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幻の三冠馬フジキセキ 〜名馬たちの記憶1〜

あなたの記憶の中に
颯爽と走る、あの名馬の美しき姿は、いつまで残っているだろうか――。

悲しいかな、人は時を重ねるに連れ、忘れてしまう生き物である。

あの名馬がハナ差で勝ったレース。
ゴール前、死闘を演じた名馬たちの競演。
その時は熱狂したも時が経てば、思い返してみても思い出せない場合もあるだろう。

そこで私は備忘録として、
いつまでも記憶として残していたい数々の名馬たちをピックアップした。
簡潔に、
そして、それぞれの名馬が残した記録という蹄跡を……。

題して『名馬たちの記憶

これは、私がkindle出版にて既刊した『記憶に残る名馬たち』シリーズに掲載した名馬とは別に
簡潔な記憶として、残したい。
競馬ファンのみならず、多くの方に名馬たちの記憶を思い返して頂けると幸いである。

以後、このシリーズは不定期に連載予定です。




【名馬たちの記憶1】
幻の三冠馬フジキセキ

競走馬にとって、不治の病である屈腱炎を発症させ、早期引退を余儀なくされたフジキセキ。
そのため、競争生活こそ、数少ないが、その僅かな走りで魅せたスピードと父譲りの力強さ。
幻の三冠馬と呼ばれた、その由縁に迫りたい。

言わずと知れた、日本競馬界の血を一変した大種牡馬サンデーサイレンス。
そのサンデーサイレンス産駒として初のG1馬に輝いたのが、フジキセキである。

一等星の親孝行息子だ。

フジキセキは、父と同じく青鹿毛。
馬主が、静岡県富士市出身から富士山とキセキ(輝石・奇跡・軌跡)を起こすような馬になってほしいとの願いからフジキセキと名付けられた。

颯爽と力強く走る姿で多くのファンを魅了したフジキセキ。
新馬戦
もみじステークス(オープンクラス)
朝日杯3歳ステークス(G1)
とデビューから3連勝。
最優秀2歳牡馬に輝く。

その強さから、83年のミスターシービーからの84年シンボリルドルフに続いた2年連続の三冠馬誕生の再現へ。
前年の三冠馬ナリタブライアンに続いて、フジキセキにも三冠馬という大きな期待が掛けられた。

その後、年明け初戦の弥生賞も難なく勝利し、4戦無敗とする。
いざ、皐月賞・日本ダービー、そして菊花賞と続く三冠馬街道を――。

誰もが、そう信じた矢先、屈腱炎発症が発表される。

そして、
突然の引退。
4戦4勝。早期引退を余儀なくされ、三冠馬との期待は幻に終わった。

まるで父を彷彿ような走りでファンを魅了した。🐎画像jra-vanより🐎

今でも早期引退が悔やまれるフジキセキだが、
その力強さとは、裏腹にゲート試験(発馬機からの発走試験のこと)で苦戦したエピソードがある。

どの競走馬にも必ず合格しなければならないのが、このゲート試験だ。
いくら能力が高くてもゲート試験の合格印を貰わなければ、レースに出走することは出来ないのがルールである。

ゲート試験は、
単純に馬がゲートに入れば良し。
ゲートの中で立ち止まっていれば良し。
とのイメージが浮かんできそうだが、そうは問屋がおろさない。

係員の指示でスムーズにゲートに入り、
係員の指示で止まって、我慢することができること。
そして、ゲートが開いたらすみやかに真っすぐ走り出す。
これら一連のスタート動作ができているかを見るのが、レース前の競走馬にとって、最初の難関とも言われるゲート試験である。

調教などから前評判がとても高かったフジキセキだが、
競走馬デビュー前に行われるゲート試験は、合格するまでに5回を要した。
合格率70%と言われている中で、なかなかの落第数である。
これも気性が激しいと言われているサンデーサイレンス産駒の由縁かも知れない。

ゲートの出遅れがレースに大きな影響を与えることも🐴画像jra-vanより🐴

それでもレースに出走すれば、他馬を圧倒する強さを魅せたフジキセキである。
あれから4半世紀以上が経つが、未だに早期引退が悔やまれることは変わりない。

さて、引退後、種牡馬として、現役同様に活躍を見せたフジキセキ。

2017年にディープインパクトに抜かれるまで内国産(日本で生まれた競走馬)種牡馬の産駒JRA勝利数が歴代1位であった。
代表産駒として、
カネヒキリ(ダートG1 7勝)
キンシャサノキセキ(高松宮記念)
イスラボニータ(皐月賞)他 
最終的に種牡馬としては、
G1馬11頭を輩出。種牡馬としても大成功を収めた。

そして、
2015年、年の瀬に頚椎損傷のため、23歳で亡くなるまで多くの仔を世に送り出した。

幻の三冠馬フジキセキ。
彼の血は、数多くの後継馬たちを通して、この先も残り続けるだろう。
そして、いつの日かフジキセキの血を持つ子孫が三冠馬となる日――。
その日が来るのを待ち侘びたい。

フジキセキ 1991年産
父 サンデーサイレンス
母 ミルレーサー
母の父 ルファビュリュー(仏国)
4戦4勝
主な勝鞍 朝日杯フューチュリティステークス(G1)

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