落語の世界の近親相姦 「故郷へ錦」〜母に恋した作次郎〜
落語の世界で男女の性愛をネタにしたものを『艶笑落語』『バレ噺』というそうです。『バレ噺』のバレ(破礼)は「隠しているものをばらす」という意味からきているそうです。
調べると、近親相姦を題材とした艶笑落語もありました。「故郷へ錦」という落語です。いつ頃書かれたものかわかりませんが、母子相姦が題材となっています。落語の言葉のままだとストーリーが伝わりにくいので、小説風に要約したストーリーを下記に書きます。
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ある母親が、家で何かを思いつめて苦しんでいる息子を心配し、自分の兄の元を訪ねます。
母親は夫と死別し、女手一つで息子を育ててきました。家に男親がいないので、息子の話を聞いてやる相手が必要だと思い、息子の伯父である自分の兄の元を訪ねたのです。
母親は事前に医者にも相談していました。すると医者は「この子の病は薬を浴びるほど飲んでも治りません。何か思い詰めることがあって病気になっているのです。その思い事というのを叶えてやるか、それが無理なら、話を聞いてやるだけでも心のつかえが取れると思います」と助言をします。
「男親がいたらいいけど、わたし一人でしょ。あの子と兄さんとは男同士で伯父・甥の間柄。どんなことを思い詰めてるのか、聞き出してやってもらえませんか」
そう兄に頼むと、兄はさっそく妹の息子・作次郎の元を訪ねます。
「作ぼん、悩みがあるなら俺に聞かせてみろ」
作次郎にそう話しかけますが、作次郎はなかなか胸の内を明かしません。
「言って叶えられるような望みなら、すぐにでもお話しいたしますけど、こればっかりはもう、口に出して言うのも恐ろしい話なんです……」
しかし、説得を続けるうち、作次郎はとうとう悩みの原因を明かします。
「恋患いです」
作次郎は恋に悩んでいたのです。
「相手は誰だ?向かいのお照ちゃんか?」
「違います」
作次郎はその恋患いの相手が母親であると打ち明けるのです。
「ええ?お前、母親に惚れた?お前、あのお母んから生まれたんやぞ」
伯父は驚きます。
聞くと、作次郎はある夜、家の中で先に眠ってしまった自分の母の寝姿を目撃してしまったそうです。それをきっかけに母親に恋をするようになったと明かします。
「蚊帳が吊ってあって、枕もとに有明の行灯(あんどん)。暑いので、お母さんは、胸元がはだけて、裾を乱していたんです。水色の蹴出(けだし)から白い足がすっと出て、そんな寝姿を蚊帳越しに見たら……」
作次郎は母親の寝姿に興奮し、母親に特別な感情を抱くようになったと打ち明けます。
「二階に上がって布団を被って寝ようとしましたけど、寝れませんでした。蚊帳ん中のあれが、絵のように頭に焼き付いていて、それがずっと頭から離れないんです」
妹の元に帰った兄は作次郎から聞いた話を妹に聞かせます。
「えらいこと言いよったぞ。とにかくお前、落ち着いて聞けよ。あいつ恋患いに苦しんでいて、相手はお前や」
「えっ?そんなアホなこと……」
作次郎は悩むあまり、死にたいとまで伯父に打ち明けていました。
「お前、あの子のことを助けたかったら、いっぺんだけ、『うん』と言ってやればどうだ」
兄はなんと妹に息子と一度だけ寝るよう説得し始めます。
兄から提案を受けるも、妹は戸惑います。
「そんなアホなこと……。あれは私がお腹を痛めて生んだ子ども……そらまぁ、黙ってりゃ分からんことかも知れまへんけど……」
しかし、妹はしばらく考え、「それならいっぺんだけ」と一晩だけ息子の相手になることを承諾します。
伯父から母が一晩相手になってもいいと話していたことを聞かされると、作次郎は表へ飛び出して風呂屋へ行き、その後、床屋へ回って、艶々と綺麗な前髪を結い上げます。
早速家に帰って、母の床へ行こうとしますが、恥ずかしさもあり、怖気付きます。
作次郎はその後、二階へ上がって自分の部屋に閉じこもってしまいました。
母親は腹を決め、亭主が死んで8年もの間、ずっと守ってきた貞操を息子に捧げる準備をします。
箪笥の一番下から何年ぶりかの長襦袢を取り出してきて、鏡台の前へ座ると、自分の顔に薄化粧をし、抱かれる準備を始めます。
ところが息子は部屋に篭ったままなかなか下りてきません。
痺れを切らして息子に声をかけると、作次郎はその後、金襴(きんらん)の裃、長袴、前髪のよく映えた格好で母親の前に現れます。
母親は息子の格好を見てびっくりします。
「何ていう格好をしてくるんや。こんなことするのに、そんな格好が要るかいな。お母さんを見てみ、長襦袢の下には何にも着てないのよ。あんた、どないしたんこんなもの?衣装屋で借りてきた?アホかいな」
そんな母親に息子は言います。
「でもお母さん、“故郷へは錦を飾れ”と言います」
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歌舞伎にも近親相姦が題材の話がありますが、落語で近親相姦が題材になったものは珍しいそうです。しかも実の母と息子の話です。どぎつい内容だからか、あまりかかることもないそうです。
ネットで調べると、残っている音源も桂米朝さんと露の五郎さんの音源くらいだと書かれていました。でも、こういう色ネタに興味のある人ならその後の展開を聞いてみたくなる、ちょっと面白い内容だなと思いました。
(了)