見出し画像

楽器製作で食べて行きたい

楽器製作工房の経営をしているせいもあり、楽器(特にウクレレ製作)で食べて行きたいがどうすればいいのか、という質問を受けることがよくあります。
僕なりに、こんなふうに考えたらいいのかなという事を書いてみました。
そんな理由で、この文は万人向けというわけでもないので有料になっていますが、興味のある方は読んでみてください。

---------------------------

プロフィールにもごく簡単に書いてあるけど、僕は楽器製作を生業(なりわい)としています。

19歳でエレキギターを作る会社に入って製作を学び、4年後23歳で独立して自分の工房を持ちその2年後に法人化。
少しずつ事業を拡大し、社員数15〜16人という零細企業ではあるけれど、社長として25年以上もの間せっせと楽器を作り社員を育てながら働いてきました。

思うところあって50歳を期に会社を後進に譲り、再びひとりで小さな工房を開いて10年が経ち今に至る、という流れで現在は蓼科で妻と2人、コツコツと楽器を作っています。
この10年の間、ひとりのつもりで工房を始めた割には、その時々の理由で助手を雇う事もあり、多い時は3人の社員に手伝って貰っていたこともありました。総数で言えば7人だったろうか、というところ。

中には、「楽器製作を学びたいので、どうしても雇って欲しい」とうちの工房の門を叩いた人も何人かいて、色々と迷いながらも「人を育てるのも自分が世の中に残せる仕事のひとつだろうな。」と思い、受け入れていました。

---------------------------


楽器製作で食べて行けるのか

今回話したいのは、その「楽器製作を学びたい」という事について。
少し別の言い方をすると、「楽器を作ってその収入で生活していきたい」ということ。

実際のところそれは可能なのか、っていうとこですね。

楽器製作以外の場合でも、事業を立ち上げようという時の考え方は共通することが多いのではないかと思います。

まず考えなくてはならないのは、起業の成功の可能性ですね。
どんな事業でもただ闇雲に始めてとにかく頑張れば成功するというわけではありません。
若いうちだったら、「とにかく大好きな仕事だから」と飛び込んで、苦労しながら5年10年と続けていくうちに何とか採算が取れていくというケースもあると思います。まぁ若いうちはそこそこ無理もききますしね。

でも、それが40代、50代からの起業の場合は採算が取れるまでの猶予期間もそれほど長く見ることもできませんし、家族が居たり住宅ローンが有ったりなんていう場合は特に慎重に計画をすすめる必要があると思います。

世の中の色んな仕事の中には、沢山のニーズが有って誰が始めてもコツコツと頑張りさえすれば着実に利益を挙げられるものもあると思います。
例えば、宅配便などの運送の下請けとか、ゴミ処理だとか介護関連とか、とにかく生活に根ざしたどの家庭にも必要があるような仕事です。

でも、楽器などの娯楽系の仕事は、どの家庭にも同じような需要があるわけではありません。
楽器を日常的に演奏する趣味がある人は、世の中の10人に1人も居ないと思いますし、ウクレレに限定すると100人に数人。ましてや10万円20万円もするウクレレを買おうという人は1000人の中に数人というような割合ではないでしょうか。

そんなニッチな世界に飛び込もうとするのであれば、それ相当の準備と覚悟をする必要がありそうですね。

販売計画の立て方


では、少し具体的に可能性を検討してみましょう。

40代、50代の大人ならば、自分の生活に大体いくら位の生活費が必要かということは大体わかっていると思います。
その生活を維持しながら企業ができるかどうか、計画を立ててみましょう。

  ・1ヶ月に必要な生活費はいくらか。
  ・現在の自分のスキルで、1ヶ月に何本の楽器を作れるか
  ・その楽器をいくらで売るのか
  ・製作にかかる経費は毎月いくらくらいか

簡単に考えれば、
製作本数 × 単価 = 売り上げ
売り上げ − 経費 = 収入
となり、この収入が実際に必要な生活費を上回れば経営が成り立つわけです。
例えば、毎月3本作れて、それが15万円で売れて、経費が10万円で済めば残りは差し引き35万円。
どうでしょう。何とか暮らせそうでしょうか。

実際はここにいくつかの問題が絡んできます。

  『作ったものが必ずその月に売れるのか?』

まずはここです。  大問題ですね。
簡単に言えば、かなり難しいです。
新人で知名度もなく、楽器の評判もクチコミもまだ無い。
楽器店の店員さんもなかなか自信を持ってお客さまに勧められない。
そういった状態で、店頭に並ぶとその月にすぐ売れていく、というのはあまり望めないと思います。                                                   

まずは、そもそもその前にどうやって売っていくのか(販路)も考えなくてはなりませんね。
 

どんな経路で売るのか 

  (直販? あるいは楽器店への卸し?)

直販すれば、売った金額はまるまる自分のものです。先程の「製作本数×単価」がそのまま売り上げになります。
ただ、知名度もクチコミも無い新人がいきなり直販で毎月コンスタントに販売していくのはとても難しいことだと思います。
もし販売関係の才能や力があれば、ネットでのマーケティングを研究し、見栄えの良い写真と謳い文句を駆使して売っていくことも出来るかもしれません。
実際に直販だけで成功している製作家もいますし、不可能なことでは無いと思いますが、かなりの努力を必要とすると思います。

もし直販の自信がない場合は、楽器店に依頼して販売してもらうことになります。
販売希望価格に対しての卸値を設定し、その金額で買い取ってもらいます。
とは言っても、売れるかどうかわからない楽器を最初から買い取ってくれる楽器店は少ないと思います。となるとまずは委託販売。
楽器店に置いてもらって販売を依頼し、売れたときに初めて代金をもらうことが出来るわけです。
もちろんいつ売れるのかは全く分かりません。最悪の場合は数カ月後に「これ売れないから。」と楽器を返されることも有り得ます。

正直を言うと僕もそんな時代がありました。
何ヶ月経っても楽器店からは「売れたよ」という連絡も無く、時々恐る恐る電話しては試奏したお客さんの様子などを聞くのですが、現実はなかなか試奏すらもしてもらえない事も多かったりします。

でも、運良く楽器店の店員さんに気に入ってもらえると販売の確率も上がります。
楽器は商材です。自分の製作意欲も叶えつつも、楽器店が売りやすい楽器を供給することも製作家の仕事だと思います。

注意しなくてはならないのは、楽器店に卸す場合の毎月の売り上げです。販売希望価格から何割か引いた金額で卸すわけですから、当然その分売り上げの単価が下がります。
製作本数 × 単価 × 〇〇% = 売り上げ
となるわけです。パーセンテージは販売店との取り決めによって変わってきますが、ざっくり言えば売上額がおよそ3分の2になってしまいます。
ただ、人気のあるお店に置いてもらい、店員さんに気に入って貰っておすすめ商品になれば当然販売数量も増えていきます。

直販1本で行くか、卸売をするか。難しい選択ですね。
 

何をセールスポイントにするのか?

どちらにしても、売れるか売れないかは、あなたの作る楽器とあなたの営業力次第です。

まずは何を、どんな点をあなたの楽器のアピールポイントにするのか。それをどう訴えるのかをしっかりと考えなくてはなりません。

「一所懸命作りました!」というだけでは何のアピールにもなりません。「いい材料を使っています!」なんてのも誰でも出来ます。
「他の人よりも安いです!」
まぁ、そういう売り方もあるかもしれませんが…。

もちろん第一印象も大切です。
ネットで楽器の写真を見た瞬間に「おっ、これは!」と思ってもらえるか。
あるいは楽器店の壁に他の多くの楽器と一緒に展示されたときにいかに埋もれずに目を引くか、オーラを放つことが出来るか。

そして運良く手に取ってもらえた時の弾き心地、音色はどうか。

継続して製作を続け売れ続けていくためには、何か特別な個性なり技術なりが必要です。圧倒的な音色や演奏性とか、あるいはコストパフォーマンスのバランスなり、とにかく何かが必要です。

ウクレレだからって、のんびりとのほほんと作って、何となーく売れて食べていけたらいいなぁ、ではなくきちんと競争するつもりで計画を建てることが必要だと思います。

いや、まぁどちらかと言えば本当は、「のんびりとのほほんと作って、何となーく売れて食べていけたらいいなぁ」くらいの感じでとりあえず趣味か副業で始めるのがいいのかもしれませんね。
きっと楽しく暮らせると思います。(^^)
 

無理のない計画で

販売計画のところで考えた、「実際に必要な売り上げ」が少ない金額で済めば計画もかなり柔軟に考えられます。
例えば、「老後に年金もらいながら小遣い稼ぎ」くらいのつもりならば必要な販売数も少なくて済み、当然設備投資も少ない金額で済ませられます。

そうではなく、人生の後半になったあたりで思い立って、今後の生活をそれに賭けようというのはなかなか難しい計画です。

ウクレレを弾いたり作ったりすることが大好きで、だからとにかくそれを本業にしたいんだ!という気持ちは僕自信もとてもよくわかりますが、焦らずじっくりと考えて計画を進めたいですね。

一番大切なのは、あなたと、あなたの家族の人生を楽しいものにしていくことです。
頑張ってくださいね。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?