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桜色の本棚

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私が出会った素敵な本のこと、読書のことを綴った記事をまとめました。読者の方と本との橋渡しができたら嬉しいです。
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2022年11月の記事一覧

「きく」という言葉が好きな理由。~阿部暁子さん『鎌倉香房メモリーズ』シリーズ~

こんにちは。桜小路いをりです。 「きく」という言葉が好きです。 私のnoteでは、音楽や、誰かのお話を「きく」というときには「聴く」という漢字を使っています。 その理由は、「心」と「目」という字が入っているからです。 目で、耳で、心で、「聴く」。 音楽も、誰かの話も、そのスタンスで「聴いて」いるので、この字を使っています。 でも、私は「聴く」でも「聞く」でも、とにかく「きく」という言葉自体が好きです。 そのきっかけは、この本でした。 阿部暁子さんの『鎌倉香房メ

その不安を「意味」にして。~朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』〜

この白さを、どこかで見たことがある。 読了後、すぐにそう感じた。 きれいにベッドメイキングされた後の、病室のシーツ。 冬の朝、窓を開けると積もっていた雪。 なんの跡もない、まっさらなキャンバス。 そのどれでもない、なんだっけ。この白さは。 しばらくして、ぴんと閃いた。 そうだ、陽明門だ。日光東照宮の、陽明門。 それも、修復が終わってすぐ、たった一度だけ観光に行ったときに見た、あの白さ。 純白という言葉ではとても足りないような、圧迫感と神聖さ、吸い込まれそうな、あの