2023年のフジロック・フェスティバル雑感
あの「邦楽のみ・感染予防のための各種規制あり・アルコールNG」だった、そして世間から非難轟々の中で開催された、2021年のフジロックすら、行ったのに!
と、昨年=2022年のフジロックに、久々に行かなかったことを後悔した。どんなふうに後悔したのかは、その時、こちらに書きました。https://shinjihyogo.hateblo.jp/entry/2022/07/31/114910
というのもあって、今年2023年は、3日間行った。金曜の朝にレンタカーで出発して、月曜の午後に東京に帰って来るスケジュールで。
2019年以来4年ぶりの、本来の規模での開催&コロナ感染予防のための規制なしでの開催、だから楽しかった、というのはもちろんある。が、それだけでなく、行ってよかった。
ラインナップがよかったのもあるし、「あ、そうだそうだ、フジはこうだった」と実感する瞬間も、あちこちで、何度もあったし。
なので、忘れないうちにここに書いて、記録しておこう、と思ったのだった。
以下、やたらと長くなってしまったので、飛ばし読みしやすいように、箇条書き形式にしました。
・雨具を一度も使わなかった
本来の規模での開催が4年ぶり、という以上に、こっちの方が久々だったと思う。
というくらい、フジロックは毎年雨が降る。苗場のスキー場でやっているんだから、年間通して降水量が多いのは、あたりまえなんだけど。
これまで自分が体験した中で、いちばん雨がひどかったのは、いつでしょう? ゲリラ豪雨レベルの強さでずっと降り続いた、2019年の2日目です。と、スッと答えられる。が、では、いちばん晴れたのは、どの年でしょう? と問われても、思い出せないくらいである。
しかし。今年は、初日の午後に一瞬パラついたのと、3日目の昼に、ドラゴンドラの上(DAY DREAMING and SILENT BREEZE)にいたら降ってきた、その二回だけだった。後者は、慌ててドラゴンドラに乗って戻ったら、下界はまったく降っていなかったし。
それと引き換えに、「こんなに暑いフジロック、何年ぶりだろう」と思う年でもあった。が、月曜に、東京に戻る途中に寄った赤城高原サービスエリアで、クルマから下りた瞬間にクラッときて、「そうか、あれでも涼しい方だったんだ、苗場だから」ということが、身体でわかった。
・3日ともトリはグリーンステージを観た
行く前に、今年はそのように決めた。自分への戒めとして。ヘッドライナーをちゃんと観なさいよ! という。ホワイトとかヘブンとかそれ以外とかにいて、せっかくのグリーンのトリを逃すことが多いので。
というわけで、ザ・ストロークス、フー・ファイターズ、LIZZOをじっくり観た。
フーファイの途中でアラニス・モリセットが登場して(昨年3月に亡くなったテイラー・ホーキンスつながりですね)、デイヴ・グロールと一緒にシネイド・オコナー(亡くなったことが7月27日に報じられたばかりだった)の「Mandinka」をカバーしたのを観れたこと。
LIZZOが、歌・演出・たちふるまい・キャラクターなどなど、全方位的にどえらく良くて、「こういうアーティストがフジの3日目のトリってすばらしいなあ」とうれしくなったこと(※で、その3日後の今、彼女が元ダンサーたちからセクハラ・パワハラで訴えられたことを知ったところです。真偽はまだわからないが、重い気持ちにはなっている)。
などなど、この時間にグリーンステージにいてよかった、と思うこと、多々あった。が、唯一、初日のフィールド・オブ・ヘブンのトリ、坂本慎太郎をあきらめたことだけは、正直、後悔した。
普段なら、一も二もなく坂本慎太郎を観るところだが、「ちょっと待て、俺」と。最近は、坂本慎太郎に関してはチケット運がよくて、昨年秋〜冬の初の全国ツアーも観れたし(全公演に申し込んで大阪が当たった)、今年6月25日の日比谷野音も当選した。ならばここはザ・ストロークスじゃない? 次にいつ観れるかわからないし。
と思って、そのような選択をしたのだが、一緒に行ったうちのひとりが(僕と同じく日比谷野音に行ったばかりにもかかわらず)坂本慎太郎に行って、とんでもなくよかった、選んで正解だった、と、終演後の深夜のオアシスで、何度も何度も言うもんで、「うーん、俺もそっちにすりゃよかったかなあ」と、思ってしまったのだった。いや、ストロークスがよくなかったわけじゃないんですが。
あと、初日のグリーンのトップのFEVER 333を観れなかったのも、心残りである。以前は24時間営業だった近所のレンタカー屋が、コロナ禍以降は朝7:00開店になって、そのまま元に戻っていないのが理由です。無理矢理6時40分に行って、早めに手続きしてもらったんだけど、開演には間に合いませんでした。
・その他の、観てよかったアクト
1日目=28日(金)
ROUTE 17 Rock’n Roll ORCHRSTRA(グリーン):OTとトータス、大活躍。
矢沢永吉(グリーン):有名曲の数珠つなぎで最高、でも37分くらいで終わってしまってびっくり(タイムテーブル上の持ち時間は60分)。
思い出野郎Aチーム(ホワイト):初日の朝からいきなり泣かされた。
STUTS(ホワイト):人が溢れる大人気。ゲストも豪華!
CompilianS(佐藤タイジ&KenKen/アヴァロン):さすがのふたり、耳を傾けることが純粋に楽しいプレイ。ちょっとしか観なかったことを後悔した。
Tohji(ホワイト):初めて観た。いろんな意味でインパクト大でした。登場がPA前、そのままラップしながら客エリアを歩いてステージへ。至近距離にいたもんで、スマホで撮りたくなるのを必死にがまんした(撮られまくってたけど)。
YEAH YEAH YEAHS(レッド):ああ、そうだったそうだった、こういうバンドだった。と、和んだ。
Ryoji Ikeda(レッド深夜):昔で言うところのWARP系というか、もっと昔で言うところのインテリジェンス・テクノ系というか。恥ずかしい言葉だなこれ、今思うと。でも、ジャンルで言うとそのあたり。聴き惚れました。
OVERMONO (レッド深夜):これより前に出くわした知り合いの何人もが「今日はこれが楽しみだった」と言っていたが、確かに最高。フジの夜中にはこういうアクトに出ていてほしい、というのの、理想みたいなダンス・トラック・アクト。
EYE×COSMIC LAB(レッド深夜):EYEの右のEは、正しくは左右逆です。うわあ、山塚アイだなあ、と、うれしくなる音だったが、2時半スタートから半分くらい聴いたところで、睡魔が限界に達して離脱。
2日目=29日(土)
GEZAN with Million Wish Collective(グリーン):この大所帯編成での最後のステージ。このスタイル、発明だよなあと改めて思う。それを言ったらGEZAN自体が発明だけど。下津光史やTOSHI-LOW等の、ゲスト(というか乱入者)も、多数登場した。
羊文学(グリーン):すげえ人いる、グリーンがかなり埋まっている、という事実に、まずびっくり。で、今年のグリーンステージの後方は全面LEDになっていて、各アクト、それを活用していたが(例:GEZAN。途中で「NO WAR」と文字を出したりした)、羊文学は一切使わず、真っ黒い壁のまま。で、いつもどおりのシンプル極まりないライブをやった、そのさまがやたらとかっこよかった。
アラニス・モリセット(グリーン):うわあ、本物だわ。本物が、本物のあの曲を、歌ってるわ。という、バカみたいな感想を抱きながら観た。
TESTSET(ホワイト):2年ぶり、前回は「METAFIVE特別編成」として急遽この4人で出演した。というのがきっかけで、TESTSETという新しいバンドになって、ファースト・アルバムをリリースした直後に、こうしてフジに出る、という、いろいろ感慨深いステージ。
ELLEGARDEN(グリーン):フジの雄みたいな風格になっている、いつの間にか。とにかくオーディエンスみんな、全曲知っている。自分も全曲知っている。そりゃ楽しくないわけないし、ジーンとこないわけない。という時間。
SLOWDIVE(レッド):ああっ、そうそう、この感じ! の極み。これぞシューゲイザー。芸のない感想で申し訳ないです。
LOUIS COLE:フーファイ終わってから移動、途中からちょっとだけ観れた。ドラムを叩きながら全体をひっぱっていく本人のパフォーマンスも最高だし、本来のメンバーと日本で参加のホーン陣が(国内のジャズシーンの錚々たるメンツ)、お揃いのガイコツの衣装で盛り上げまくる姿も最高。もっと観たかった。
砂原良徳(GANBAN):人が溢れてエリア内に入れず、外で聴く。後半でなんとか端っこの方に潜り込めたが、こんなに混んでいるのにイスを広げて座っているバカが何人もいて、殺意を覚えた。が、2019年だっけ、同じ状況のレッドマーキーで、曲間で音がやんだ時にプチンとなってしまい、「イス畳んで! 混んでるんだから!」とわめきちらして周囲に引かれたので、がまん。
ROMY(レッド深夜):この日の20時頃、オアシスでハイボールの列に並んでいた時、その2軒隣で地酒(日本酒)を買っておられた。僕の連れが気がついて「あれROMYじゃないすか?」「え、ウソぉ?」「そうですって」とか言い合っていたら、前に並んでいた男が振り向いて「そうですよ、ROMYです」。それが理由で1時半まで残って彼女のDJを聴いたわけではないが、人いっぱいだし、自身の曲が大ウケしたりしているし、楽しい時間だった。が、2時ぐらいで体力が限界に達して離脱。夜遊びしたいなら、もっとゆっくり会場に来ればいいじゃねえか、俺。と思いながら、そして帰り道のパレス・オブ・ワンダーのサーカスに「おおっ!」とつい足を止めたりしながら、宿に帰って寝る。
3日目=30日(日)
TEA YOUNG DAY〜TAICHI KAWAHIRA(DAY DREAMING):ドラゴンドラ、5年ぶりに乗ったら、往復2000円になっていた。高いなあ。前いくらだったか覚えてないけど。で、どちらのアクトも自分の好みでよかったが、急に雨が降ってきたので慌てて下山。安藤広一には会えず(このエリアを仕切っているおじさん)。
世武裕子(アヴァロン):ちょっと前にインタビューしてライブレポも書いたし、フジで歌う彼女をぜひ観ておきたい、と、この場所を選ぶ。アトミック・カフェのトークの後半に参加して、そのまま歌へ。ピアノ1本で聴かせるカバーもオリジナルも圧巻。
GRYFFIN(グリーン):うわあ、EDMだなあ、という、(自分が)バカみたいな感想。ステージで炎、ボンボン上がる。
100 gecs(ホワイト):あとでネットとか見たらすごく評判よかったが、正直、自分はちょっと、ポカーンとしてしまった。
YUKI(グリーン):ヒット曲&代表曲&名曲を、惜しみなく、鬼のように連発。「ファンじゃなくても知っている」曲をたくさん持っていて、パフォーマーとして鍛え抜かれている人は、本当に強い、ということがよくわかるステージ。
BLACK MIDI(ホワイト):あっはっは。なんじゃこいつらは。という痛快なステージ。自由ってすばらしいし、自由って新しい。
BAD HOP(グリーン):ただただ圧倒された。本人たちのMCによると、キャンセルが出た時、スタッフ満場一致で、代打はBAD HOPにオファーしよう、ということになったそうだ。確かに最高の判断。「初のバンド編成でのライブ」で、ドラム金子ノブアキ、ベースKenKen、ギターmasasacksキーボード伊澤一葉。当然その音もすばらしかった。
カネコアヤノ(ホワイト):MCなし、演出らしい演出もなしの、シンプル極まりないステージング。というのは、いつもどおりなんだけど、フェスのような、いろんな思惑を持ったいろんなアクトが集まる場になると、彼女のこのシンプルさ、見ようによっては、カウンターとして機能しちゃうんだなあ、ということに、気がついた。つまり「他の人はなぜカネコアヤノのようにシンプルにやれないのか」という……これ以上書くと悪口になるので、自粛。
で、3日目は、オアシスで夜遊びせずに帰って寝た、翌日朝からのロングドライブを鑑みて。ただ、サーカスは観た、この日も。
・混み具合は「ちょうどよかった」
終了後に発表された動員は、前夜祭18,000人、28日(金)29,000人、29日(土)38,000人、30日(日)29,000人、合計延べ114,000人。
グリーン後方のシートを敷いていいエリアが、どれくらい早く埋まるか。グリーンに入ってすぐのあたりの通路が、夕方から夜にかけて、どれくらいの頻度で大渋滞になるか。グリーンのトリが終わった後のオアシスの混み具合、どんなもんか。トリが終わったあと、ヘブン・ホワイト方向から戻って来る時の道2本が、どれくらい混んでいて、グリーンに着くまでどれくらい時間がかかるか。
などの「今年の混み具合を計測するポイント」が、フジにはいくつかあるが、それで言うと、今年は「ちょうどいい」くらいだった、自分の体感としては。
これ以上混んだら本格的にしんどくなる、というのの、ちょっと手前ぐらい、というか。ということは、主催者側としては、本当はもっと入れたい、金曜も日曜も土曜くらい入ってほしい、というところだろうなあ、とは思うが、とてもいい雰囲気だった。
・「フジが復活した」だけじゃなかった
5年ぶりにフジロックが完全復活したことがうれしい、というだけでなく──これは自分個人がそう思っただけ、という可能性も大いにあるが──フジロックが新しく前に進んだ、そんな実感を得られたことが、とてもよかった。
たとえばブッキング。洋楽はやっぱり新しいやつはサマソニで、フジはオールドスタイルよねえ、というのではなくなってきている感じがする。いや、コロナ前からそうだけど、それがいっそう進んだ感じがした、今年は。
同じく、邦楽も、GEZANがフジロックの歴史の中でスケールアップの物語を描いていたり、羊文学のような新人が大ウケだったりするのも、新しい動きを感じられた。
・余談
2021年に来た時は、ここまでか! というほど、全然知り合いに会わなかった。3日間いてひとりだけ。で、例年出くわすような知り合いたちはみんな、家でYouTubeでフジを観ていることを知って、驚いた。
が、今年は、初日の朝からあちこちで、いろんな人に出くわした。ということにも、「ああ、通常のフジが戻って来たなあ」と、うれしくなった。
しかし。その、出くわす知り合いたちの95%が、「20年以上前によく仕事をしていた人」「現在は接点がなくて、それこそフジくらいでしか会わない人」であることに気がついて、己の音楽業界人としての終わりっぷりを、まざまざと自覚したのだった。
今も、フジ以外の現場でも会う知り合い、砂原良徳と羊文学のマネージャーであるミッチーと、高野勲だけだったし。でも、ミッチーも高野くんも、知り合ったのは25年以上前だわ。ミッチーはロックンロール・ニューズメーカー誌の編集者として。高野くんはサニーデイ・サービスのサポート・キーボーディストとして。うーん。
・もうひとつ余談
コロナ前の何年間かは、僕はフジでは「19時になるまでは酒は飲まない」という自分内ルールを作って、動いていた。なぜ。バテるからです。
が、今年は飲んだ。かなり。というのは、今年は、50代ふたり・40代ふたりのおっさん4人で、レンタカーをシェアして行ったのですね。
おっさんはつるまない生き物なので、グリーンとホワイトが終演したらオアシスに集まる以外は、基本的にバラバラで行動する。が、時々どこかで、四人のうちのふたりが一緒になったり、三人が一緒になったりするタイミングもある。
そうすると、みんなおっさんなので、自分の酒だけ買わないのです。その時そこにいる全員分を買うのである。そうすると、おごられっぱなしなのもあれなので、自分も人数分買って配ることになりますよね。ということを繰り返しているうちに、けっこう飲んでしまったのだった。
なお、その4人のうちのひとりが、パレス・オブ・ワンダーに出ていたバーの女の子をやたらと気に入り、なにかっちゅうとわざわざ入場ゲートを出て、そこまで行っていた。で、行ったら最後、1時間とか2時間とか戻って来なかったりする。
フジに何しに来たんだあんたは。ガールズバーか。東京でやれ、そういうことは。
と、あきれたが、夜中、会場を出て帰る時に、一緒に寄ってみて、「ああ、なるほど」と、ちょっと納得したのだった。
愛想がよくて、でも愛想がいいだけじゃなくて、客あしらいがやたらとうまい。かわいいんだけど、若すぎない(推定20代後半か30代前半くらい)。だから「ハイネケンの売り子のバイトの子がかわいい」的なのじゃないし、パリピ的なきれいさでもない……いや、世間一般から見たら、パリピなのかも。でも、EDM的なそれじゃなくて、「夜中のフジロックにばっちり」な感じなのである。「フジに来るおっさんたちのどまんなか」というか。
モテるわ、これは。でも、ガールズバーじゃない。もちろんキャバクラでもない。スナックがいちばん近い気がするが、昭和な感じではないし。自分の飲み屋テリトリーに当てはめると、うーん、「こういう子がゴールデン街のカウンターにいたら行くなあ」という感じかなあ……そんなに真剣に考えてどうする。
とにかく、来年もここで、彼が、その子と会えることを祈る。
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