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ウィズコロナ時代における認知症のある人との対話  大石智

連載第4回 介護疲れを動機とする刑事事件に触れて
想うこと


介護する人と認知症のある人の孤独

 介護する人による認知症のある人への殺人や傷害などの刑事事件に関する報道を目にすることがあります。職業柄、そうした事件の精神鑑定業務に携わることもあります。こうした事件が生じる過程には、様々な要因があります。事件ごとに個別性のあることだとは思いますが、共通するのは介護する人と認知症のある人の孤立です。


支援の手が届かない人たち
 

そんなことはない、地域包括支援センターがくまなく設置され、介護保険制度の中で介護する人も認知症のある人も孤立なんてしていないという意見もあるかもしれません。しかしどれだけの人がこうした支援機関や制度のことを知っているでしょうか。外来で診療していても、地域包括支援センターのことを知らない人は稀ではありません。その存在を知っていても連絡先をどのようにして入手したら良いか知っている人の方が少ないような気がします。また、特にヤングケアラーと呼ばれる20代以下の介護する家族は、介護する上での負担を軽減する必要性を発想することすら困難です。彼らは学業や仕事に追われ、どのように介護するかということを考えるゆとりはありません。支援機関や制度がひろがっても、支援につながりづらく介護する人が孤立しやすい状況はあります。


たとえ支援があったとしても

支援につながっていれば問題ないというわけではありません。報道される事件の当事者や精神鑑定業務で出会った人たちは、様々な支援やサービスにつながっていることが少なくありません。しかし、つながっていても拭えない孤立感が読み取れます。デイサービスや訪問介護士の支援を利用している時間帯以外、介護する人と認知症のある人は周囲から閉ざされた関係性になりがちです。認定された介護度や経済状況によっては、十分な支援を受けづらい状況もあります。支援につながっていても介護する人と認知症のある人が孤立感を抱きやすくなっていないか、そうした視点はいたましい事件を繰り返さないためにも大切なことのように思われます。


認知症予防よりも共生

世界アルツハイマー月間の9月は、各地で認知症に関する啓発イベントが開催されます。新型コロナウイルス感染症が流行し、人々が集まり触れ合う機会を確保することは難しくても、リモートによる講演会の開催や、テレビやラジオを通した情報発信が役立っているようです。認知症のある人、本人による発信も増え、この数年で認知症に関する啓発は良い方向に向かっているように感じています。あらゆる人が認知症について理解を深めることは、介護する人、認知症のある人の孤独感を和らげてくれるはずです。予防よりも共生や包摂という視点で啓発活動が進められ、認知症のある人と介護する人が孤立しない社会に向かうことを願っています。

著者の大石智先生 プロフィール

1999年 北里大学医学部卒業
2001年 駒木野病院精神科
2003年 北里大学医学部精神科学助教
2019年 北里大学医学部講師、相模原市認知症疾患医療センター長

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