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アイヌ伝統歌「ウポポ」を歌い継ぐこと


白老に来てもうすぐ2年。

もともと縁もゆかりもなかったこの土地で
少しずつ、自分が「客人」から「住人」へと
変わっていくのを感じている。

この土地の、人と文化に
触れる時間が長くなったからかもしれない。


中でも特に大きな影響のひとつが
アイヌ文化の伝承者
「志保子さん」との関わりだ。

ウポポイ内”ポロチセにて”


(改めてのご紹介...)

僕が勤める宿「界 ポロト」は北海道・白老町にある。

↓ ↓ ↓

新千歳空港から車で40分ほどの場所に広がる
静かな森林と"ポロト"という名の湖。

湖畔沿いには国立のアイヌ民族博物館を
有する施設「ウポポイ」があり
そのすぐ隣に界 ポロトは位置している。

この土地に伝わるアイヌ文化への敬意と
現代に合った温泉宿の在り方から生まれた施設だ。

ポロト湖はいつも穏やかで美しい。


ところで、なぜこの土地には
アイヌ文化が根付いているのか?

移住したばかりの自分は
この湖畔の歴史に興味が湧いた。


_白老とアイヌ文化

白老にはもともと「白老コタン」というアイヌ集落があった。
※コタンはアイヌ語で集落の意味

木下清蔵写真集[シラオイコタン]にも
その当時の生活の様子が残されている

はじめは静かな白老コタンだったが
"北海道観光ブーム"にのってそこに多くの客が押し寄せ、
住人の日常が保てなくなったことから
元の場所から少し離れたポロト湖畔にコタンを移転、
「ポロトコタン(大きな湖のそばにある集落)」と名称を変えた。

そこで観光客に対し、
白老に伝わるアイヌの古式舞踊や儀式などを
紹介しはじめたのが1965年の事。

その後、1984年には敷地内に「アイヌ民族博物館」を開館。

ポロトコタンは実に50数年余り
ここでアイヌ文化伝承の活動を行い、
様々な客を受け入れ続けた。

2018年に惜しまれつつも閉館。そして
2020年には国営化し民族共生象徴空間「ウポポイ」となった。

※ウポポイ設立の候補地は道内で他にもいくつかあったが
自然豊かなロケーション、空港からのアクセスの良さ、
何より白老アイヌコミュニティの長年の伝承活動が評価され
国立アイヌ博物館にふさわしいと判断されたそうだ。

現在も、ポロトコタン時代のアイヌルーツを持つ方々が
多数ウポポイで働かれている。

そんな歴史が、宿の目と鼻の先にあると知った僕は
すぐに年間パスを作り(なんと2000円。安い!)
アイヌ文化を学びに何度も足を運んだ。

そこで紹介されている文化と、
働くひとたちに
心をがっちり掴まれたことは
言うまでもない。

_アイヌ文化に触れられる滞在を


ここに訪れたお客さんには
是非、この土地に伝わるアイヌ文化に触れていってほしい。

そんな想いから、界ポロトでは
【アイヌ伝統歌ウポポを奏でるひととき】
という企画を開始した。

講師を勤めるのは冒頭で紹介した
髙橋志保子(たかはししほこ)さんだ。


このアクティビティでは
「ウポポ」と呼ばれるアイヌ伝統歌を
伝承者から直接習うことができる。

文字を用いなかったアイヌ民族が口伝で継承してきた
歌の数々を、宿の暖炉スペースで火を囲みながら体験するという内容だ。


_気さくすぎる伝承者

志保子さん。現在74歳。

白老出身の彼女は
アイヌの父と日本人の母のもとに生まれ、
19歳の頃からポロトコタンで働き始め
現在に至るまでアイヌ文化の伝承活動を行なっている。

更には
1970年の万国博覧会にて古式舞踊を披露、
国内だけでなく海外公演も多数行い
天皇皇后両陛下の元で
ムックリ(アイヌ伝統楽器)の演奏をするなどの経歴を持つ。

「指定無形民族文化財 伝統文化継承者」に
選ばれるほどの実績を重ねた彼女だが、
そんなベテラン伝承者は
実際に会うと驚くほどに気さくで、
出会う人に壁をまったく感じさせない。


「はい皆さんイランカラプテ〜!これアイヌの挨拶ね。
そうそう上手。グッドよ〜!」


「あらお姉さん、髪の色がとってもピリカね。
綺麗、よい、うつくしいのことをピリカっていうのよ。
「ゆめぴりか」ってお米があるでしょ?
そうそうマツコデラックスがCMしてるやつ!
それでね……..」

喋り出すと止まらない。
時にジョークを連発しながら、演目は進む。

アイヌ民族が宴席で、仲間と一緒に
喜びを表現してきた歌や

自分の切ない気持ちを即興歌にしたもの、

ゆりかごの赤子を寝かしつける子守唄。

___どれも耳と心に刻まれるものばかりだ。

みるみる間に、皆がアイヌ文化に魅了され
彼女の人生に触れる。

界【公式】|星野リゾートの温泉旅館 on Instagram: "【手業のひととき ~アイヌ伝統歌「ウポポ」を奏でるひととき~】 界では、地域の文化を継承する職人や作家、生産者、文化の担い手となる方々と連携し、その希少な技を間近で見たり、一緒に行うことができるご当地文化体験を「手業(てわざ)のひととき」と題してご用意しています。 界 ポロトでは、アイヌ民族の中で、口承で受け継がれてきている歌「ウポポ」を、伝承者から直接学ぶ体験を用意しました。独特のメロディーやリズム、歌詞を伝承者から直接耳で聞いて、真似ながら学び、歌い継ぐという「口承文芸」を実体験し、参加者同士で、合唱や輪唱にも挑戦します。 ~A Time to Play Traditional Ainu Songs~ At KAI Poroto, we have prepared an experience to learn songs that have been passed down orally among the Ainu people directly from the people who have passed them down. Participants will learn the song's unique melody, rhythm, and lyrics by listening to the singers directly, imitating them, and singing the song together in chorus or in a circle. #星野リゾート #界 #界ポロト #北海道 #白老 #白老温泉 #温泉 #温泉旅館 #温泉旅行 #手業のひととき #口承文芸 #アイヌ文化 #hoshinoresorts #kai #kaiporoto #Japantravel #hotsprings #onsen #ryokan #shiraoi #experience #ainu #culture" 986 likes, 0 comments - hoshinoresorts.kai on November 29, 20 www.instagram.com


彼女はとにかくよく喋り、歌い、
コロコロ笑う。

お客さんのことも
界ポロトのスタッフのことも
まるで孫のように可愛がってくれるので

僕たちは敬意を込めて志保子さんを
「フッチ」と呼ばせてもらっている。
※フッチはアイヌ語でおばあちゃんの意味


時折、フッチは寂しそうにこう言う。

「ウポポイもいいんだけどね。
やっぱり名前が変わっちゃって、さみしい」


歌を聴いていると、一層強く感じる。
ポロトコタンは、
彼女の人生そのものだったのだ。

「界さんが白老にできる時、
名前に"ポロト"っていれてくれてるのを聞いて
本当に嬉しかったの。ありがとうね。」

国営化に伴うフッチの複雑な胸中は
ドキュメンタリー「ポロトコタン最後の1日」にも紹介されている。

その言葉を聞いて

たとえ北海道に縁がなくても、
アイヌの血筋でなかったとしても

文化を共有し、
繋がることができれば
ここが自分のコタンになる。

そんな事をぼんやり考えた。

北海道に、白老に興味が湧いたら
是非フッチに会いにきてほしい。


_伝承とは何かを考える


白老アイヌコタンの文化伝承の道のりは
平坦なものではなかった。

時には自分達の文化を見せ物にしている、と見られ
「観光アイヌ」と揶揄されることもあったそうだ。

しかし当時の白老アイヌの置かれた背景を考えると
外向けに「観光化」することが
文化を残すことの唯一の道だったようにも思える。

明治政府の敷いた「同化政策」や
急激な近代化による生活様式の変化など、
白老アイヌコタンに求められたのは「日本人化」と「近代化」だった。
想像するといつも心が苦しい。

あらゆる伝統文化と呼ばれるものは
常に"淘汰圧"にさらされている。

時代の流れ、
便利で安価なものに差し代わっていく力や
時の権力によって決められるものには
なかなか抗えない。

だからこそ
白老コタンの功績は、
どう考えても大きい。

「残そう」とする力、
「後世に伝える意志」と呼べるものがなければ
僕たちが今こうして火を囲み、
ウポポを耳にすることはできないから。



僕たち宿として、旅行者として、
何を受け継ぎ、それを他者に伝えていくのだろう。

すくなくとも僕は

異文化にふれた時
「あちら」と「こちら」を線引きするのではなく
誰もが緩やかなグラデーションの中に立っていることを
再確認するために

旅に出かけるのだと、そう思う。

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