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雑考:地方鉄道のこと

はじめに

遅ればせながら、MBS Newsの地方鉄道特集(主に芸備線・木次線)を視聴した。

この中で、国鉄制作の「生活のなかの鉄道〜ローカル線」(昭和43年)という映像について言及されており、YouTubeで視聴できる映像を見てみた。(著作権上、YouTubeで公開されていて問題がないのかどうかが不明だったため、ここではリンク引用は控える)

ちょうど「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」に関連した一部報道も2023/6/9時点で散見された。

国鉄の映像を見ると、昭和43年時点で既に国鉄は地方鉄道の維持の困難さについて問題意識を持っていたことがわかる。
平成も終わり、令和になった今も、地方鉄道の問題はずっと続いているが、決して直近2,3年に顕在化した問題ではなく、昭和の中頃から既に存在していた問題であることを改めて実感する。

只見線の事例

鉄道より道路網が利便性、合理性で優位に立つ地域であれば、敢えて鉄道を維持する必要はない、というのはよく言われる話だ。
一方で、福島県・新潟県の只見線のように、自治体がリスクを取って設備維持の責任を取り、サービスはJRが維持するというスキームで路線を維持するケースもある。(私は只見線応援団に参加し、路線復活までの情報を福島県から継続的にいただいていた。)

只見線のケースは自治体=福島県の継続的・経済的コミットメントが得られ、かつ観光資源としての価値が県外の観光客から評価され、ツアーが多く組まれるといった形になっている。
ちなみに福島県に対する外部監査では、只見線復旧事業に対して「只見線が1本に繋がってこそ意味があり、機能を発揮すると考えるのは共同幻想にすぎない。」という指摘事項・意見が出された。このことが一部報道でも取り上げられた。(監査人は福島の地元の公認会計士)

只見線のケースは

  • 自治体がリスクを取っている

  • 自治体がリスクを取ってでも残す価値がある(観光資源)と、自治体が判断した

  • 残し、維持した路線の活性化策を、観光観点で自治体・地元が実行している

という点で、奇跡的に維持されているものと思われる。
地元住民の生活の足にはなっていないようだが、観光客が地元以外から来訪し、地域経済に少しでも経済的な潤いが及べば、路線維持そのものが赤字でも、副次的経済効果で地域に与える経済効果はあるのではなかろうか。

ポイント:鉄道がなくてもその地域に行きたいか

只見線のケースは自治体がリスクを取るケースとして稀だと思うが、根本を考えると、その地域(地方)で暮らす人たちの交通手段としては、自動車・道路交通が選好されることはもう周知の事実で、鉄道はもはや地域の足になっていない。

すると、地方鉄道の主たる利用者は観光客となる。観光資源としての鉄道維持は相応に合理的だが、維持コストと地域経済に与える効果を総合して、真に合理的な観光資源であるかどうかは精査が必要だと考える。
精神論で「鉄路維持」に拘るだけでなく、「そもそも、その地域に鉄道が必要なのか」「車やバスで訪問して満足できる地域であれば、鉄道に拘ることはないのではないか」「交通機関の選択に関わらず、その地域に行ってみたい思わせる魅力、価値はあるのか」といった根本から問題点を考えることが肝要だと私は考える。

個人的には2022年から大糸北線に足繁く通っており、結果として糸魚川市(新潟県)・小谷村(長野県)に足繁く通っていることになる。
個人的に、フォッサマグナなどの地質・地形について興味を持つようになり、姫川の急峻な渓谷美や糸魚川の海岸沿いのヒスイ、温泉など、当地の様々な魅力ある場所を発見して、大糸北線への興味が糸魚川市・小谷村への興味に発展した。

もしも大糸北線が廃線になってしまった場合、まず糸魚川は北陸新幹線が停車するのでアクセスの便利さは影響は少ないので、引き続き足を運ぶこともあると思う。小谷村については、大糸北線(大糸線)がなくなると道路交通に限定されることになるが、小谷村に魅力を感じられているうちは、車でも足を運ぶかもしれない。

このように、「鉄道がなくても地域外の人がその土地を訪れたいか」という点は鉄道維持の議論以前にじゅうぶん熟考すべき課題ではなかろうか。「地域の足」としての鉄道の価値が希薄化*する中で、地域外からの利用者の想定を前提にした交通網の設計が必要なのだと思う。

*学生の通学需要、高齢者の需要で持っている地域があることは承知しているが、バスなどの乗り合い自動車で事足りる場合も多いのではないかと推察する

まとめ

最近の当note (blog)では、大糸線について集中的に書いており、引き続き大糸線沿線の魅力について書き続けていくが、大糸北線はJR西日本による路線の維持が困難な路線の代表格となっており、今後いつまでJRとして走り続けるかはわからない。

"JRによる路線維持"か"廃線"か、の2択しかないような議論ばかりな点が私は疑問で、リスクを取って経営に乗り出す民間などが出てこないものか、という点は常々思うところだ。
もちろん、民間経営となると健全な経営の責任(株式会社の場合は株主説明責任)を果たす必要があるため、民間事業会社が運営に乗り出す際はハードルは高いと思うが、JR or notという二元論以外の解決策があってもいいのではないか、と考える。

ただ、民間が乗り出すにしても、「その地域にそもそも行きたいと思う魅力があるか」が最も根本にあり、「魅力ある地域に添える花として、鉄道が適しているか」といった観点で、利活用を考えることが肝要と考える。

かの芸備線は2023.3に2度目の乗車を果たし、かの備後落合も2度訪問しました。

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