見出し画像

人食い近親相姦一族・ソニービーンの伝説


 ロンドンのとある監獄が保有する犯罪カタログに、15世紀頃、スコットランドにいたという食人一族の長・アレクサンダー・“ソニー”・ビーン(Alexander Sawney Beane)の記述が残っています。本当に実在したかどうかは怪しい人のようですが、サウス・エアシャイアの洞窟は、ソニー・ビーンの一族が暮らしたと言い伝えが残る場所として今もスコットランドの観光地となっています。

 ソニー・ビーンは若い頃から粗暴でわがままな性格で、よく周囲とトラブルを起こしていたそうです。20代の頃はそれでも日雇い労働者であった父の仕事を手伝って生計を立てていたようですが、長続きせず、ある日、父と喧嘩をして家を飛び出してしまいます。

 社会とうまく馴染むことができなかったビーンはその後、自分とよく性格の似ていた一人の女性と出会い、街を離れて、ブリテン島西岸にあった前述の洞窟で一緒に暮らすようになります。この洞窟は満潮時に海面下に入口が隠れるため、二人の隠れ家としては最高の場所でした。


 15世紀というと、日本では足利義満らの時代です。この時代のスコットランド人がどんな暮らしをしていたかは全く想像がつかないのですが、洞窟で仕事もせずに男女が暮らすわけですから、当然、サバイバル生活を送るわけです。日々の生活の糧を得る為、二人はやがて共謀し、周辺にやってくる旅人に襲いかかって、金品を奪うようになります。

 最初は奪った金品で食料を調達していましたが、やがてそれだけではやっていけなくなり、飢えをしのぐために、ビーンと妻は襲って殺した旅人の肉を食べるようになります。

 記録によればビーンの妻は、夫に負けじとかなりの性悪で、性欲が強い女性だったそうです。食人を最初に提案したのも妻の方からだといいます。

 洞窟の中で飢えをしのぎながらも二人はセックスに没頭し、気がつけば男8人、女6人の子を洞窟で産み落としていました。ビーンと妻を含め、16人の大家族となったわけです。家族が飢えずに暮らすためにはさらに多くの食料が必要になりますから、二人の犯罪ペースはどんどんと加速していきます。

 子供達が大きくなると、やがて、狭い空間の中、父と母を交えて、兄弟姉妹同士が近親相姦を繰り返すようになり、さらに男18人、女14人の子供が誕生します。ビーン一族は約50人の大世帯となったのです。子供達はまともな教育を受けられなかったので、どの子も読み書きができず、凶暴でだったそうです。ビーンはそんな子供や孫に、殺人の仕方や、殺した人間の解体方法、食糧加工技術を教え、一族を強力な殺人集団へと変えていきます。


 ビーン一族の人狩りの方法は毎回、用意周到で、隙がなかったそうです。襲う相手の人数も5人以下と決めて行動し、兵士となった子供達を周辺に配備させ、狙った相手を一人も逃すことなく確実に捕獲して洞窟に連れて帰たといいます。捕らえた人間は食品加工して食べてしまうので、死体も発見されません。約25年間の間に、数百人の人間が犠牲になったと言われます。

 しかし、この地域で度々旅人らの失踪事件が相次ぐので、やがて、現地の治安当局が動き始めます。最初はビーン一族の存在がわからなかったので、他の素行不良者や犯罪履歴のある人間が捕まって、冤罪のまま処刑されてしまっていたようですが、ある時、夫婦を襲ったビーン一族が妻を捕獲したものの、夫を取り逃がすという失態を犯してしまい、逃げ帰った夫の証言により、一族の存在が治安当局に知れてしまいます。

 事態を重く見たスコットランド王朝のジェームズ1世は400人の兵士を集めて、ビーン一族の暮らす洞窟へ向かいました。洞窟の場所をなかなか見つけ出すことができなかったようですが、猟犬が匂いを嗅ぎつけてビーン一族の洞窟が発覚。なだれ込んできた兵士たちにビーン一族は全員捉えられてしまいます。


 洞窟の中からおびただしい数の盗品や人骨、加工された人肉が発見されました。一族は全員極刑となり、処刑場でかなり残酷な処刑のされ方をして命を落としました。男は両腕両足をナタで切られて失血死させられ、女性はそれを見ながら火あぶりの刑となったといいます。幼児や赤ん坊もその場で処刑されました。記述によれば、ビーンの一族は全く反省の色もなく、処刑が行われる最中も、周囲に対し罵声を浴びせ続けていたといいます。

 背筋の凍るような恐ろしい事件ですが、世界を見渡すと、実は似たような事件がその後も何件か残っています。人目を避けるように隔離された空間で近親相姦により形成された一族が、独特のルールと価値観を形成し、非人道的な行動を行う事件が他にもあるのです。最近の例だと、1980年代にカナダで起こった「ゴーラー一族」の事件もそうかもしれません。また、そんな事件についても紹介していきたいと思います。

(了)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?