BOOK REVIEW 『そこが知りたかった! 精神科薬物療法のエキスパートコンセンサス』
評者
稲垣 中(青山学院大学教育人間科学部教授 / 同大学保健管理センター所長)
若手から教授級の重鎮まで,大学病院,総合病院精神科から単科精神科病院,精神科診療所まで,日本臨床精神神経薬理学会の専門医が総力を結集して構築されたうつ病,双極性障害,および統合失調症の薬物治療に関するコンセンサスについて解説する『そこが知りたかった! 精神科薬物療法のエキスパートコンセンサス』が発刊された。
精神科領域でもこれまでに数多くの臨床試験が行われ,さまざまなエビデンスが蓄積されてきたが,今なお明確な結論が出ていない臨床上の疑問(clinical question : CQ)は少なくない。そこで日本臨床精神神経薬理学会の教育委員会はうつ病,双極性障害,および統合失調症の薬物治療に関する61の主要なCQに関するウェブ媒体のオピニオン調査を行い,その結果に基づいて,当該状況に対して最初に試みるべき「一次選択治療」,一次医療のなかでも特に推奨される「最善の治療」,一次選択治療が副作用のために継続できなかったか,効果が不十分であった場合に用いられる「二次選択治療」,一般的には不適切であるが,よりよい選択肢が効果不十分であったか,副作用の問題で実施できなかった場合にのみ検討される「三次選択治療」などといったランキングをして,各治療選択肢の推奨度をわかりやすく本書に提示した。
同様の趣旨の書籍は,これまでにもAllen Francesらの『エキスパートコンセンサスガイドライン 精神分裂病と双極性障害の治療(1997)』をはじめ,多数存在するが,本書は今回構築されたコンセンサスについて解説しているのみならず,当該CQに関する他のガイドラインやシステマティック・レビューに関する簡にして要を得たレビューも付されている点が特徴的である。すなわち,本書はうつ病,双極性障害,および統合失調症の薬物治療の基本的原則に関する最新のエキスパート・コンセンサスとエビデンスを集約したという点において,他に類のない有益な書籍であり,これから精神科の臨床研修を開始する後期研修医にとって必読,かつ必携の本と言えるであろう。
難を挙げるとすれば,携帯性を重視した結果,やむを得ないこととは思うが,筆者のような老眼に悩まされている世代の者にとって書籍版は文字や図表が小さ過ぎることである。出版社に聞いてみたところ電子書籍もあるそうなのでこういった診療に欠かせないものは電子版がよいかもしれない。
今後,社交不安障害やパニック障害,強迫性障害などといった他の精神障害の薬物治療に関するコンセンサスも第2弾,第3弾として作成・出版され,シリーズ化されることが期待される。
※本書評は『精神医学』64巻12号(2022年12月)に掲載されています。
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https://store.isho.jp/search/detail/productId/2205795520
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