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【特集】変化するエストニア国防軍No.3-1(組織編)

2023年、独立回復後のエストニア国防軍で初めての「師団」(Diviis)の編成が完結した。

「エストニア第1師団」(Eesti 1 diviis)とも呼ばれるその師団は、主力である第1歩兵旅団と第2歩兵旅団に加え、指揮・通信大隊、兵站大隊や砲兵大隊を指揮下に置き、エストニア独立回復後初の統合運用部隊となった。

師団創設の主な目的としては敵軍に対する縦深攻撃を行い、旅団などの戦闘部隊を支援し、敵軍の側面攻撃から友軍を防御する事とされている。

※エストニア独立戦争(1918-20)時に編成された第1師団は首都タリンなどを含む北部戦線を担当し、赤軍からの東部エストニア解放を成し遂げている。

師団長のヴェイコ・ヴェッロ=パルム(Veiko-Vello Palm)少将(当時)は、2024年1月にERR(エストニア公共放送)のインタビューに対し、「師団はエストニア国防軍の戦闘能力を次のレベルに上げる」と述べている。

パルム少将が述べた具体例としては、下記が挙げられる。

・空軍の観測機が砲兵支援に出る際、師団は砲撃が必要な地点を指定し、また観測機の現場到着を支援するため、敵の防空網を砲撃によって制圧
・師団がサイバー攻撃の適切な時期と手法を指示し、敵の進撃速度を低下させ、砲撃の精度を高める
・NATO軍のエストニア展開を支援(友軍にプラグ&プレイ環境を提供する)

これらの例を踏まえ、少将は「師団はエストニア全土を防衛する事を優先する」と述べている。

エストニア全土の防衛には他機関との連携も欠かせず、民兵組織「エストニア防衛連盟」が全国の各エリアを分割して定めている防衛管区(Maakaitseringkonnad)における、警察・国境警備隊(PPA)や消防、救急との連携を強化する目的で、2023年11月には"Decisive Lancer"演習が実施された。

演習が実施されたのは、首都タリン・ハリュ県・ラプラ県を含む北部防衛管区(Põhja maakaitseringkond)で、管区司令官のタルモ=ルハール(Tarmo Luhaäär)大佐(当時)は「この演習では北部防衛管区での戦闘に関する認識を統合し、"現実の戦闘のように訓練する”という原則を徹底させるため、次年度以降の訓練目標を定義するものである」と語っている。

救急にとっても、この演習は戦時下での活動含む様々な危機状況を想定した本格的なものとなり、軍民協力・地域間協力・リーダーシップを促進する機会であると述べている。特に市民に対する危険告知、大規模避難などの良い機会となった。

演習に参加した国境警備隊担当者も、特に戦時には軍事行動の前段階として、多種多様なハイブリッド状況下で社会不安や恐怖の扇動が行われるため、対策としてはこのような実戦環境下での訓練を積み重ねるしかないと述べている。(続)




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