サヤカとタツヤの恋物語
母親から電話がかかってくるサヤカ。
いつものように「結婚はまだか?」と。
父と母はとても仲良しだから私もああいうふうになりたいと思っていたこともあったが、家事が一通りできて仕事もしているサヤカにとって結婚は今特に必要なものとは感じていなかった。
サヤカは30歳少し過ぎた頃に同棲していた彼氏に浮気されてしまい家を出た。
今は一人暮らしをしている。
あれから男性を信じることができず、仕事が終わると録画していたテレビドラマを見る毎日。
そんな中で最近話題の若手俳優のタツヤに釘付けになっていた。
女上司とタツヤ演じる部下が徐々に惹かれ合う恋愛ドラマ。
女上司に熱くアプローチしていくタツヤ。
何度も跳ね除けられても仕事で成功したり、女上司をサポートしたり、失敗した女上司を慰めたり・・・
場面場面で変わるタツヤの姿に徐々に惚れ込んでいったのだった。
しまいには女上司の女優さんにヤキモチを妬くほどに。
一方のタツヤはドラマのクランクアップ。
打ち上げ後には俳優の先輩方に連れられて銀座の高級クラブで朝まで飲み明かす。
仕事の時には初日に台本を丸暗記してくるなど監督や周りの先輩方にとっても信用できる存在。
その分、仕事が一段落すると飲み歩く性分のタツヤ。
それは水商売のお店にも・・・
また、仕事仲間で出会った女優さんに声をかけられたらすぐにも乗っかるタツヤは根っからの女好き。
ドラマが終わるとすぐにフェードアウトする女泣かせの男性だ。
ある日、サヤカは婚活中の友人に料理教室に誘われた。
料理が得意なサヤカは友人とともに試しに行ってみることにした。
すると、そこには次の映画の番宣のためのバラエティ番組の企画で来ていたタツヤ。
なんとサヤカと友人とタツヤで同じグループで料理を作ることに。
下調べしていなかったため、今回作るものにがっかりするサヤカ。
肉じゃが、味噌汁、ご飯、小松菜の和え物というシンプルな和食だったがサヤカにとってはいつも普通に作っているもの。
タツヤと一緒に共同作業することが恥ずかしく緊張したサヤカは手際の悪い友人の代わりに野菜を切ったり指示出ししたりした。
タツヤはそんなサヤカに呆然とするだけだった。
友人がタツヤに声をかける。
「タツヤさん、火加減見てもらえますか?」
タツヤは小松菜を切っているサヤカの隣にやってきた。
緊張していると、ザクッ・・・
「いったぁ〜」
指を切ったサヤカ。
「大丈夫ですか?」
そう言って私物の財布から絆創膏を取り出して貼ってくれるタツヤ。
緊張して頬を赤らめながら黙ってしまうサヤカと至近距離にいるタツヤを見て周りの参加者さんがキャーと絶叫。
何も言わずに料理を再開するサヤカだった。
試食の時間になると
「うまい、うまい!」と喜ぶタツヤ。
テレビでしか見た事ない姿がこんなに近くで無邪気に笑ってる。
そんなリアルな夢にぼんやりとしていた。
帰り際、
タツヤのマネージャーらしき人にタツヤの連絡先を教えてもらったサヤカ。
とりあえず登録して、
ポカーンとしているとタツヤからのLINE。
「今日のご飯美味しかったよ!
また食べたい!」
そんなLINEからスタートしたサヤカとタツヤ。
気づけばタツヤに手料理を振る舞いにタツヤの家に通うサヤカ。
付き合ってるわけでもないのに男性の家
ましてや年下の俳優さんの家に上がり込む。
「どうせ家政婦程度にしか思われてないんだろうな・・・」
そう思っていたある日
「今日は外食しよう!」
そんなLINEが来た。
「手料理の味が落ちたのかな・・・」
そう不安になるサヤカ。
そりゃあそうだ。
私みたいなおばさんなんてお母さんの代わりみたいなもの。
もう会いたくないと言われるのかもしれない。
そう思いながらも精一杯のオシャレをしてタツヤに会う。
いつもパンツにTシャツのようなラフな格好ばかりだったけど、今日は思いきって身体のラインが出るタイトめなワンピースにしてみた。
待ち合わせに着くとタツヤがポカーンとしている。
「かっ、わいい・・・」
そう言って照れくさそうにはにかむタツヤ。
「手を繋ごう!」
その言葉にドキドキする。
無理矢理手を引く彼に惹かれていくサヤカ。
「ご飯の前にここ寄ろう!」
そう言ったタツヤに連れられて入ったお店は高級アクセサリーショップ。
一頻りぐるりと店内を回った彼はショーケースの中のハート型のネックレスを店員さんに取り出してもらい、おもむろにサヤカに着ける。
「おお!!やっぱりそのワンピースに合う!」
そう言って子供のように無邪気にはしゃぐタツヤ。
何でもネガティブに考えちゃう私はこれだってどうせ"カップルごっこ"
そう思っては1人いじけてしまう。
「これ買います!」
そう言って彼はこのネックレスのお会計をしてくれた。
また手を繋いでサヤカをリードするタツヤ。
年下のくせに大人びて見えるからついて行きたくなる。
隣にいる彼をよく見ると私が思っていたより彼は背が高くガタイがいい。
「きっと仕事のために鍛えたり人には見せない努力をしてるんだな・・・」
そう思うと彼のことが頼もしく感じてしまう。
レストランに入り静かに食事をする。
まさかの高級フレンチのお店だった。
デザートの時になり、彼が言う。
「ここのご飯も美味しいんだけど、
俺はやっぱりサヤカの家庭的な料理の味に癒されるんだよね。
毎日サヤカの料理を食べたい。
ねえ・・・
俺と付き合ってくれない?」
サヤカの鼓動が早くなる。
そして、答えは・・・
「もちろん!」
サヤカは久しぶりの恋人が出来たことがとても嬉しかった。
そしてそれからというもの2人はデートしたりLINEしたりラブラブな日々を送っていた。
サヤカも素直にタツヤに甘えることも多くなっていった。
彼なら信じられる・・・
彼とならもっと一緒にいたい・・・
どんどん彼に吸い寄せられていく。
そんなある日
「タツヤ、自宅前で彼女と大喧嘩。」
そんな見出しが週刊誌やテレビのワイドショーで取り沙汰されていた。
「どういうこと!?」
そこに写るのは美人な女の人。
サヤカはいろんな情報を聞いたり調べてみたりした。
タツヤにLINEや電話もしても出ない。
記事やニュースによると、
タツヤはしょっちゅう女優さんを引っ掛けたり
高級クラブでホステスさんをお持ち帰りしたり女好きだとのこと。
「あ〜、私も遊ばれたんだ・・・」
そう思うと自然に涙が溢れた。
そのニュースを知った翌日は気分が悪く
会社をズル休みした。
だってこんなに目が腫れているのに職場になんかいけないと思ったから・・・
すると彼からの電話。
ドキドキしたけど、チャラい男性とはもう関わりたくない。
遊ばれたくない。
また浮気されたり不安になる恋愛なんてもうコリゴリ!
そう思っていると彼からのLINE。
「あれは嘘なんだ。
サヤカには信じてほしい!
たしかに今までサヤカに会うまでは
いろんなことがあったよ。
だけど、俺は言い寄ってきた女性からの告白を断っただけなんだ。
頼む!信じてくれよ!
俺が好きなのはサヤカだけ!
サヤカがいないと俺はダメなんだよ!」
そのLINEを見てタツヤに電話をかけた。
「今のLINE本当?」
事情を聞くと最近高級クラブに行ってなかったためにホステスさんが家に待ち伏せしていたらしい。
今まで遊んでいた時の写真をばら撒くか付き合うかして欲しいと言われたそう。
断った時に腕を掴まれたから振りほどいた結果、
ホステスさんが雇ったカメラマンにあたかも暴力してるかのような雰囲気の写真を撮られてしまったのだという。
「サヤカに会いたい。
今からサヤカのところに行ってもいい?」
サヤカの家まで車でかけつけるタツヤ。
到着したタツヤの車に乗り込むサヤカ。
「サヤカ・・・
俺はちゃんとサヤカのことしか見てないよ。
サヤカのおかげで他の女性のことはなんとも思えなくなってしまったよ。
サヤカといると仕事にも人間的にも誠実に生きなきゃ!って感じるんだ。
こんな記事は出るし全然頼りない俺だけど
こんな記事見返して俺も頑張るから着いてきて欲しい!」
サヤカはタツヤの本気が伝わり泣いてしまった。
「わかったよぉ〜。」
タツヤはサヤカを車に乗せたまま走らせた。
「ねぇ、どこに行くの?」
「事務所・・・」
タツヤはなぜ事務所へ?
サヤカは緊張して体がこわばってしまった。
タツヤは事務所に着くとサヤカの手を引いて中に入った。
そのまま社長室に入った。
「社長、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
今まで女性のことを軽く見ていたのは事実です。
あの記事に書かれた女性にも酷いこともしてきました。
でも、これからはここにいるサヤカさんのことだけを大切にしますから。
俺は彼女のことを愛しています。
彼女のためにも
仕事もこれまで以上に頑張ります。
どうか今回の件をお許しください。」
タツヤはそう言って深々と頭を下げた。
そんな真剣なタツヤをサヤカはじっと見つめた。
そして社長は許してくれた。
2人の関係も暖かく見守ってくれた。
それからの2人は同棲を始めた。
サヤカはタツヤの分も
栄養たっぷりのご飯を作り、
タツヤの身の回りも支えてあげる毎日。
そのおかげでタツヤは仕事にどんどん身が入り
絶好調。
今では毎クールドラマに出るような更なる飛躍をしている。
仕事もプライベートも充実したタツヤといられてサヤカも幸せに過ごしている。
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