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月評出張版

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「月評」は前号の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評するという企画です.「月評出張版」では,本誌と少し記事の表現の仕方を変えたり,…
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修繕行為の創意工夫─特集:アクティベートの手法─『新建築』2018年4月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年4月号(Amazonはこちら) 新建築2018年5月号(Amazonはこちら) 評者:深尾精一 目次 ●アクティベートの手法 ●「リビング・ヘリテージ」─意欲的なリノベーション・コンバージョン─港区立郷土歴史館等複合施設(ゆかしの杜) ●「リビング・ヘリテージ」─人

『新建築』2018年3月号を評する─『新建築』2018年3月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年3月号(Amazonはこちら) 新建築2018年4月号(Amazonはこちら) 評者:深尾精一 目次 ●東日本大震災復興事業の公共施設 ─釜石市鵜住居小学校・釜石市立釜石東中学校・釜石市鵜住居児童館・釜石市鵜住居幼稚園|小嶋一浩+赤松佳珠子/CAt ─釜石市立唐丹小

閉鎖系建築家と開放系建築家 ─ 特集/「環境住宅」その先へ 地球と共存する住まいのアイデア─『住宅特集』2018年4月号月評

『新建築住宅特集』では、毎月、さまざまな作品や論考、記事を掲載し、広い射程をもって住宅から明日を拓く建築の可能性を伝え記録しています。しかし重要なことは、議論の場をつくることにあります。限られた誌幅の中で示されたものから何を考えていくべきか、それぞれの読み解きや発見を共有し、建築を取り巻く多くの事象や環境と共に議論を重ねること。この座談月評は、その場を広げていくことを目的に掲載します。2018年1~12月号は、西沢大良さん、吉村靖孝さん、西澤徹夫さんを評者として、1年を通して

「規制緩和」と「地方分権」のせめぎ合い─『新建築』2018年2月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年2月号(Amazonはこちら) 新建築2018年3月号(Amazonはこちら) 評者:饗庭伸 目次 ●「制度」について ●「規制緩和」と「地方分権」のせめぎ合い ●大学における学生寮のあり方 ●民間企業がつくる学生寮の可能性 ●事業の収益性の中で有名性を持てるデザイ

ASIMOは「あえて転びにいく」─『新建築』2018年2月号月評

「月評」は『新建築』の掲載プロジェクト・論文(時には編集のあり方)をさまざまな評者がさまざまな視点から批評する名物企画です.「月評出張版」では,本誌記事をnoteをご覧の皆様にお届けします! 新建築2018年2月号(Amazonはこちら) 新建築2018年3月号(Amazonはこちら) 評者:中山英之(建築家) ●「あえて転びにいく」プロセス ●「建てる前の情報量が増え続ける歴史」 ●明確すぎる解答を示さ「ない」 ●時代は加速し続けている 「あえて転びにいく」プロセス

デベロッパーの視点から見る─『新建築』2018年1月号月評

今月から隔月で月評を担当させていただく.私の役割としては,デベロッパーのインハウスアーキテクトとして,さまざまなプロジェクトに関わってきた立場からの率直な意見を述べることと考えている. 具体的には「利用者の視点」,「都市的な視野」,「時間軸の視座」という3つの切り口に沿って眺めていきたい. どれも都市開発事業にとっての基本的な評価軸であると同時に,今後の「建築」を語る上でも設計者が意識すべき重要なテーマだと感じているからである. 「手続きの創造性」1月号でまず興味を持っ

「建築家」のあり方,市民社会の象徴としての建築のつくられ方─『新建築』2018年1月号月評

「建築家」という職能システム連 槇文彦さんによる建築論壇:変貌する建築家の生態(『新建築』2017年11月号掲載),そして1月号の建築論壇:建築の設計とこれからでは非常に重要な問題提起がされています. 発注の仕組みについては,建築界全体が団結して,継続的に議論していくべき重要なことです.ここ数年,新国立競技場問題をはじめ,日本において建築家という職能に基礎となるフレームが制度の面で根付いていなかったということが,さまざまなかたちで顕在化しています. 「建築家」という職能

『新建築』2018年1月号を評する─『新建築』2018年1月号月評

冒頭の建築論壇:建築と設計のこれからは,読み応えのある座談会であった.若い設計者には,一読をお奨めしたい. 荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館) 荘銀タクト鶴岡(鶴岡市文化会館)は,隣接して建つ歴史的建造物である藩校の,照りと反りの付いた屋根を意識したのであろうか,SANAAらしい複雑な形状の屋根が特徴的である.コストによる制約かもしれないが,軒垂木の荒々しい扱いが,内部のルーバー天井とそれを支える鋼管の軽快な構造を効果的にしている.写真で見る限りなので想像の域を超えないが,

建築の関わり方について─『新建築』2017年12月号月評

*連担当月評は,毎回新建築青山ハウスで公開収録を行っています.興味のある人はイベントページを確認して是非ご参加ください!(第4回は3月17日14:00〜です!) 連勇太朗 能作文徳 都市生活者と地方生活者の価値観の乖離 連  今月は,論考,前半部,後半の福祉特集という3つの構成でしたが,軸になるような視点は見つけにくいラインアップでした. 建築論壇:世界の縮図を記述するでは,一般的な設計製図教育とは異なる建築の学び方が示されています.日本の建築教育は設計をスキルとし

『新建築』2017年12月号を評する─『新建築』2017年12月号月評

2018年の月評を担当することになったが,のっけから難しい作品に当たってしまった. ガンツウ ガンツウはまことに論評しにくい作品である. 船員室などの下層の上に載っているのは,紛れもなく建築のつくり方による構造物であるが,建築として評価するのは適切ではないであろう.船舶の標準的な設計の際の要求条件を知らないので,嵐の時の風荷重はどうなるのだろうなどと考えてしまう.穏やかな天候であれば,最上階は確かに気持ちよさそうである.ただ,作者が力を入れたであろうその部分と,1・2階

海を知って魚になる─『新建築』2018年1月号月評

オフィス以前に海をつくろうとする試みNICCA イノベーションセンターのインテリア写真にある「光」に,力の入った建築の並ぶ1月号の中でもひときわ,目を奪われました. 解説文中の「熱負荷を地球に還す」「光を冷やす」といった美しい言葉づかいに現れているように,設計チームが「光」を全波長的に捉え,素朴な仕組みでそれらを分解し,選り分ける手つきそのものが建築の総体を一気に立ち上げる,その鮮やかさに感動します. 水深の浅い白砂の海中写真を見るような明るさに満たされた吹き抜けの細部に

「法」と「制度」から建築を考える─『新建築』2017年12月号月評

建築を規定する「法」と「制度」という言葉を使い分けて1年間考えていきます. 法(建築基準法や都市計画法など)+制度(依頼者や市民や地域社会が持つ規範のようなもの)=ドゥルーズ(『哲学の教科書』,1953年)にならって,法という言葉を「行為の制限」と,制度という言葉を「行為の肯定的な規範」として使います.どちらも人間がつくり出すものですが,建築に置き変えると,法は建築基準法や都市計画法などであり,制度は依頼者や市民や地域社会が持つ規範のようなものでしょうか.このふたつの総和と

建築にとって「他者」とは誰のことでしょうか?─『新建築』2017年12月号月評

からまりの他者性.これは,平田晃久さんがTree-ness Houseの解説に書かれている言葉です.さて,この「他者」とは誰のことでしょう. 読み方はいくつもある気がしますが,僕は益子義弘さんが著書で書かれていた 「木陰の気持ちよさには,木の側にそうしてやろうという意図がないことも含まれている」 という言葉を思い出しました. 確かに「木」というただそこに超然と立つのみの存在に「気持ちよさ」というアビリティを与えているのは,木陰で休む誰かであって木ではありません.与えら