呟怖集 全22話 朗読:かすみみたま様

先日8月15日に「怪談朗読系Vtuer」の”かすみみたま”さんがライブ配信されました 【#呟怖】#呟怖百物語/Vtuberかすみみたま【百物語】 に拙作が使われました。
👆にあるのが全編です。全部で5時間ほどありますが、解説なども多々ありますので作業用にでも聞いて頂ければ幸いです。
以下では邪魔神・作の呟怖を以下クリップした動画とともに掲載しています。
掲載は読んで頂いた順番です。
なお、【祖父の形見】と【梅雨】は話としては関連作品になっています。

※注
②肉屋の店主と⑳噺~放し~にある()は脱字、および重複部分の訂正として記入しています。筆者のミスです。失礼いたしました。

↑ かすみみたまさん の 現世幻談チャンネル の リンクです。

①イヤホン

駅前のパチンコ屋を通り過ぎて右に曲がり、
私はイヤホンをつけて音楽を流し始める。
出来るだけ音を大きく。
たとえ耳が痛くなっても、
けっして何も聞こえないように。

②肉屋の店主

店主は冷蔵庫を開けると肉の塊を取り出して、
「なかなか手に入らないものですよ」と(店主は)笑う。
「味は絶品だけど、あまり褒められたルートのものではないですから。
密猟しないと難しいんです。」
肉を切り分ける。
「数は一杯いるし、群れていないものを狙えば、
 結構バレないものですけどね。」

③燐寸

タバコを口にくわえながら燐寸を擦る。
100円ライターなんて無粋だ。
そりゃ便利だが、どんなときでも趣きってものが大事だ。
赤々と燃える炎が一気に広がる。
俺はその光景を目に焼き付けた。

翌朝、現場で二人の刑事が呟く。
「この死体笑ってないか?」
「…怨みごと家族と燃えたんだろう」

④町内放送

夏のうだるような暑さの日の夕方だった。
町内放送の声が聞こえる。

あるの家の老人が行方不明になったが、見つからない。
見かけたら教えて欲しいとのことだった。

「またかよ」
特徴を説明するアナウンスを聞きながら独りごちる。

「早く私を見つけてください」
その声が空しく響いている。

⑤懐中電灯

小学生最後の夏休み。山頂の神社からの帰り道。
友達と懐中電灯を片手に、階段を降りていた。
怖がる友人の様子が面白く悪戯心で一瞬灯りを消した。
大騒ぎする友人の声に大笑いしながら再び灯りを点けると。
そこに友人の姿はなく、いまだ見つからない。
以来私は暗い道を歩くことができない。

⑥マスク

宅配トラックを道の端に停める。

最近は夏場にマスクをつけていても不信に思う人がいなくて本当に助かる。

目はサングラスで隠せても、口がないことは隠せない。

のっぺらぼうでも働かないと暮らしてはいけない。

家賃を払わないとすぐ追い出されてしまう。

人間のほうがよほど怖いと思う。

⑦スマホ

正直、私はスマホが好きではない。
写真を撮りたくないし、音楽を聴きたくもない。
ましてLINEやSNSなどもってのほかだ。
機会があればやつらは割り込んでくる。
映りこみ、話しかけ、メッセージを送ってくる。
何より、私よりも使いこなしているのがどうにも腹立たしくて仕方ないのだ。

⑧毒

六つの紙コップに ひとつの毒

あなたとわたしと あなたが連れて来た 女

一番悪いのは 誰?

あなたが飲んで 私が飲んで 女が飲んで

誰も死なない 

コップは三つ 

楽しみは まだ終わらない

⑨アジサイ

友人宅の庭に大きな紫陽花があった。
ある日、その紫陽花が別の花に植え替えられていた。

「この花の色が嫌だ」

と母親が言うのだと聞いた。

…そして迎えた秋に、友人の父親が姿を消した。

⑩祖父の形見

祖父の形見の傘がある。
生前よく使っていたものだ。
雨の日の散歩が好きだった祖父らしく、特注のオーダーメイド。
やや大きめで意匠もこらしてある。
ただ、使い勝手はとても悪かった。
雨の日になるといつのまにか見当たらなくなるのだ。
どうやら雨の散歩に祖父がまだ使っているらしい。

⑪明日天気になあれ

「明日天気になぁ~れ」

公園で子供達が大声を出しながら靴を飛ばす。
最近では天気占いをする光景は珍しいのではないだろうか。
明日は本当に晴れて欲しい。明日は山登りなのだ。

私はようやく見れるだろう瞬間を思い浮かべ頬を緩くすると、買ったばかりのロープにばれぬよう切れ込みを入れた。

⑫時計

いつも23時過ぎに寝床に入る。
すっかり習慣化してしまった。
安易な気持ちで事故物件などに住むものではない。
怪異は毎日23時きっかりに悲鳴が上がるだけ。
だけなのだが、まさか脳に直接響くとは思わなかった。
耳栓も役に立たない。
明日は早番なのだがと思いながら私は布団にもぐりこんだ。

⑬入道雲

一仕事終えた私はタバコをくゆらせた。
夏真っ盛りで暑くて仕方ないが、最近は屋内で吸えるところはどんどん少なくなっている。

夏の空の遠く向こう側に大きな入道雲が見える。

赤く染まったナイフを叢に放り投げて、俺は晴れ晴れとした気持ちで前妻のマンションの部屋を見上げ、家路についた。

⑭鏡

こんなものを置かないで欲しいものだ。

たしかに長居はしないだろうが。

カラオケ屋のトイレ。

何を考えたか全面ガラス貼りの個室。

そして右奥にある精巧なフランス人形。

前も後ろも右も左も。無限に見える自分と......。

慌てて出ようとする私の背後で、鍵が勝手にカチンと閉まった。

⑮夏休み

燦燦と照る太陽を心地よく見上げたのはいつ以来のことだっただろうか。
長らくベッドに伏せていたから季節を感じることもなかった。
清々しい気分で心が躍る。
人生のあとにこんな夏休みがあるとは思いもしなかった。

アイツを道連れにするときは寒い冬にしてやろう。
俺は心の中でそう誓った。

⑯常連さん

「いつもの」という声がする。
俺は材料を取り出して盛り付ける。
この人は必ず同じものを最初に注文していた。
ついでに好みの銘柄の日本酒をコップに注ぐと、いつもの席に持っていった。

相変わらず誰もいない。
一体いつになったら気が付くのだろうと、常連同士では笑い話のネタになっている。

⑰ホラースポット

お墓やトンネルもそれは怖いでしょうが、
昼間は人がいて夜中は誰もいない、
人が多い施設なのにそこだけ人があまりいない、
そういう場所も結構怖い場所ですよ。
普通っぽい人に普通に話しかけられて、
ふと目を逸らすといきなりその人が消えてたりするんですよ。

......疑うなら試してみます?

⑱チョコレート

学校の帰りに、いつもチョコレートをくれる近所のおじさんがいた。
一人暮らしで私を娘同然に可愛がってくれていた。
おかげで大人になった私は個別包装のチョコを鞄の中に入れて持ち歩く癖がある。
そして私が本当に困ったり、疲れた時にふと覗くと、
時々チョコレートの数が増えていることがある。

⑲ホームセンター

シャベルと軍手とブルーシートを買っていった。
土や種はなかったから、ストックがあるんだろう。
「今年は何を植えるんですか?」と聞いた私に、
少し慌てた様子で旦那さんが

「うん、ちょっと」

とだけで言った。

いつもは明るい人なのに少し暗い。
そういえば今日は息子さんもいないなと思った。

⑳噺~放し~

怪談はどう広まるのか、実験したことがある。
人はなぜ白い(服の)髪の長い女ばかりを怖がるのか。
ひとつ噺を創り広めた。
しかし噺が広がるにつれ、髪は短くショートになり、服もラフな普段着へと変わった。
右の耳に赤いクリスタルのピアスをつけた時、それが亡き姉だと気が付き、私は実験を止めた。

㉑梅雨

傘を差す人の波の中に、見知った影を見つけた。
あれはたしかに、亡くなった祖父だと姉は言った。
世界がキレイに見えると、雨の日の散歩が好きだった祖父。
毎年梅雨の時期になると帰ってくる。
暑いのが苦手だからと盆に帰ってきたことはない。

㉒メモ帳

メモ帳にはただ「助けて」と書いてあった。

遺品整理をしていると時々妙なものに出会う。

筆跡は若い女性らしきものだった。

住んでいたのは中年の男性だったはずだが。。。

他人の過去に興味を持ってもキリがない。

私は黙ってゴミ袋にメモ帳を放り込んだ。


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