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友井川拓note -Vol.8『集団になるとサボりがち』について考える。

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『人はなぜ集団になると怠けるのか「社会的手抜き」の心理学』
 著者:釘原直樹     出版:中公新書

今回は、この本を読んでこんな経験を思い出しましたというお話。

ラグビー選手がゴールポストをみんなで運ぶ時あるある

高校時代、ラグビー部はサッカー部とグランドをシェアしていた為、反面はサッカーゴール、反面はラグビーのゴールポストが設置してありました。なので試合の前日はサッカーゴールを移動させ、ゴールポストを設置し試合後には元に戻す。めんどくさい作業だった。笑

大学・社会人になると専用グランドのため、ゴールポストの設置は無くなったもののテントの設営などチームメイトで協力して試合の準備をしたものです。

何かをみんなで協力し運んだりする時、大抵私は持つふりをしていたような気がします。笑

そんな集団の中での私の「サボり」が証明しているように、集団になるということはメリットだけではなく集団になると人は怠け、単独で作業を行うよりも1人当たりの努力の量が低下するという事象が生じることがあります。この現象を「社会的手抜き(リンゲルマン効果またはフリーライダー現象)」と呼びます。

それはスポーツ・ビジネスなど様々シーンで同様の事象が生じます。今回は社会的手抜きとそれを防ぐにはどうしたら良いのかという学びについて書いていきたいと思います。

少なからず皆さんも私と同じように集団の中でサボった経験があるはずなので。笑

集団=効率アップという単純なものではない

まず、集団でなければ達成出来ないことは山ほどあります。一人で完結する仕事は存在しないに等しいと思っています。様々な人の協力のおかげで、様々な仕事が成り立っています。私の現在のラグビーコーチという仕事もそうです。数えきれない方々のサポートでラグビーが出来ていることを幸せに思っています。

ただ今回考えていきたいのは、集団=効率アップという単純なものではないということです。多くの人数で行動することや働くことは単純に1+1=2では無くなる可能性も大いにあるということを理解する必要があります。

前述した、社会的手抜き(リンゲルマン効果)は、20世紀初頭のフランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンの実験や社会的手抜きの名付け親であるアメリカの心理学者のビブ・ラタネとチャールズ・J・ハーディの「ラタネとハーディの実験」と呼ばれる実験で実証されたものです。

【リンゲルマンによる実験結果】
綱引きや荷車を押すような作業で1人の力を100%とした場合、集団作業時の1人当たりの力の量は2人の場合93%、3人の場合は85%、4人77%、5人70%、6人63%、7人56%、8人は49%となった。

つまり8人で仕事をしている時は単独で作業している場合に比べて半分しか力を出していないということです。半分...。

【ラタネとハーディの実験】
目隠しとヘッドホンを着け、互いの行動が分からない状態にした2人1組のチアリーダーを衝立を挟んで座らせ、単独での条件とペアでの条件で大声を出してもらい騒音計で音量を計測する実験をしたところ、ペア条件での音量は単独条件の94%の音量しか出ず手抜きをしていた。しかし、実験後の被験者たちはどちらの条件でも全力を尽くしたと思っていたという。

ポイントは被験者たちのどちらも全力を尽くしていたと思っていることですね。
社会的手抜きは意図的でなくても起こり得るということです。

社会的手抜きが発生する外的条件(環境要因)としてあげられるのは

【1:「評価可能性」の低さ】
集団に対する貢献度を他者から評価される評価可能性が低いと、社会的手抜きをしやすい。
 例:綱引きや応援など集団のパフォーマンスはわかるが、個々人の貢献度が分からない場合。
【2:「努力の不要性」】
他の人たちが優秀であるために自分の努力が集団全体の結果にほとんど影響せず、しかも他の人たちと同じ報酬を得ることができると、社会的手抜きをしやすい。
【3:「手抜きの同調」】
一度社会的手抜きが発生すると、それが集団の暗黙的な規範になり、その影響が拡大しやすい。

平均への回帰の誤判断

ではどうしたら「社会的手抜き」を防ぎをいいチームを作れるのか?
まず考えられるのは「手抜き」を見つけたら罰を与えること。

ただし、これは間違いです。

報酬と罰は非対称で、報酬とは違い罰は長期的には与える側にも与えられる側にも良い結果はもたらしません。またリーダー行動をレビューした実験では、リーダーが与える報酬はポジティブな効果をもたらすが、罰に関しては明確な結果が得られていないと結論づけられています。

前述の「人はなぜ集団になると怠けるのか」の中にも記載されていますが、罰に関する誤解でいうと「平均への回帰の誤判断」という現象が有名です。

【平均への回帰の誤判断】
悪い点数やパフォーマンスをした時に指導者・教育者が叱りつけたり様々な罰を与える。すると次の機会では高い点数や高いパフォーマンスになる。すると指導者や教育者は罰を与えることで改善したと思い込んでしまいます。
しかし、これは誤解です。平均への回帰という確率論的な現象に過ぎません。平均値より低い点数やパフォーマンスを出した場合、次の機会では平均値よりも高い結果に回帰する可能性が高いということです。
逆に高い点数・パフォーマンスの場合は褒めるといった行動を取ると、次回は平均の回帰により低い結果になる可能性が高い。すると褒めるより叱ったほうが効果的だと考えてしまいます。

罰による対処をする場合はこのような現象があることを認識する必要があります。
しかし、単に褒めれば良いわけではなく見合わないほどの評価をすると逆に内発的動機づけを阻害してしまうこともあります。

集団凝集性(Group cohesiveness)の高い組織づくりを

では全ての集団に社会的手抜きというものが発生するかのと言えばそうではありません。集団凝集性の高い集団は社会的手抜きは発生しなかったという結果があります。集団凝集性とは集団としてのまとまりがあり、帰属意識があるということ、そしてチームメイトのことをよく知っている(相互理解)ということです。

どのようなスポーツにおいてもお金をかけて能力の高い選手を取っているが「チームとしてのまとまりがない」「帰属意識がない」ことで個人の力を発揮できずに結果を残せなかったチームを皆さんも思いつくのではないでしょうか?

サッカーのリバプールFC監督のユルゲン・クロップが低迷していたチームを再建するためにとった行動からも集団としての帰属意識を高めることの重要性が見られます。

『再びファンに愛されるチーム』になる為に最初に行ったことのひとつが、練習場に裏方のスタッフからグラウンド整備員や食事係、アナリストまで全員を集めることだった。「君たちは彼らの名前を知っているか?」と、クロップ監督は選手たちに尋ねた。そして選手たちにまた“ミッション”を課した。
「彼らの名前を覚えなさい! 彼らは君たちのプレーを支えるためにここにいる。全員が君たち選手と同じように、すべてのことに責任を持っているんだ」
                         Goal Japan記事より。

#選手だけでなく、チームとして共に働くスタッフのサポートの重要性を説き、チーム全員の帰属意識を高める象徴的なエピソードですね。

集団凝集性を高めるには?

では集団凝集性・帰属意識を高めるためには何がポイントか?

フィードバック
正確に素早く継続的なフィードバックを行うい、努力の効果を可視化しすることで一人一人のの自己効力感を高める。

目標を明示する
作業の目安は他者のパフォーマンスになってしまう傾向がある。その為、集団目標を明確にすること。腐ったリンゴ効果のように腐った他者に引っ張られることを防ぐ必要がある。
 
道具性認知を高める
個人の役割を明確にし、集団の中で個人の努力が役に立っているをという道具性認知を高める。集団の目標達成にどの程度貢献しているのかわかるようにすることが大事である。

まとめ

集団として活動するだけで集団の力が上がるわけではないということですね。
集団が相互理解を深め、帰属意識の高い、共通の目標を持った「チーム」になることで一人の力では成し遂げられないような効果が発揮出来る可能性が高まります。
お金をかけて個を集めるだけの強いチームを作り上げるのか?集団凝集性が高くまとまりの強いチームを作り上げるか?チーム作りには様々なチームの様々な方針があるとは思います。
が...ラグビーのコーチとして後者のようなチームが世の中にたくさん増えることを祈っていますし、そこに微力ながら貢献していきたいと思ってます。

しかし…人間、時に手抜きも必要です。笑
私はこの先もゴールポストを運ぶときはいつも力を入れない人生を過ごすでしょう。笑

にんげんだもの     相田みつを


それでは皆さま。また次回。

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