを立ち上げたのも、みさこさんのような人に活躍の場を提供したいと思ったことがきっかけでした。

Livelyの立ち上げ以前、私も結婚、出産を経験しました。子育てと並行して会社勤務をしていましたが、両立に疲れてしまい、生活に余裕がなくなっていきました。夫も多忙だったため、家事や育児がうまく分担できなかったり、楽しいはずの子育てもイライラしてしまう自分が嫌になって、仕事を辞めました。

でもいざ仕事をやめてみると、今度は夫の収入に頼りきりになってしまい、自分に稼ぐ力がないことがものすごく怖く感じるようになったのです。地元のママ友からも同じような相談を受ける機会が多かったこともあり、「働きたくても働けない」人たちでも、持っている能力を発揮できる場を作りたいと思ったのです。これがLively創業のきっかけの1つでした。

「コミュニケーション」には、特別な資格は必要ありません。むしろ生きてきた中で培ってきた経験や人間性こそが言葉や態度に現れます。私のように、子育てやさまざまな人生経験を通じて、人の痛みが分かるからこそ活躍できることがあるのではないかと感じたのです。

ですから現在、みさこさんのような人が活躍している姿を見ると、サービスを通じて自分たちのビジョンが届いたように感じて非常にうれしく思っています。

それだけではなく、実際にLivelyの運営を続けていくと、自分が思っていた以上にさまざまなストアオーナーの方々に興味を持って参画してもらえるようになりました。スポーツトレーナーや、LGBTQの方による恋愛相談、働き方の専門家やファッションスタイリストなど、本当にいろいろな人がストアを開設しています。

Livelyでは、そうした個人の才能を活かし、聞き上手さんが活躍できるプラットフォームを目指していきます。

Livelyについて>

取材、執筆:「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」運営事務局(GOB Incubation Partners)

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