【基礎知識編】ヘッドホン

前回、ヘッドホンのほうが環境に左右されにくいという理由を解説しましたので、今回はヘッドホンについて触れてみたいと思います。

何を選ぶべきか

もし、編集用モニターヘッドホンの選択に迷っている方がいれば、筆者は「SONY MDR-CD900ST」をオススメします。理由は解像度が充分に高く、交換用部品の調達が容易であり、頑丈であることです。しかし問題点もあります。個体差が非常に大きく、同じヘッドホンであっても違う音がするのです。設計が古いからなのか、ロットによって部品が異なるのか定かではありませんが、全く違うヘッドホンとまでは言えないものの、微妙に異なる音が出てしまいます。同じユニットが使われている「MDR-7506」は基本的には同じ音ではありますが、カールコードであること、プラグが変換式であることから、音質面では不利です。

ヘッドホンアンプ

スピーカーには適合するアンプがあるように、ヘッドホンにも適合するアンプが必要です。オーディオインターフェースのヘッドホンジャックに直接挿してモニターするということは、特別な理由がない限り避けるべきです。
市販のオーディオインターフェース、ヘッドホンアンプはあくまで汎用品であり、専用ではありませんから、少なくとも音は出るもののお持ちのヘッドホンを最大限活かせる道具であるとは言えません。
また、機材メーカーは故障しないように設計しなければならないため、音質よりも安全性や寿命、利益を優先します。

電源回路のコンデンサー

スピーカー、ヘッドホンなどの駆動部品は電力が音質を大きく左右します。ドラムのアタック音など、急激な電圧の変化に素早く対応するには、ユニットが必要とする電力を瞬時に供給できなければ、その音を再現することはできません。そのため、コンデンサー(英: capacitor)と呼ばれる一時的なバッテリーのような部品に電力を貯めておき、急激な電圧の変化があった場合に備えています。この供給速度が遅いと、録音されているデータの再現性が下がるのです。
このコンデンサーという部品は、オーディオ専用品もあります。ESRという数値が低いほど電力供給が速く、音質が良くなります。
その反面、超低ESRコンデンサーは寿命が短く、長いものでも5000時間程度しか使えない上、価格も高く、量産品に使えるようなものではありません。Panasonic SEPC シリーズなどを電源回路に用いれば、超低ESRの反応の速さを耳で実感できるほどです。

抵抗器

さらに抵抗(英: resistor)も音質を左右します。まともな回路であれば、出力の最終にダンピング抵抗というものが直列に接続されています。単純に出力インピーダンスを決めるものと考えても問題ありません。
直列であるが故に、音質に直接影響します。コンデンサーと同様にオーディオ用も存在し、TAKMAN REY シリーズなどが有名です。抵抗器は経年劣化や温度による劣化はほとんどないものの、品質に比例するようにコストが高く、DAコンバータやアンプ回路ほどの影響はないため、高級な機種でもオーディオ用金属皮膜抵抗が多く使われます。
ではオーディオ用金属皮膜抵抗が音質的に良いかというと「カーボンよりは良いが、抵抗の音がする」のです。抵抗によって音が変わるということは、明らかに音質を下げる原因と言えます。
ダンピング抵抗において、本記事執筆時点で最良の選択は「無誘導巻線抵抗」です。大きな抵抗値は作り出せませんが、全くと言って良いほど抵抗の音がしません。Vishay Dale シリーズの無誘導巻線抵抗をダンピング抵抗として使うと、抵抗が存在しないような音質が得られます。

アンプ部分

アンプ、というと増幅回路のように思われますが、プロオーディオで使われる+4dBuという信号は、最大で1.23Vもの電位差(電圧、音量)があり、増幅する必要はありません。ヘッドホンアンプの主な役割は、電流を流し、必要な消費電力を維持することです。電流が不足するとV=IRの法則によって電圧降下が起こります。音量の小さなピアノ部分では問題なく動作するのに、ドラムが入ると電圧降下するといったことが起こります。
お気付きの方もいらっしゃるかもしれません、ギターやベースで使うDIと理屈は同じで、高音質な電流バッファを作れば良いのです。

結局は自作が安価で高音質

アナログ回路はデジタルに比べて簡単です。特にDIやヘッドホンアンプの設計は、初心者には向いています。
DTMであれプロオーディオであれ、環境はそれぞれ違いますから、自分の設備に合ったモニター環境の自作にトライしてみてください。回路図もいずれ公表しますので、参考にしていただければ幸いです。

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