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フローチャート整形外科漢方薬 刊行に寄せて

整形外科医に新しい武器!

鎮痛薬だけでは治しきれないさまざまな訴え、痛み、炎症などに漢方薬で対応しましょう。時間をかけずに簡単に処方できるフローチャートで、ただ我慢していただくしかなかった患者さんがぐっと楽になることがあります。
どうして今まで処方していなかったのか、使ってみれば、驚きます。

気になる読者のために、監修  武藤芳照先生   「監修の言葉」をご紹介いたします。


武藤芳照先生


              監修の言葉

 「情理を尽くす」という言葉があります.人間らしい感情(human)と物事の道理(science)を大切にして,それぞれの課題に対応することを意味しています.情が過ぎて,理を軽視・無視すれば,効果がないばかりか,かえって害をきたすことがあります.一方,理が過ぎて人の気持ちを軽視・無視すれば,かえって心を傷つけてしまうことがあります.

 本書は,一連の「モダン・カンポウ」シリーズの整形外科編として企画・制作されました.西洋医学の外科医として長年の国内外の臨床経験と学術研究の実践を有し,「モダン・カンポウ」の提唱者・実践家である新見医師の理論体系を基盤に,関西および都内の第一線の整形外科医として豊かな臨床経験を有し,今も数多くの手術を手がけているベテランの冨澤医師が協働で構成・執筆した書です.お二人の患者さんへの温かなまなざしと明朗闊達なお人柄が重なって,まさしく「情理を尽くす」医学書として生み出されました.

 かつて「蘭方」と称された西洋医学と医療が本格的に導入されて以来,「漢方」は,難解で近寄り難く,時には「妖怪」(新見医師)のような存在として敬遠されてきた歴史があったことは確かであり,今もそのような思いを抱いている医療従事者もいることでしょう.

 「モダン・カンポウ」は一言で表わせば,「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」(作家・井上ひさし)語り伝え広め,日本の医療の幅を広げ,より心温かで,信頼される医療現場にしよう,という新見医師の熱い思いと鋭い感性の結実といえる治療体系ととらえています.

 新見医師の漢方の恩師であり,東洋医学の泰斗である松田邦夫医師が強調される漢方の定石が守られつつも,思いきった新たな方式で,柔軟でより実践しやすいこの処方のフローチャートが,臨床の各科に応用されつつあります.

 わび茶を完成した千利休の教えを和歌の形式にまとめた『利休道歌』の1つに「規矩作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」とあり,「守・破・離」の原典とされています.

 本書に記載された漢方も,基本は守りつつ,大胆な発想と柔軟な姿勢で破り,離れてはいますが,本来あるべき医療の基本姿勢は保たれているのです.

 整形外科学は,運動器の専門医学です.運動器は,身体の表現系の器官です.本書が,1人ひとりの患者さんが「動く喜び 動ける幸せ」(公益財団法人運動器の健康・日本協会の標語)を実感でき,人生の希望が生まれるような医療の実現に役立つことを切に願っています.

2023年3月
 一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所 代表理事・所長
                   東京大学名誉教授 武藤 芳照


新見正則先生


               序に代えて

フローチャートシリーズの第1 弾『フローチャート漢方薬治療』が世に出て12 年が経ちます.漢方理論も漢方診療も基本的には不要という立場で,西洋医が今困っている患者さんに保険適用漢方エキス剤を処方する方法をフローチャートで示した書籍です.この書籍がシリーズとなり,12 年後のいまでも増刷を繰り返すことになるとは,著者も出版社も想像していませんでした.多くの西洋医の先生方のサポートがあったお陰です.漢方薬を,漢方を極めた専門家だけのものにしていては未来がないと,僕は思っています.それ以上に,今困っている患者さんが可哀想です.漢方薬の難しい理論を知らずに,フローチャート的に処方しても患者さんの多くは症状が良くなり,そして治るからです.西洋医学以外の保険適用の治療として,漢方薬が使えます.エビデンスがないという理由から,漢方薬を否定する先生方の数はここ数年で激減しました.その理由は使ってみれば効くことがあると腑に落
ちるからです.せっかく保険診療として認められている漢方薬です.漢方が嫌いでも,漢方にまったく興味がなくても,是非ともこの書籍を手に,使ってみてください.

 僕が必死に漢方を勉強している頃,漢方診療の重要性を証明したく思っていたので,漢方診療を行う群と行わない群とのランダム化比較試験を実施して,漢方診療を行う群が勝ち抜くことを期待していました.そのためには,まず臨床試験のコントロール群を作る必要があったので,漢方診療なしで
症状から導き出された処方を集めたのです.それが『フローチャート漢方薬治療』の始まりでした.さらに,師匠の松田邦夫先生からは「大塚敬節先生の陪席をして,しばらくすると私はほぼ先生の処方を当てることができた」と伺いました.

続けて松田先生に「その後に漢方診療を行って,処方が変更されることはどのくらいありましたか?」とお尋ねすると,即座に「1 割」とお答えになりました.その時「漢方診療を行わなくても9 割の処方が導き出せるのであれば,西洋医にとっては,そして初心者にとっては,それで十分だ!」と思っ
たのです.

 松田邦夫先生に敬意を表して書き添えますと,松田先生は上記のご発言のあと,さらに「漢方診療を行って変更した処方が,変更前の処方よりも良いという証拠はありません」とも仰いました.とてもサイエンティフィックなお言葉で,今でもその時の感激は忘れられません.明らかなエビデンスが
少ない漢方だからこそ,盲目的に信じるのではなく,批判的立ち位置で処方を観察することが必須だと思います.

 本書では併用処方が多く,新しい作戦が含まれています.いままでのフローチャートシリーズを踏襲しつつも,進化を感じます.大切なことは,患者さんが治ることです.その事実の積み重ねがあって,その後に処方選択に役立つ理論が,仮想病理概念が,登場するのです.理論が先走ってしまうと,
特に漢方の世界ではまったく有益ではありません.実臨床が第1 なのです.

 ようこそ,フローチャート漢方薬の世界に!

2023 年3 月
                           新見 正則


新見先生のコラム、1つだけご紹介!


           新見正則の守・破・離

日本の武道や習い事での上達の過程を「守・破・離」と呼びます.

守は徹底的にパクることです.僕はTTPと称しています.そして次の段階が破で,ちょっとはみ出すことです.TTP に修正または進化,進歩などを加えるのでTTPS と称しています.最後の段階が離で,まったく別の世界を描くことです.僕の漢方の上達は守・破・離の順に進みました.まず,師匠の松田邦夫先生の処方方法を徹底的にパクって『フローチャート漢方薬治療』(新興医学出版社)を出版しました.

松田邦夫先生をパクったので,発売後10 年以上経過しますが,間違いはありません.フローチャートは誰もが過去を捨てればできたことです.しかし過去の呪縛から離れることができずに誰も行っていませんでした.僕は松田邦夫先生に「いろいろな漢方があって良い」と言われ,出版しました.漢方診療をしないで最初に思いつく処方を並べただけの書籍です.しかし,当時は誰もそれを行えませんでした.

 そして,破に相当するものが『3秒でわかる漢方ルール』(新興医学出版社)です.松田邦夫先生をTTP した上に僕の進化の「S」を加えた僕らしい本です.すべてを丸暗記していた知識を生薬構成から漢方薬の性質を類推する方法としてまとめました.この方法なら誰でも漢方の玄人を気取ることができます.

 さらに僕の離は,松田邦夫先生が使っていなかった生薬フアイアを加味することです.詳細は『抗がんエビデンスを得た生薬フアイア』(新興医学出版社)をご参照ください. 

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