“私とサムスピ” 1994年、林檎の右京。 #サムスピ列伝

1994年、秋。僕たちの溜まり場だったアーケード筐体併設型ゲームショップでは、毎日夕暮れから夜にかけて林檎の香りが漂っていた。

そのころロンチされた『真SAMURAI SPIRITS 覇王丸地獄変』には林檎がトレードマークの「橘右京」というキャラクターいて、僕はそいつを好んで使用していた。しかしプレイ成績、対人戦ではなくAI戦が難しくてクリアできずに悩んでいた。

ある日、僕のプレイを後ろから見ていた年上であろうお兄さんが「おれが見本をみせてやる」といい、華麗に全試合で勝利を収める姿を見せてくれた。それ以来、僕は彼のプレイスタイルを真似てプレイするようになり、つまり「右京はリーチのある中斬りで突いていくとAIに勝ちやすい」を理解して勝利できるのようになったのだ。

その体験をいたく気に入った僕はさらに右京が好きになり、ゲームに勝利するとカバンから林檎を取り出してかじるという奇行を演じて「右京」と呼ばれるようになった。いつもの曜日、いつもの時間、僕をみて「右京いるじゃん」、「右京上手くなったな」などと声をかけてくれていたお兄さんは、今でもゲームを遊んでいるだろうか。もし子供がいたら、僕に教えてくれたように格闘ゲームの勝ち方やその喜びを教えていてくれたら嬉しい。そう思う。

1994年、秋。僕たちの溜まり場だったアーケード筐体併設型ゲームショップでは、毎日夕暮れから夜にかけて林檎の香りが漂っていた。

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