見出し画像

がんとともに生き抜く  新見正則

センチネルリンパ節生検の登場で、不要な手術を省略可能に

これまでは、摘出したリンパ節の転移の状況で抗がん剤を追加するかを決めていました。しかし、腋窩リンパ節を広範囲に摘出(腋窩郭清)するとその副作用として、腕がむくむ状態(リンパ浮腫)を高頻度に招いていたのです。本来、リンパ節にがんの転移がなければ、リンパ節郭清はしなくてもいい手術。しかし、そうするしか当時は方法がありませんでした。

 そんな不必要なリンパ節郭清を省略するために登場したのがセンチネルリンパ節生検です。腫瘍に色素や放射性同位元素を注射して、それが辿り着くリンパ節(センチネルリンパ節)を迅速病理検査で調べ、そこにがんがなければリンパ節郭清を行わないという戦略です。センチネルリンパ節生検の登場で不要なリンパ節郭清を省略することが可能になりました。

免疫チェックポイント阻害剤の登場

 1960年にノーベル医学生理学賞を受賞したバーネットが語ったように、がん細胞とわれわれの身体は共存しています。自分の免疫システムでがん細胞の暴走を防いでいるのです。これまで、がんの3大治療といえば、「外科療法」「放射線療法」「薬物治療法」の3つでしたが、4番目の治療として以前から「免疫療法」がトライされていました。ところが、免疫力を亢進させる作戦は、どれも失敗に終わっていました。

 そんななか、免疫チェックポイント阻害剤を使用し、免疫のブレーキを外すことで免疫力が上ることがわかりました。オプシーボの登場です。オプシーボとは、免疫チェックポイント阻害薬の一種で、薬の作用によってがん細胞を攻撃できるようになるというものです。これを発見した京都大学の本庶佑先生はこの業績が讃えられ、2018年にノーベル医学生理学賞に輝かれました。免疫チェックポイント阻害剤は、乳がんでも免疫チェックポイント分子(PD-L1)陽性の再発乳がんでまず公的医療保険が認められました。免疫力を上げる薬剤なので、すべてのがんに有効な可能性があると本庶佑先生も語っています。

 身体に備わった自分の免役力を利用する作戦のため、リンパ節もリンパ球も治療のうえでとても重要な役割を果たします。つまり、リンパ節を摘出する外科療法、リンパ球が減少する薬物療法よりも先に免疫療法が施行する必要がされることになると思います。

免疫チェックポイント阻害剤の問題点は、有効な割合が2割から3割で、その有効者を探し出す方法がまだ不十分であることです。一方で素晴らしい点は、有効な場合は免疫チェックポイント阻害剤を中止後もその効果が維持されることです。

免疫力を上げる薬「生薬フアイア」とは

 免疫チェックポイント阻害剤は、自己の免疫力を高める作戦なので、自己の免疫力をほかの方法でもあげていくことが重要なポイントとなります。
 奥村康先生は、その方法として①規則正しい生活、②笑いの効果、③ストレスへの対処、の重要性について話しています。大規模臨床試験の検証はありませんが、どれも経験的に「よい」とされているものです。

 免疫力を上げるものとして理想的な条件は、明らかな抗がんエビデンスがあること、そして副作用がほぼないものの2つがあげられます。
 なんとそんな魔法のような薬剤が存在しています。その薬の正体は、中国で1993年から抗がん新薬として認められている「生薬フアイア」です。この生薬フアイアを使って、約1000例規模の肝臓がんの手術後の患者さんをくじ引き試験で内服群と非内服群とに分け、実験を行いました。その結果、約2年後には非内服群に比べ、内服群が無事、高い再発生存率を残す結果となったのです。

 現在では、乳がんの領域でも生薬フアイアの大規模臨床試験が進行中で、フアイアはステージIIIのトリプルネガティブ乳がんで良好な成績を出しています。

将来の乳がん治療

 私たちの身体のなかで毎日つくりだされるがん細胞。免疫システムの監視から逃れて増殖したがん細胞ががんになる時はいつなのか。それを知る方法が私たちには必要です。そしてついに、血液一滴からがん増殖の超初期段階を知る、そんな試みが近年、実現する現実味を増してきています。この検診方法をリキッドバイオプシーと呼びます。リキッドバイオプシーが普及し、さらに精度が上がれば、将来的にがん検診は不要になっていくでしょう。血液検査の際に、リキッドバイオプシーが陽性とでた人にのみ、がん検診を行えば良いからです。

 それだけでなく、がんの標的物質もどんどんと発見され、それに対する分子標的薬も開発されるでしょう。術前の薬物治療でがんがなくなれば(病理学的完全奏功が得られれば)、そしてがんがなくなったかどうかをリキッドバイオプシーで確認できれば、外科手術は今後不要になるでしょう。

 一方で、検査の精度が向上しすぎるとリキッドバイオプシーでは陽性を示しているのにがんが見つからない、ということが起こりえます。そんな時は、副作用がほぼなく、明らかな抗がんエビデンスのあることを、積み重ねていくことがいいでしょう。現状では、抗がんエビデンスのある生薬フアイアを飲むことだと思っています。

みなさんにメッセージ

乳がんを例にがん治療のパラダイムシフトをまとめました。今回わたしが伝えたかったのは、「がんとは共存して生き抜けばいい」ということ。免疫力を下げてまで、無理な治療を行うことは御法度と思っています。

乳がんかもしれないと心配な方は乳腺クリニックを受診してください。早期に見つかれば100%近くの生存率を期待できます。

そしていま、乳がんを治療されていて、不安な気持ちを持っている方もいるでしょう。いまや世界は、迅速に変化する時代になりました。新しい薬剤もどんどんと登場します。希望をもち、免疫力を上げて、生き抜きて下さい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?