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夢小説はキャラクター研究の成果になりうるのか

 本記事は、夢小説を書くにあたってキャラクターの考察がなされていると考えている筆者が書く自由研究である。

夢小説とは

二次創作で使われる言葉。オリジナルキャラクターと架空のキャラクターの交流を描く、創作小説の一種。
ピクシブ百科事典

 このように、気に入ったキャラクターと、自分のオリジナルキャラクターとの関わりを持たせられる自由な二次創作である。少し例として挙げてみよう。___に夢主(ゆめぬし、ゆめしゅ)、つまり自分のオリジナルキャラクターの名前を当てはめて読んでいただけれれば幸いだ。

「君が好きだ。___。」
「い、磯野くん。でも私には、好きな人が。」
「誰なんだよ。俺じゃダメなのかよ。」
「中島くん…。」
そう、___は中島のことが好きだった。以前から薄々感じていた磯野くんからの告白は、嬉しくもあり、同時に苦しい展開にもなるのだった。
A面の創作

 なんとこのスタイルの小説はインターネット界では1995年には登場していたという。当時はドリーム小説と呼ばれていた。筆者が中学時代を過ごした2000年台頃にドリー夢小説から夢小説へと呼ばれ方が変わっていった。ドリーム機能付き夢小説個人サイトなどが乱立していた時期だろう。夢小説を嗜むのは女性が多く、夢女子などと称されることが多い。もちろん男性向け夢小説も存在する。

 夢小説は一般の小説とは違い、オリジナルキャラクターが物語に介入する。そのため、読み手の解釈不一致や行き過ぎた設定から嫌われることも少なくない。いわゆる「おもしれぇ女」とは、まさにオリジナルキャラクターの行き過ぎた設定からくるご都合的な展開である。「おもしれぇ女」とは有名な少女漫画でいうと、「花より男子」に出てくる「牧野つくし」だろう。超裕福な学園に通う庶民のつくしが、学園を牛耳るF4(花の四人組)に宣戦布告するという展開に、ヒーローたちは「おもしれぇ女」と、興味を持つのだ。夢小説のぶっとんだオリジナルキャラクターや展開について、良い記事を見つけたのでリンクを貼っておく。
 筆者の友人も中学生の頃は「おもしれぇ女」の設定を盛り込んだ夢主を作り、キャラクターと関わる二次創作をしていた。「おもしれぇ女」は、キャラクターと自分の隙間を埋める重要な設定だと思う。その点、お姉様方がお書きになる夢小説の夢主は、設定も痛々しくなくてキャラクターの魅力を引き出すような描かれ方をしていたので、書く年齢によっても夢小説には差が出てくるだろう。

 また、夢小説では物語の初めに差しかかる前にワンクッションなるものが置かれる。ワンクッション(ワンク)とは、夢小説の解釈不一致による地雷を踏まれないようにするための文言のことだ。これを夢小説の始まりの一ページに丁寧に記載していくことが筆者と読者のどちらをも守る手段である。夢小説を書いてみたい方はぜひこのワンクッションで読者と自分を守っていただきたい。

キャラクター研究

 キャラクターの生い立ちや思考、どんな口調どんなでセリフを言うだろうか、どんな行動を取るだろうかを考えることをキャラクター研究と筆者は呼んでいる。いわゆるキャラクターの解像度をあげるための研究だと考える。
 キャラクター同士の関係性の解釈をしていくこともキャラクター研究の一部である。例えばサザエさんにおける女性キャラからの磯野カツオの呼称は概ね「磯野くん」である。もちろん家族であるサザエやフネは「カツオ」と呼び、妹であるワカメは「お兄ちゃん」と呼ぶ。さて、ここで花沢さんを考えてみよう。彼女はカツオのことを「磯野くん」と呼ぶ。これは花沢さんにとって、カツオは友人の一人であることの証左であり、この二人の関係性は子供同士の異性の友人くらいであるということであろう。

 キャラクター研究を言い換えると、恐らく「そのキャラクターらしさとは何か」を明らかにしていくことであろう。モノマネ芸人とそういうところは近いかもしれない。例えば「この人はこんなこと言うよな / こんな表現するよな」と言った具合である。ここまでこの文章を読み進めている人は恐らく「バッカモーン!」や「姉さんならそう言うと思ったよ」とだけ書いても誰の発言かはわかるだろう。あくまでもこれは表面的なキャラクター研究であり、基礎的な部分だろう。

 さて、自分の夢小説にオリジナリティを持たせたい場合にすべきことは様々ある。誰視点で書くかであったり、オリジナルキャラクターの設定であったり、捏造設定であったりと挙げ始めたらキリがない。その中でとりわけ重要なのが、キャラクターの内面にフォーカスを当てる場面である。夢小説の多くが恋愛小説であると仮定して書き続けると、キャラクターの恋愛模様を想像して、オリジナルキャラクターとの交流を描くことだろう。そのためには、公式で出てきたセリフや他のキャラクターとの関わりの中から人間性を推測していくこととなる。公式の設定集を舐めるように読み、公開された情報を拾い集める。それこそが人間性理解のための重要なキーワード、キーアイテムとなるからだ。そして、公式では扱われないだろう場面を夢小説作家は創作してくのだ。
 ここで夢小説家は、葛藤することとなる。自分の都合だけ自分の見たいシーンを創り出すことはもちろん可能だが、その過程でキャラクターが果たしてそのような行動を取るだろうかと。例えば、磯野カツオ×夢主の夢小説だとする。「憧れの男の子に勉強を教えてもらうシチュエーション」は作者ないし読者の憧れのシーンの一つだろう。しかし、カツオのキャラクター性を考えた時に、このシチュエーションは成り立つのだろうかと言ったところだ。
 また、作者がキャラクターに言わせたいセリフがあるとして、それを言わせるのはどうなのかという葛藤もあるだろう。上記の例で話を進めると、「君しか見えないんだ、俺と付き合ってくれ。」と熱烈なアプローチをカツオはするだろうか、否、しないだろう。このように、自分好みのシチュエーションを創り出すためには、そのキャラクターらしさの理解が必要であり、時には、作者の表現したいストレートな表現「君しか見えないんだ、俺と付き合ってくれ。」から、「僕は、カオリちゃんが好きなんだ!」に変更する必要も出てくる。
 このように、キャラクターの内面と向き合って、キャラクターのことを調べ尽くして創られた夢小説は、キャラクター思考実験のアウトプットと言えるだろう。十分にキャラクターを研究して創られた、キャラクターの研究成果とも言える。
 「おもしれぇ女」を夢主としながらも、キャラクターの解像度の高い作品も世の中に存在するので、夢小説は奥が深い。

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