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紀伊半島南下計画 その1

 2020年11月23日,午前2時。
 良い子はとうに寝ている時間にもかかわらず,何故か家から遠く離れたコンビニにA面と2人で居座って、買ったばかりの味噌汁を啜っていた。お互いヘルメットを脇に置き、google mapと駅すぱぁとと睨めっこしながらである。

 なぜ夜中に家から離れたコンビニにいるのか。ヘルメットは何なのか。そして地図と電車にどんな関係があるのか。それらを理解するためには,おおよそ3時間程前に遡らねばならない……。

事の始まり

 事の始まり,と言っても簡単ではなく,前提と直接の理由に分かれる。
 前提自体は大きく分けて2つである。

前提① A面もとうとうロードバイクを手に入れた

 一目ぼれしたBianchを2ヶ月ほど前に手に入れ,この頃は虫なども少ないため,その持ち前の膂力を生かして近くの堤防を2人で走り倒していたのである。しかし、行動圏内を増やすためにルート開拓も少しずつ行っていたのである。

前提② 新しい服を手に入れた

 このころ,2人ともHCLI社の陸運を手伝うことになりになり,制服ももらっていた。実際の運用の前にどの程度の防寒性と機能性があるかのテストがしたかったのである。夕方など日が沈んですぐのテストはこなしていたが,オーバーナイトのテストはしていなかったため,そのタイミングをうかがっていた。

 これらのことが重なり,走るためのモチベーションが大いに高まっていた。そして,話は22日の夜へと至る……。

11月22日(土)

 ここから先は直接の理由である。

お家から大きな交差点まで

 その日は何があったか覚えていないが,とにかくA面がイライラしていた。この頃はA面がロードバイクを買って1ヶ月とちょっとくらいの時期であり,夜中に堤防を走ったりはしていた。その流れでストレス解消がてら走りに行くことになるも,普段とはやや違う道を走る提案をしてみた。それは,太めの道路を走ってみることである。A面は体重が軽く,乗っているのがカーボンフレームということもあり,地面のギャップを拾いやすい。なので荒れた道は苦手である。しかし,太めの道であれば比較的手入れが行き届いていることが多く,行けるだろうと思ったのだ。そして,この提案にOKが出たため、いそいそと出掛ける準備をし,暗闇の中へと飛び出したのであった。
 この時僥倖だったのは二人とも輪行セットを持って行っていたことである。A面はボトルゲージに挿しっぱなしであり,B面はサドルに括り付けっぱなしであった。

 余談ではあるが,B面はフレームバックを付けており,その中にパンク修理キットや鍵,輪行用エンド金具など色々と突っ込んである。そして,輪行袋もサドルに括り付けていることが多いため,輪行できる状態で走っていることが多い。堤防の上を走っている時ですら、である。
 昔,落車した際にフロントホイールのリムを曲げてしまい自走できなくなった時も,この輪行セットを持ち歩く癖で助かっている。

 まあ,それはさておき,走り始めてからは快調そのものであった。太い道は歩道もそれなりに大きいことが多く,テンポよく走れる。そのままえっちらおっちら町を超え橋を越え走っていると,いつの間にか新しい道との交差点へと来ていた。
 その道はまだ走ったことは無いが,それなりに広い道であり,もちろん路面もきれいである。A面を先導していたこともあり,さりげなくそちらに曲がってみるとしめしめ,ついてきている。そのためそのまま走り続けることとした。野球で有名な某学園のそばを通り、生活道路を下り、隣の市の幹線道路へ辿り着き、日付が変わる辺りにコンビニになだれ込んだところで、A面がこういったのだ。

「走り足りない」

11月23日(日)

 そう言われればこちらとしてもとことんまで付き合うしかない。イライラもここまで来れば立派なものである。幸い、コンビニの近くには青い線が引いてある。それに沿って始発まで走れば、家に帰る電車には困らず、そしてルートにも困ることはない。提案をしてみればすんなりとA面は受け入れ、そうして、ここで「ブルーラインに沿って走る」夜に出て、始発前後まで走る」というルールが確立したのである。

コンビニからコンビニ、ローソンからローソン

 さて、ここで唐突だが現在地点を説明しよう。今いるコンビニはローソン海南船尾店。ここから少し行った山城トンネル南交差点からブルーラインが始まり、そこから南下していく形である。我々には足を回すことしか残されておらず、再び鞍上の人となる。

 とりあえず山城トンネル南交差点から計画通りにブルーラインに乗り、海南駅前を通過し、そのまま冷水浦に向かって進んでいく。途中に工場夜景マニアには有名なENEOSの海南工場の前を通っていく。工場の前では三脚に一眼レフを乗っけた2人組がいたが、確かにこれはちゃんと写真を残した方がいいだろう、と思う程度には綺麗な光景であった。実際に走った頃は歩道などの工事の都合で工場の前で進路に対してややややこしいアプローチとなってしまっていた。思わず悪態をついていた記憶がある。

 またしても全く関係ない話であるが、冷水浦と書いて「しみずうら」と読む。個人的にはなんとなくPS2の名作「Siren」をつい思い出してしまう。是非ともそのうち敬い申し上げたいところだ。

 さて、この辺りは基本的に国道に沿って進むことになるが、しばらく進むとトンネルが幾つか連続して出てくる。もちろんトンネルの中で車道を走るのは危険である。そのためにトンネルを回避したルートが引いてあるわけだが、観音崎トンネル以南の回避ルートから先はしばらくやや厳しい登りと下りが待っている。しかも何がしんどいかというと、小さな半島のような部分の根本をショートカットするように国道が走っているのだが、ブルーラインは律儀にその半島を海岸に沿って走っていくのだ。
 おそらく日中であれば素晴らしい景色が待っているであろう登りを「夜中に」「波音しか聞こえない中を」「ヒイコラ言いながら」登っていく。この時ほどフロントトリプルでファイナルローが30×32にしてあることに感謝したことはなかった気がする。乙女ギアと笑わば笑え、これはツーリング仕様の鉄の馬なのだ。
 ちなみにネタバレしておくと、この日は後でファイナルローすらしんどくて押してのぼる坂が出てくる。ファイナルローが軽いことは悪いことではない、しかし、漕いでも進まないとそれはそれでしんどいのである。

 そのまま何とか大日本除虫菊(キンチョー)の工場の横を抜け、ダウンヒルをして国道に戻る。真っ直ぐ国道を走れば2.5kmの道のりをなぜか2倍以上の距離を走り、そして獲得標高もしっかりと稼いでいる。怒りをぶつけるところではないが、もうちょいなんとかならなかったんかとも思うところである。風景が綺麗なうちに走ればこんな感想を抱くこともないとは思うが。

 丁度その頃は草木も眠る丑三つ時、やんぬるかな、人間の営みは眠ることを忘れている。鞍上の我々も例外ではないものの、さりとて幾許かの休息は必要である。走っているうちにトイレもしたくなる。水やカロリーの補給も必要となる。今後のプランも話し合う必要があるため、目についたローソンに飛び込むこととした。

伏線回収

 そうして冒頭に繋がるのである。なんのことはない、休息のためにコンビニに入り、休むためにヘルメットを脱ぎ、3時間ほど後の始発の時間までにどの駅までなら走れそうかの相談をしているだけなのであった。
 伏線を回収したついでにいくつか書いておくと、新しい制服を着て走ってはいたものの、気温が思ったより下がらず、また、登りも多くあったため、ベンチレーションを全開に、フロントジッパーも少しばかり下げて走る羽目になっていた。インナーを冬用の長袖にしていた事を恨んだほどである。今回のライドの目的でいえば、性能検証部分は失敗であった。この制服の本領を発揮するのはもう少し後の冬のライドとなる。

 またしても現状を確認すると、ここはローソン下津町下津店。今から走り始めて始発までは大体3時間。単純に考えてここから走り始めても15km/hで45kmが限界だろう。となると御坊市あたりが到達限界点となる。そこをA面と共有し、途中からでも乗れるように御坊駅までの駅でルートと近い場所を確認、再び鞍上の人となった。

続く


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