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ウィズコロナ時代における認知症のある人との対話  大石智

連載第5回 決めつけと嘘

認知症だからわからない?

「認知症だから言ってもわからないという決めつけがある」「入院するのは本人なのに認知症だからわからないに違いないと決めつけられて十分に説明されないことがある」という、認知症のある人の言葉を耳にする機会がありました。こうした決めつけは、認知症について理解を深めているはずの支援する人の中にもまだまだあるようです。きっと私の中にもまだあるはずです。

嘘の温床

 決めつけは嘘の温床になります。何を言ってもわからない、何を言っても忘れてしまうという決めつけは、何を言っても構わないという発想を生み出します。「そろそろ自宅に帰ります」と言う長期入所している認知症のある人に、例えば「ご主人の到着が遅れているのでもう少々お待ちください」という対応は今も聞くことがあります。また、認知症のある人を取り囲む設備や装置の中には嘘が珍しくありません。普通に押しても作動しないエレベーターのスイッチはその代表例と言えるでしょう。

決めつけが生む傷

 しかし嘘も方便と言います。支援の方法を工夫し、試行錯誤を繰り返してもうまくいかない時や、認知症のある人や周囲の人に危険が生じてしまいそうな時には、嘘も必要かもしれません。しかし決めつけから生まれる嘘は、決めつけを確信に近づけます。確信に近づいた認知症のある人への決めつけは、認知症のある人を傷つけるでしょう。そして「私が何を言っても誰も取り合ってくれない」というあきらめを生み、孤立感を強めることになります。

支援の中の嘘に敏感になれ

嘘は繰り返されるうちに、嘘をつく人の嘘という自覚を麻痺させます。それは結果的に認知症のある人の尊厳を重んじる姿勢を奪いかねません。嘘は時として必要なことかもしれませんが、支援に携わる人たちは認知症のある人への嘘にもう少し敏感になり、支援の中で生じることのある嘘について、折に触れ考える必要があるように思います。

(この回で連載は終了です。ご購読ありがとうございました。)

著者の大石智先生 プロフィール

1999年 北里大学医学部卒業
2001年 駒木野病院精神科
2003年 北里大学医学部精神科学助教
2019年 北里大学医学部講師、相模原市認知症疾患医療センター長

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