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文学a

大型クレーンが乾燥した冬に立ちならぶ
国立競技場建設現場
編集者は夢中になってシャッターを切っていた
会議室のベランダ
百年の出版社
ぼくは作家の亡霊を眺めている
暗い会議室
いまも
中上健二が
大きな背中を丸めて
小さな文字を書きなぐっている

半島からやってきた物語
大団円を殺せ、と呟いたのだったか
つよい酒をあおって
岬から
船を漕ぎ出した
おおきな翼をつけて
ゆっくりと
海を打ちすえて
この国の歌を
食い破る虎になった

呪詛の円から抜け出せない
泥だらけの手の男
怒りにまかせて冷蔵庫を投げつけた
きみが未来を書いた
路地裏の詩人の眼で
半島や島をめぐる
ながい物語のなかにいる
そこから抜け出せない
からまりあった網の目

横になって
水を飲んで
しずかに目をつむる現在に
鳥がやって来て
朝日がちいさく包み込む場所で
ただ生きている
ぬくぬくと
ただ生きている
きみが未来を書くから
眠りの沼から抜け出して


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