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詩|短篇小説

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ひさしぶりに詩を書きたくなりました。昔はよく詩で表現していたのに、しばらく散文ばかりで。これからはまた、自然にことばを紡いでいけたらと思います。散文詩的なごく短い読み切り小説も、… もっと読む
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2020年3月の記事一覧

泡になって

果てしない空があったら どこまでも続く 草原があったら 閉じた部屋を 飛びだして 自然の中に とけてしまいたい ◇35年ほど前、高校生のときに書いた詩です。私の父は支配的な人だったため、私は通学以外の外出をほとんど許されていませんでした。「閉じた部屋」は、そういう意味で書いた言葉だと思います。でも、きっとこの詩を書いているとき、胸の中には、光あふれる大空や、地平線まで続く草原の景色があったはず。実際に外に出られなくても、想像の翼は自由ですから。美しい風景、風のにおい、光のま

心に風を

晴れていたから 窓を開けた 豊満な春の風が 部屋になだれこんでくる すこし肌に冷たいけれど 光がいっぱい含まれている 人影のまばらな街 からっぽの商品棚 見えないリスク 正体のない不安 だけど 春の風は心地よいよ さくらはことしも咲くだろう 花ふぶきはけんらんだ 幽玄ないのちの気配 光がいっぱい含まれている こわがるものを誤らないよう 心にも風を通そう ◇横浜は今日は晴れ。窓を開けて換気をしました。不安には2種類あると思います。正体のある不安と、ない不安。正体のない不

地に落ちる花からも

四月のある日 散歩に出た 陽はおだやかで 風はやさしかった 近所の小さな公園に 桜の木が はらはら 花を散らせていた 宙を舞う ひとひら ふたひら 足もとにも桜色 見上げると ツートーン 空の半分は桜色 もう半分は若葉の色 二本の木が 右と左から 手をつないでいた 花は自分が散ったあと 若葉が萌え出るのを知っているのか 十字架の上で散り 三日のうちに復活した あの人のように わたしたちは 地に落ちる花からも 物語を紡ぎ出せる ◇ある年のイースターのころに、夫と

卒業

大好きな人達と 離ればなれになって 何を 卒業するのでしょう 共に泣き 共に笑い 最高の仲間だったのに 一緒に ひとつの季節を生きました 思い出の中に きらめく時代を作りました 別々の道を歩いているくせに なぜかひとつで ばらばらに生きているのに つながっていました この人達とすごした時は 大人になりきれない時間の残像となって きっと いつまでも 心の奥に残るのでしょう ◇35年ほど前、高校生の時に書いた詩です。日付はないのですが、たぶん卒業式を前にした、いまくらい