島の詩
空港から二時間ほど走った島の突端
サンセットホテルのバルコニーからは
砂浜につづく道がある
だれもいない浜辺
虫がたくさん死んでいた
笑いながら
野草を煎じる女たち
豚の世話をする男の話を聞いて
陽気な女房の弁当を食べた
夏が終わらない島で
だれもが飽きずに雲を眺めていた
廃校の体育館
わすれ草ゆれる
泣かない島の
サンセットホテルの部屋に
夜明けまえの海風を呼び込んで
眠れないぼくは
からっぽになった酒瓶を逆さにして
意味不明のメモと
熱弁をふるった夜を捨てる
死者たちをよみがえらせる魔法のつづき
さよならを言うために
ひかる箱の中のプログラムを使って
ことばをかき集める
なんのための作戦なんだ
泣き虫たちの
終わらないおしゃべりがつづく
とうきび畑
世界地図が破れている教室で
ほんとうはだれもが奴隷なんだ
すっかり老いてしまった教授が呟く
部屋から持ち出したコーヒーを啜りながら
ことばを綴りながら
急に遠くの町を旅しているともだちに
手紙を出したくなった
ことばを詰め込んだガラス瓶の形にして
明日には
タイフーンがやって来るというのに
浜辺にうちよせる波はおだやかだ
なまえを知らない島の葉かげで
ぼくは隠れてしまいたい
さらさらと
失われていくものになってしまいたい
死んだひとの
うたを運ぶ箱をながす
泣かない島で
もういちど死んだひとたちに出会って
さよならを言おう