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戦で夫を失った嫁と姑の情欲の物語『鬼婆』(1964年、新藤兼人監督)レビュー


 『鬼婆』は1964年に撮られた日本のホラー映画です。新藤兼人監督がメガホンを取っています。

 ホラーといっても、別に怖い映画を見せられるわけではなく、14世紀を舞台に、湿地帯の村で戦に出た夫の帰りを待つ母と嫁、そこにふらりと現れる中年男が繰り広げる性の人間ドラマが描かれるだけです。

 この時代の作品にしては意外なほど濡れ場やヌードシーンの多い映画で、官能作品として見た場合でも隠れた名作だと思います。性に飢え、悶々とした嫁を吉村実子さんが、彼女の情交を目撃し、嫉妬や不安に駆られる姑を乙羽信子さんが演じます。

 ネタバレを少し含みますが、以下ストーリーです。

 草高い沼地に藁葺きの小屋を建てて生活する姑と嫁は貧困と戦火の中、この地域に逃れてくる落ち武者を殺しては、鎧や刀を奪い、それを売り捌いて生計を立てています。二人は戦に行った夫の帰りを待っているのですが、ある日、同じく村から戦に駆り出されていた別の男が先に村に帰ってきます。男は二人が待つ夫はもう死んだと告げます。待っていても帰らないから、生きていくために俺と組んではどうかと提案するのです。

 軽蔑するように男を睨んでいた姑と嫁ですが、男は諦めません。執拗に二人の元に現れるようになります。男はさらに、まだ若くその色気を持て余した嫁に興味を持つようになり、自分の家に来るよう誘うようになります。嫁は最初は強がっているのですが、ある日、悶々とする気持ちを抑えきれず、男の家を訪ね、胸に秘めていた熱情を男にぶつけます。

 これを知った姑は激しく嫉妬し、男の元に押しかけていきます。最初は自分も抱くよう、男を誘惑するのですが、男は老いた姑には興味を示さず、彼女を追い返してしまいます。嫁が男に取られると、年老いた姑は一人で暮らさねばならなくなります。姑は日増しに関係を深める二人の姿に不安な気持ちを抱き始めます。

 ある日、いつものように落ち武者を仕留めた姑はその落ち武者のつけていた般若の面(鬼の面)を顔に装着します。湿地帯の草木の陰に身を潜め、夜中に家を抜け出して男の元に向かおうとする嫁の前に立ちはだかると、鬼のふりをして驚かし、嫁を家に追い返してしまうのです……。

 若妻の吉村実子さんが魅力的なのは言うまでもないのですが、乙羽信子さんも熟れた肉体で色気を振りまいています。この時代、ここまで脱いでも大丈夫だったんだと驚かされます。二人は劇中、ボロボロの着物を着て生活しており、開いた襟元から常におっぱいが覗いている状態です。夜はその着物を上半身だけ脱いで、家の中の茣蓙むしろに横たわって寝ているのですが、そこに常にカメラが向けられ、二人の官能的な姿が随所で映し出されます。

 佐藤慶さんが戦帰りの男を演じているのですが、彼が現れると、吉村さんはさらに可愛い女の顔になって、彼に抱かれに走るようになります。全裸で湿地帯を疾走する印象的なシーンも登場します。ホラーというよりは完全に人間の性をテーマとした作品だと思います。

 新藤監督は今村昌平監督などと同じで、男女の性を描かせるととても上手な監督さんだと思います。古い作品ですが、古さを感じさせない素晴らしい作品なので、興味のある人はぜひチェックしてみてください。
 
(了)

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