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第35話 「思い出の庭の柿の木」

  (松本市民タイムス リレーコラム 2018年7月7日掲載分)


「自宅庭の、子供の頃から登って遊び親しんでいた柿の木を切ったのだけれど、この木でウクレレを作って思い出として残せないでしょうか?」という相談をいただいたのが去年の5月。

ご自宅まで木を取りに伺い、60センチほどに切った丸太を工房へ運びチェンソーを使って四つ割りに。その後楽器用材として使えるように1年をかけてじっくりと乾燥させました。

4つ割りにした柿の木の含水率はこの時点で50%ほど。

1ヶ月ほど様子を見てから乾燥しやすくするために5センチの厚みに切って乾かします。無理に急いで乾燥して割れてしまっては取り返しがつかないので人工乾燥はせずに自然に任せてゆっくりと乾燥させます。

5ヶ月経って含水率が20%台に下がったところで4ミリの厚さに挽き割り、空気が通りやすいように積んでさらにシーズニング。
ひと冬が過ぎそして空気が最も乾燥する春先の時期を経て、伐採後1年が過ぎた5月から製作を開始しました。

この柿の木、最初に四つ割りにした時点で白い木肌に墨で書いたような黒い模様が見え、「黒柿」と呼ばれる貴重な木だった事が分かりました。派手ではないのですが中心付近に墨模様が入り、その周りにはうっすらとですが縮み杢が入っています。
実際には黒柿という種類の木があるわけではなく、数百本に1本というような割合で柿の木に黒い墨のような模様が入る事があり、その希少さ美しさから昔から珍重され大切に使われたのが「黒柿」なのです。もちろん切り倒すまでは誰にも判りません。

着色などはいっさいせずに製作し、指板上にはご依頼主の家の家紋を入れました。黒柿の威厳のある雰囲気とシンプルで美しい家紋が引き立てあって、まるで和室の床の間に飾りたくなるような良い雰囲気のウクレレに仕上がりました。
見栄えもさることながら、音色も高音から低音まで美しく、膨らみのある余韻を合わせ持つ素晴らしい楽器になりました。
100年生きた柿の木が楽器に生まれ変わり、20年30年とまた人々の笑顔の間で共に時間を過ごしていきます。思い出の詰まった大切な柿の木で楽器を作らせていただけたことをとても嬉しく思っています。ありがとうございました。

楽器の写真がブログにありますので、「セイレンウクレレ」で検索してぜひご覧ください。

松本駅改札脇コンコースの展示も今月23日頃までとなります。県産の希少な銘木で作った楽器を沢山の人に見ていただけると嬉しいです。

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