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ホストクラブの高額売掛金営業について①~現状と課題~

1:はじめに

 ホストクラブというと、どういうイメージをもつでしょうか?

 イケメンにかしずかれる女性たちや、シャンパンタワーのコールなど、華やかな夜の世界を想像する人が多いと思います。歌舞伎町などの繁華街では、街中にホストクラブの大きな看板広告が掲示され、ホストクラブの宣伝トラックが街を通ります。また、ホスト出身のタレントや著名人が様々なメディアで活躍しており、ホストクラブをより身近に感じる機会も増えてきたのではないでしょうか。

 しかし、そんなホストクラブにも、楽しいだけでは済まされないビジネス慣行があるとされます。それが、高額の売掛金営業です。手持ちの現金が無くても遊べる売掛金営業は、顧客の女性にとってある意味ありがたい仕組みではあります。しかしそれが、通常の働く女性の収入からすれば破格の高額で設定されることにより、様々な問題を起こしています。

 例えば、2023年9月には、大久保公園前にたむろするいわゆる「立ちんぼ」とされる女性たちが、売春防止法違反の容疑で一斉摘発をされました。彼女たちのすべてではありませんが、摘発された女性の4割ほどは、ホストクラブの費用を捻出するために売春を行っているとされています(注1)。

 また、売掛金債務の捻出が困難となった女性やその家族が様々な支援団体の門を叩くことも増えており、そこでは女性の自己責任とばかりは言い切れない、ある意味マインドコントロールとも言える、売掛金営業の実態があるとされています(注2)。

 このような問題を受け、新宿区の吉住区長もTwitter(X)でコメントを発しており(注3)、国会でも取り上げられました(注4)。このように、ホストクラブの高額売掛金営業に対しては、適正化に向け、舵が切られつつあります。

 さて、2023年4月に新宿区議会議員選挙に立候補した際、私は、『パパ活八策』という公約集を掲げ、八策の一つとして、「ホストクラブの高額売掛金規制」を挙げました。残念ながら区議会選挙自体には落選しましたが、政治や行政が対応すべき問題としてホストクラブの高額売掛金営業を広く知っていただく、良い機会となったのではないかと思います。

 現在は、別の仕事の傍らNPO法人「日本駆け込み寺」でお手伝いをさせていただくなどして、引き続き、被害の抑止や被害者保護などに携わっています。

 今回は、その一環として、ホストクラブの高額売掛金問題とそのあるべき規制について、より多くの方に知っていただきたく小論をまとめました。全三回を予定しており、第一回として、現状と課題について述べたいと思います。

 なお、この小論に関しては、あくまでも私個人の見聞きした範囲と見解であり、私が所属する団体その他の方々とは関係が無い旨申し添えます。理解が浅い部分などもあろうかと思いますが、ご容赦ください。
 
≪全三回予定≫
①現状と課題・・・今回はこちら!

②法規制とその強化について
③規制強化と被害者保護の進め方
 
(注1)大久保公園の立ちんぼ、今年80人摘発 4割はホストクラブのツケが動機 警視庁(産経新聞2023年10月3日)
https://www.sankei.com/article/20231003-ESGWER2WEBO45CVL3M63AEX3QA/
 
(注2)
「客を借金漬けにして風俗で稼がせる」悪質ホストの卑劣なマインドコントロール術(ダイヤモンドオンライン2023年11月2日)
https://diamond.jp/articles/-/331613
 
(注3)吉住新宿区長のTwitter(X)のポスト(2023年11月2日)
https://x.com/yoshizumi_ken/status/1720048123467424002?s=20
 
(注4)「悪質ホスト問題」に国会がついに言及、「売掛金は取り消せる?」消費者庁の回答とは(ダイヤモンドオンライン2023年11月9日)
https://diamond.jp/articles/-/332056
 
 

2:そもそも、何が問題か:とりあえず四点ほど

 ホストクラブの売掛金を問題視することには、批判もあります。例えば、「そもそも女性の自己責任である」「男性が風俗やキャバクラに嵌っておカネを無くすのと同じである」のような言動も、SNSなどで見られるところです。もちろん、自己責任の側面もあり、男性が風俗やキャバクラでおカネを使うのと同じ側面もあるでしょう。

 しかし、ホストクラブの売掛金は、風俗やキャバクラからすらかけ離れたビジネス慣行が野放しにされているとともに、そこから通常のビジネスではありえない様々なリスクが派生している問題があります。ホストと個人のやりとりや、ホストクラブの店舗でのルール設定、あるいはホストクラブ業界の自治にだけ任せていては、問題の解消は困難ではないかと考えます。

 また、そもそも、男性を主要な顧客とする風俗やキャバクラなどについても、ぼったくりが社会問題化し、様々な自治体でぼったくり防止や客引きの禁止に関する条例が作られています(注1)(注2)。また、歌舞伎町では毎日のように啓発の音声が流されるなど、決して、男性の問題が自己責任で野放しにされているわけではありません。

 その意味では、ホストクラブの高額売掛金営業において顕在化している問題に対し、何らかの手段が検討されるのは当然だと思います。そこで、具体的にどのような問題点があるか、以下、順不同ではありますが四点ほど列挙してみましょう。

(1)問題1:信用審査の無い巨額な信用供与
 ホストクラブの売掛金は、数百万円にのぼることが少なくありません。しかし、このような金額は、平均年収が300万円台とされる一般的な20代~30代女性(注3)が負う債務としては破格の金額であると言えるでしょう。

 クレジットカード作成や、不動産賃貸借契約、自動車等のローン契約では、信用の審査がされるのが通常であり、現在の収入や他の借り入れ状況などから、支払い能力が無いとされれば信用を受けることができません。また、かつてサラ金が社会問題になったことを受け、貸金業界では、年収の三分の一を超える新規貸し付けは原則禁止されています(注4)。

 このように、信用の供与のためには、信用審査が通常のビジネス慣行であるにも関わらず、数百万円にもなる巨額の信用供与に対し、信用の調査や審査が存在しないとすれば、ビジネス慣行としては極めていびつです。しかし、ホストクラブの売掛金においては、現状そのようなビジネスが横行しています。
 
(2)問題2:若年女性が被害に遭いがちであること
 審査無しで巨額の信用供与が出来る背景には、女性が性風俗や個人売春に従事することによって比較的高額の報酬を得られ、それが事実上の担保となっていることが指摘されています。さらに、性風俗や個人売春では、若年であればあるほど高額の報酬を稼げる傾向にあります(注5)。

 そのためホスト個人も、売上を稼ぐために、若年女性に対し積極的に営業をかけ、より高額の売掛金を設定するインセンティブを持つことにならざるを得ません。

 民法改正により成人年齢が18歳に引き下げられたこともあり、一般的には社会経験が少ないと考えられる若年女性が、ホストクラブでの接客に「マインドコントロール」され、その後意図しない性労働への従事など、リスクを適切に判断できないまま売掛金の設定を認めてしまう可能性はさらに高まります。
 
(3)問題3:ホスト個人にも売掛金回収のリスクがあること
 高額な売掛金を設定すれば、ホスト個人としては高額の売上を計上でき、成果となります。しかしその一方、その売掛金を設定し、回収するリスクは、一般的にホスト個人にあるとされます。つまり、売掛金が回収できなければ、ホストはその分収入から天引きされてしまうわけです。

 そのため、ホストとしては回収に必死になりますが、債権回収には消滅時効があり、また、売掛金設定の態様によっては、民法90条の公序良俗違反として売掛金契約そのものが無効とされることもあります。さらに、民法上の未成年取消権や、消費者契約法上の取消権も無視できません。

 さらに、債権回収においてホスト個人が暴行脅迫などにより恐喝で検挙される場合、ホストが正規の弁護士資格の無い回収業者に依頼する弁護士法違反の場合、さらには回収業者のケツ持ちに半グレや反社会的勢力がいる場合もあり(注6)、高額の売掛金は、それを設定する女性のみならず、ホスト個人にも大きなリスクを背負わせるものです。

 このように、法令上の未回収リスクに加え、反社会的勢力や犯罪組織が介入するきっかけになりかねない大きなリスクがあります。
 
(4)問題4:性風俗およびホストクラブのイメージ悪化
 ホストクラブや性風俗自体は、それが本人の意思に基づいた選択であり、かつ法令を順守している範囲においては、適正なビジネスです。

 しかし、ホストクラブによる高額売掛金というビジネス慣行によって、そこで働くホスト個人が、顧客女性にマインドコントロールをして稼いでいるのではないかと見られるのは、仕方が無いところです。また、自ら望んで性風俗で働く女性も、ホストクラブの被害者なのではないかと痛くも無い腹を探られることになるでしょう。

 このようなイメージの悪化は、ホストクラブや性風俗という業界のイメージ悪化だけでなく、業態自体を消滅させるべきという過激な世論を喚起することにもなりかねません。
 
このように、ホストクラブの高額売掛金営業には、様々な問題があります。ただ、前提として押さえておきたいのは、売掛金設定自体は、必ずしも違法不当なものではないということです。通常の飲食店でも、自分のなじみの店なら、ツケの利くところもあるでしょう。

    問題は、それがあまりにも高額であることと、顧客女性およびホスト個人それぞれに対する、あまりにも高いリスクが放置されていることにあります。
 
(注1)性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例(東京都)
https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00002219.html

 (注2)新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例(新宿区)
https://www1.g-reiki.net/shinjuku/reiki_honbun/g105RG00000972.html
 
(注3)女性の平均年収ランキング 年齢別・年代別【最新版】(dodaより転載。2022年9月)
https://doda.jp/woman/guide/heikin/age/
 
(注4)お借入れは年収の3分の1までです(日本貸金業協会)
https://www.j-fsa.or.jp/association/money_lending/law/annual_income.php
 
(注5)立ちんぼで「1日15万円稼ぐ」ことが日課になった“19歳女性の特殊事情(文春オンライン2023年7月29日)
https://bunshun.jp/articles/-/64595
 
(注6)ホストの売掛とは。返済しないとどうなる?返済不要なケース(弁護士法人若井綜合法律事務所)
https://wakailaw.com/danjo/90
 

3:ホストクラブを悲劇の温床にしないために

 ここまで、ホストクラブの高額売掛金営業に関して、問題点を挙げてきました。ただ、一つ注意喚起をしておきたいことがあるとるれば、ホストクラブという業態自体は、潰すべき悪でも何でも無いという事です。

 ホストクラブは、1965年ころから開業したそうで、1971年歌舞伎町の「クラブ愛」の開店を機に、新宿歌舞伎町がホストクラブの中心とも言える地になりました(注1)。男性が主に女性に対して接客するというのは、女性が接客する立場のビジネスしかなかった往時からすれば、ジェンダーの平等と言う意味で画期的であり、女性の社会進出の結果であるに違いありません。女性が、イケメンとされる男性と会話や飲酒を楽しむことによって癒される場所を奪うのは、妥当では無いと私は思います。

 一方で、あまりにも大金が動くようになったためか、通常のビジネスでは許されないような慣行で若年女性を食い物にしたり、反社会的勢力に介入の余地を与えたり、法令に違反したりするようなやり方があるとすれば、それは批判され、否定されてしかるべきです。

 ホストクラブは、高額売掛金で悩み、意図しない性風俗や売春に従事せざるをえない女性を拡大再生産する場所であってはならないと思います。顧客の女性にとって癒しであるとともに、働くホストにとっても大手を振って働ける、誇りを持てる職場であるべきはずです。

 ホストクラブを悲劇の温床にせず、すべての関係者が楽しめる場所となるよう、人々は、知恵を絞る時期なのではないでしょうか。

 第一回である今回は、ホストクラブの高額売掛金営業に関する問題点をまとめてみました。次回は、このような問題に対し、現行の法制度はどのように定められており、どう機能しうるのか。そして、現行制度では対応できないところはどこなのか、ややテクニカルにはなってしまいますが、まとめてみたいと思います。
 
(注1)手塚マキ『新宿・歌舞伎町 人はなぜ〈夜の街〉を求めるのか』 604巻、幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2020年11月

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